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静岡から東京へ新規出店。銀座「志翠」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

コロナが変える東京の飲食シーン

コロナ禍の最中、これからの飲食店はどうなるかを、様々に考えた。その中の一つとして想像したのは、高騰化を続ける東京の飲食店は淘汰されるだろう、という予測だった。ご存知のように、今、東京の新しい飲食店の値段は高騰化している。特に、割烹と鮨店の値段高騰が凄まじい。30,000円は安い方で、飲んで食べて50,000円を超える店が増えてきた。

ある京都の有名割烹のご主人が、この現象を見て言っていた。

「確かに野菜や魚の値段も高騰しています。でも、我々が最高の食材を使っても、せいぜい料理の値段としては25,000円が精一杯です」

それなのに、高級食材を並べて30,000円以上の値段をつける店が増え、繁盛している。コロナ渦においては、本質の見直しが求められていくと思うので、そうした店はお客さんが減っていくのではないか?

そう予測したが、外れた。

高価格の店の予約は、相変わらず取りづらい。一番苦しいのは、その下の価格帯より少し安い店のようである。今後も新しくできる店は、高価格の値段をつけていくのだろうか? 高価格が一つのブランドや高品質を示す基準として定着していくのだろうか?

そう思っていたが、最近は少し変わってきているようである。「鮨まつうら」15,000円、「車力門小野澤」13,000円といったように、新規開店の店でも、高価格をつけないような店が増えてきた。この「志翠」も銀座という土地に開店しながら、15,000円からという落ち着いた値段でやっている店である。そして、何よりも料理に細かい手をかけながら、地に足がついた料理を出される。10月の先付けは、小鉢に入れられた「胡桃豆腐 雲丹 どんぶり」だった。だが、その姿を見た瞬間、「また雲丹か」と思ってしまったのである。最初の一品として雲丹を盛り込む店は多い。ある一部の客は喜ぶだろうが、料理として雲丹の意味が成立していないケースを、何回も味わってきた。そのためにそう思ったのである。

コロナの後のニューウェーブ。銀座「志翠」

しかし、この料理は違った。くるみのナッティーな甘い香りと雲丹の甘い香りが共鳴して、新しい美味しさを生んでいる。続いての椀物は「すっほんの月見仕立て」で、すっぽんの汁にさやえんどうと大黒しめじが添えてある。その素朴な取り合わせがいい。

そしてお造りは、用宗の生しらすとサザエが出された。マグロも、白身魚も高級魚もない。こんなお造りの構成は出合ったことがない。しかし、静岡で12年間店をやっていたご主人は、銀座に店を出したからといってやり方を変えず、自らの産地の誇りを出す。その潔さと素直さ、そしてねっとりと甘い生しらすと香り高いサザエは、中秋の海の調べを伝えてくれるのだった。

次の皿は「鱧と松茸の菊花餡掛け」である。

重陽の節句にちなんだ菊花と銀杏にカブ、松茸という里の恵みが、海の恵みと呼応する。続いては、虫かごに入れられた八寸である。「菊菜とアワビだけ車海老胡麻和え」「サバの小袖すし」「甘鯛松皮焼き」「唐墨」「衣被に見立てた萩しんじょう」と、修業先であった京都の名旅館「炭屋」譲りの、手の込んだ細かい仕事が舌を喜ばせる。

強肴は「飛騨牛」で、酢の物は錦糸卵で巻いた幻のカニとも呼ばれる「どうまん蟹の錦糸巻、車海老酢の物、酢取り茗荷」と続いた。強肴の濃い味を切り、ご飯につなぐ穏やかなうまさの酢の物を大切にしている点も、最近の割烹にはない心構えである。

そして、ご飯は「親子丼」である。
新いくらと鮭の親子丼で、どちらも質が高い。

菓子は黒蜜がかけられた、香り高く滑らかな「栗羊羹」だった。

こんな料理をいただきながら、秋への感謝が湧き上がる時間をゆったりと過ごされるのは、いかがだろうか。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

志翠コウスイ

大阪や京都で十数年修業した後、地元静岡で店を開き12年やっていた前田公志さんが今秋開いた店。できうる限り静岡の産物を使おうと、魚に関しては静岡の魚屋から仕入れているという。コースは税サ別15,000円から。文章内で紹介したコースは、品数が一つ多い18,000円。カウンターと個室がある。まだ食べログにも掲載されず知られていないので、狙い目である。

住所:
中央区銀座6-12-14
松岡銀緑館8F
TEL:
03-5962-8053
アクセス:
東京メトロ銀座駅より徒歩3分
営業時間:
18:00~21:00(L.O.)
定休日:
日曜日・祝日
支払い方法:
各種クレジットカード可

更新: 2020年10月22日

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