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親しみやすさでまた行きたくなる割烹 代々木上原「茂幸」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

高額化が進む近年の割烹市場

最近新しくできる割烹は、高価格である。

コースは25,000円からで、飲み物も入れると30,000円以上、40,000円以上を出さないといけない店が増えた。さらには、50,000円以上、70,000円ほどかかる店も増えはじめた。当然出される料理も、高級食材が中心となる。しかも、どの店も予約が取りづらく、数ヶ月先まで満席である。

それはそれでニーズがあるのでよいのかもしれないが、果たしてそれでいいのだろうかと不安になる。お客さんにますます格差ができ、高級店に行けない人たちが増えていく。たまには少し背伸びして割烹に行こうかということが、できなくなってしまう。今後、割烹は一部の裕福な人たちだけの場所となっていくのか?

京都の老舗割烹のご主人が、そんな現状を見ながら言われていた。

「私ども割烹は、せいぜい22,000円が精一杯です。それ以上の価格をつけることもできますし、高級食材も使えます。でも、それではバランスが悪くなります。日本料理の本質が崩れます」

また、東京でベテランになる割烹のご主人は、こう言われていた。

「食材の値段をそのままお客さんに反映させてしまうのは失礼だし、腕と知恵がないと言っているというものです」

住宅街でひっそり営む。代々木上原「茂幸」

このまま高級化は続くのかと思っていたところ、素敵な店を見つけた。

代々木上原にある「茂幸」である。代々木上原といっても、十数分駅から歩いた閑静な住宅街に、ぽつねんとこの店はある。聞けば、店主の菅野茂男さんのご自宅を改装したのだという。コースは12,000円からで十品前後が出される。

コースの中で最もおもしろいのは、野菜の八寸だろう。八寸とは本来、山と海のものをとり合わせる決まりがあるが、あえて野菜だけで作られている。二段の重箱に納まったある日のそれは、「柿なます、ゴマと一味をまぶしたカブ、椎茸と青菜のおひたし、茹でた落花生」と地味だが、それぞれがしみじみと美味しい。日本料理はやはり、野菜料理を大切にしなくてはいけない。

また、コースには日本料理では定番の煮物椀と向付(お造り)がない。「他店でいただいていらっしゃるだろうから、違うもので楽しんでいただきたい」と言われた。花形となる、この2つの料理を抜いて献立を作る意気込みが潔い。八寸の前に出された、青森の郷土料理のいちご煮をアレンジした素麺もおもしろい。梅が描かれた輪島塗のお椀の蓋を取れば、ウニを載せ、穂紫蘇をまぶした梅色の素麺が横たわっている。下に敷かれているのは、アワビのペーストで、そこにカツオとアワビの冷たい出汁を注ぐ。全体をよくよく混ぜて食べれば、ウニの甘み、出汁の品のある旨み、アワビの香りが渾然となって口の中で広がる。爽やかさと濃密さが合わさった料理である。

「麻布幸村」で修業したご主人の目指す割烹とは?

その他、修業先である「麻布幸村」のスペシャリテで、鱧のエキスが松茸の香りと抱き合う「鱧松茸焼き」や、山椒のアクセントがいい、花山椒タルタルをつけて食べる「太刀魚のフライ」も素晴らしい。

突き出しには、カマスの旨みとハスイモの食感が出合う「カマスと菊の酢和え物」が出された。そのしんみりとした味に、「突き出しの和え物が洗練されすぎていなく、いい意味で少しやぼったかったのが良かったです」と感想を言うと、ご主人は「ありがとうございます。そうなんです。気取りのない、親しみやすい料理を目指しています」と言われた。その一言がうれしい。

器はどれも素晴らしいがさりげなく使われ、おかみさんと二人のサービスも心地よい。贔屓にしたい店が、また一つ増えた。

10月の献立
★「金木犀のお酒」 桂花陳酒を白ワインや酒で割ったもの
★「ハスイモ、カマスと菊の和え物」
★「萩焼蒸し グジと松茸」
★「太刀魚のフライ 花山椒タルタルソース」
★「梅素麺」
★「野菜八寸」

★「鱧松茸焼き」(追加料金)
★「子持ち鮎有馬煮」

★「栗の春巻」
★「松の実味噌と焼きなすと鴨」

★「タチウオと銀杏の炊き込みご飯」
★「洋梨とヨーグルトのシャーベット 洋梨赤ワイン煮」

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

茂幸しげゆき

住所:
東京都渋谷区西原2-17-3
TEL:
070-1372-0319
アクセス:
東京メトロ千代田線 代々木上原駅より 徒歩6分 、京王新線 幡ヶ谷駅より徒歩6分
営業時間:
完全予約制 18:00~21:00(L.O.) ※時間外、ランチ営業は要相談 ※東京都の自粛要請などにより、営業時間は変更することがあります。
定休日:
不定休
支払い方法:
各種カード可
URL:
https://www.shigeyuki0319.com/

更新: 2021年2月3日

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