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山口瞳が愛した江戸料理の老舗  銀座「はち巻岡田」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

江戸の味を継いで100年。銀座「はち巻岡田」

夜の帳がまだ気配を見せない前に、暖簾を潜る。

「いらっしゃいませ」

おかみさんの柔らかい言葉に迎えられて、3席しかないカウンターの端に腰を下ろす。品書きを睨みながら、「枝豆とビールをください」とお願いし、今夜の供を何にしようかと考える。

刺身はカレイにしよう。
「滝川豆腐」と「胡麻和え」も欠かせないな。
そうだ、「岡田茶わん」と「しんじょう揚げ」も頼もう。

その後、年を重ねるごとに、次第にこの店の深さが心に染み入るようになってきた。

銀座の「はち巻岡田」である。1916年(大正5年)に創業し、山口瞳をはじめ、数々の文人や政治家、経済界の重鎮に愛されてきた店である。料理は、今は稀少となった江戸料理を出す。こっくりとした甘辛い味付けながら、品があり、毅然とした“格”がどの料理にも潜んでいる。それでいて気取りのない、江戸の味である。東京の割烹は、すっかり関西風の味に席巻されている。知る限り、江戸の味を継ぐ店は、ここと四谷の「たまる」、神楽坂の「山さき」と「めの惣」くらいである。

初めてこの店を訪れたのは、30代後半だった。実はその時には、この店の良さが理解できなかったのである。

“品”と“粋”を心得た味わい

先月も出かけた。

「私は、東京生まれの人が経営している銀座裏の小料理屋が好きなのであって、そこが『岡田』に通う最大の理由である」

贔屓であった山口瞳は、かつてこう綴った。代を継がれた主人は、れっきとした東京の人であり、3代続く江戸っ子である。寡黙だが、仕事は的確でブレがなく、ともかく早い。

滋味が体の隅々へと行きわたる「岡田茶わん」。何気ないようでいて、味がピタリと決まった「納豆和え」や「春菊のお浸し」。カリリと揚げられた衣と豆腐の柔肌との対比が妙味を生む「豆腐のくず揚げ」。海老の優しさが生きた「しんじょう揚げ」。揚げて土佐醤油で和えた「タラの芽の突き出し」。合わせ酢の塩梅に緩みがない「もずく酢」。細く切られた豆腐が、ひんやり、ふわりと舌の上を滑り喉に落ちていき、清涼を呼び込む「滝川豆腐」。刺身の引き方や大きさが、これ以上でもこれ以下でもなく、実にほどがよく、ほっこりと心を温める。

東京に住んでいてこの店を知らぬなら、東京をまだ知らぬということ

「アスパラの胡麻和え」を食べれば、その甘みが酒を呼び込み、目が細くなる。「アジ納豆」は納豆の風味の奥から、いかったアジの脂が迫ってくる。どれも旨みがいきすぎてない。さらりとうまい。これこそが“品”であり、“粋”であることを心得た味わいである。

僕もこの誠を知るために、年を重ねる必要があった。やりすぎない味は、見識であり、品でもある。あえて一言で表すなら、「地味」であろうか。それは派手の対語ではなく、地に足がついた味である。渋く輝く料理に、垢抜けた、張りのある色気が漂う。江戸料理とはそういうものではなかろうか。

「ああ、時間よ、永遠になれ」と思う瞬間がここにはある。野暮とは無縁の“粋”が貫かれた味に、背筋が伸びる。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

はち巻岡田ハチマキ オカダ

はち巻岡田トリセツ 店は要予約。1階カウンターとテーブル席、3畳の小上がり、2階の座敷席がある。季節によってメニューは変わるが、1年通して出される、初代がすつぼん鍋からヒントを得て考えたという「岡田茶わん」と「粟麩田楽」は名物。冬は「これを食べないと冬が来ない」と山口瞳に言わしめた、「あんこう鍋」もおすすめ。コースもあり、14000円(税別)〜から。 酒は菊正の樽酒。

住所:
東京都中央区銀座3-7-21
TEL:
03-3561-0357
アクセス:
東京メトロ各線銀座駅より徒歩2分
営業時間:
17:00〜21:00 ※営業時間は変更になる場合があります。
定休日:
日曜日
支払い方法:
カード可 (JCB、AMEX、Diners)
URL:
https://www.facebook.com/okadahachimaki/

更新: 2021年3月31日

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