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編集部が訪れた美味しい名店『足跡レストラン』

前情報は不要。今この瞬間を自分自身で体感しよう 下北沢 「Salmon & Trout」

待っているのは無数の小さな驚き 「Salmon & Trout」中村拓登シェフ

「料理は、食べた人が自ら感じて楽しむもの。食べる前に先入観を植え付けてしまうから、コンセプトは掲げない」。そう語るのは、「Salmon & Trout(サーモン アンド トラウト)」の中村拓登(なかむら たくと)シェフ。中村シェフによる日本料理をベースにしたシンプルかつ小さな驚きがある料理と、オーナーカヴィスト・柿崎 至恩(かきざき しおん)氏が選ぶ、風土が見える世界の酒やお茶のペアリングが味わえるこの店には、連日熱狂的なファンが訪れます。目の前の一皿から何を感じ取り、どう捉えるかはお客様次第。他人の感想や余計な前情報は入れず、クリアな状態で訪れてこそ、最大限に楽しめるレストランです。「美味しい」だけに留まらない、新しい食体験が待っています。

料理は作り手を映し出し、お客様が自由に捉えるもの

前編の「シェフの必需品」では、「固定概念やルールに縛られず、今の自分の考えを、日本料理という手法を使って自由に表現する」と語った中村シェフ。しかし、その料理に表した自身の気持ちを、お客様にもまったく同じように感じ取ってほしいわけではないと言います。「たとえば僕の中で、冬の一場面から着想して作った料理があったとします。もちろん、召し上がった方がそれに気づいてくれれば嬉しいですが、必ず気づいてほしいとは思いません。どう解釈するかは、お客様の自由です」。そんな中でも時々、予想だにしなかった感想が聞けることが、新たな発見があって楽しいのだそう。

「Salmon & Trout」では、事前にコースの内容を案内したり、一品一品の料理について細かく説明したりはしません。お客様が自分で感じたり考えたりすることを阻害してしまうからです。情報社会の現代では、いろいろな前情報を仕入れてからレストランに行く人も多いでしょう。しかし本来は、同じものを食べても、生い立ちやライフスタイル、その日の気分によって受け取り方は違うはず。「自分自身で体感すること」こそ、この店の楽しみ方なのです。

メニューは月替りコース一本。春を先取りした2品

メニューは、10品程度の月替りのおまかせコースのみ。今回、中村シェフが用意してくれたのは、2月のコースメニューの中の2品です。「どう捉えるかは食べた人の自由」であるため、本来であればシェフの意図は不問ですが、今回は特別にそのエピソードを教えてもらいました。

黄色と白で表した「春」

月替わりのディナーコースはペアリングとセットで12,000円〜。

まず現れたのは、黄色一色で染まった鮮やかな一皿。「そろそろ春を感じるものが作りたいなと思って、仕立てました。春を連想させる料理は通常、緑色や桜色のものばかりですが、実際はミモザやロウバイ、菜の花などの黄色も春の色の一つのはず。だったら、“黄色い春”があってもいいんじゃないかと思って」。ターメリックを合わせたカリフラワーライスの上に、八朔と陳皮のパウダーを載せた、とてもシンプルな構成ですが、パッと目を引く鮮やかな色と、やや青みがある陳皮の爽やかな香りが非常に印象的です。それぞれの食材が持つほのかな苦みからも、春らしさを覚えます。

八朔や陳皮のみかんは、必需品として紹介してくれた「ONIBUS COFFEE」がきっかけで出会った自然栽培を行う農家さんのものだそう。「“自然栽培だから”ではなく、人とのつながりの中で出会った農家さんであることや、自然栽培ならではの青々しさがいいなと思って使っています。今、青果は糖度至上主義になっていますが、高糖度だけが価値ではない。ネガティブに見える要素も、料理人が長所に変えてあげれば価値になります」。使う食材一つにも、中村シェフの生き様が確かに表れています。

仕上げに振りかけるのはコーヒー糠。日常生活でも、できることからサスティナブルな考えを取り入れているという中村シェフ。

もう一品も、着想は春です。先ほどとは一転、今度は真っ白な一皿が登場しました。一見、雪を模したようにも思えますが、「春の土っぽさを表したかった」と、中村シェフ。「芽吹きの季節と言われるように、土の香りも春らしさ。とは言え今はまだ冬ですし、美味しい蕪が食べたかったので蕪を使いました。蕪の独特の渋みに炭の香りをプラスして、マッシュルームの豊かな香りをあわせることで、今の自分の気持ちが表現できるかなって」。調味は、発酵させたレモンとはちみつ、ペースト状にした豆腐。そして仕上げにふりかけた「ONIBUS COFFEE」のコーヒー滓をアップサイクルした自家製のコーヒー糠が、ほどよい塩味と香ばしさを加え、“春の土っぽさ”を格上げします。糠と炭の香りを抜けて最後に残るのは、はちみつレモンの甘酸っぱさ。雪で覆われた土から、新芽が顔を出した様子を思い起こさせる一皿です。

料理も感じ方も変わって当たり前

料理は、自分自身の思想や考えが表れるものだからこそ、変わっていって当たり前だと中村シェフは語ります。特にこの1年はコロナ禍で、ライフスタイルや価値観が変わった方も多いでしょう。料理が生活の延長であり、人の手から生み出されるものである以上、それが変わらないことはありえないと、シェフ。「僕自身も今はこんなふうに自由な発想で料理を作っていますが、もしかすると10年後には『伝統こそ一番だ!』なんて言いながら、セオリー通りの会席料理を作っているかもしれませんしね(笑)」。

それは、料理を味わう側にも同じことが言えるのではないでしょうか。環境が変われば、美味しいと感じるものや欲する味覚も変わって当然。大事なのは、自分自身で感じて楽しむこと。中村シェフの料理からは、美味しさと共に、新たな食の楽しさを発見できるはず。ぜひ、ご自身で体感してみてください。

*価格はすべて税別です。

Salmon & Troutサーモン アンド トラウト

住所:
東京都世田谷区代沢4-42-7
TEL:
080-4816-1831
アクセス:
小田急電鉄・京王電鉄 下北沢駅より徒歩12分
営業時間:
18:00~24:00 ※東京都の自粛要請などにより、営業時間は変更することがあります。
定休日:
火・水曜
支払い方法:
クレジットカード可(JCB、AMEX、VISA、MASTER、Diners)
URL:
http://www.salmonandtrout.tokyo/

写真・広瀬 美佳 文・山本 愛理

更新: 2021年3月4日

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