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RESTAURANT

編集部のお気に入りのレストランをご紹介します

東京を代表するやきとん屋。新宿「鳥茂」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

お気に入りは「混合」と「ピーマンの肉詰め」。新宿「鳥茂」

ピーマンの肉詰め

新宿の「鳥茂」に出かけたのは、今から40年数年前だった。今の場所より駅に近い場所にあって、気さくな雰囲気にあふれた大衆的なやきとん屋だった。

若い胃袋にまかせて、片っ端から頼み、酒を飲んだが、中でも気に入ったのが、「混合」と「ピーマンの肉詰め」だった。

「混合」は、豚の内臓のいろいろな部分を一本の串に刺したもので、様々な食感が楽しめる。一方、「ピーマンの肉詰め」は、洋食屋出身だったという初代が考え出した料理で、ピーマンの青々しい香りとつくねの旨み、タレの甘辛味の調和がよく、笑い出したくなる味わいである。すっかり気に入って何度も通っていてが、十年ほど経って足が遠のいてしまった。

東京を代表する食文化「やきとん」

レバー

移転した「鳥茂」に出かけたのは、8年前である。
店は3代目に受け継がれ、活気溢れる店となっていた。なにより驚いたのは、やきとん自体のレベルの高さである。
やきとんは、東京を代表する食文化である。
大正期、比較的手に入りやすい豚の内臓を串焼きにする店が増えていった。「鳥茂」のように、やきとんなのに「鳥」の文字を使う店は、多い。ブロイラーが輸入されるまで、鶏肉は高級だったため、鶏肉の代わりに内臓肉を串刺しにした店が増えたのである。そのため、東京および関東では「やきとり」というと、ながらく牛や豚の内臓を焼く店も含められていた。

3代目「鳥茂」の素晴らしさ

コブクロとハツ

さて、「鳥茂」のやきとんの素晴らしさだが、3代目店主・酒巻祐史さんによる焼き技と質の高い内臓類の仕入れ、そして、内臓を熟知した酒巻さんによる特選部位を切り出す仕事に尽きる。
たとえば、臭みなど微塵もなく、ふんわりと甘く溶けていく上シロ(直腸)は、串1本で5頭分という、最も軟らかい部分だけを選別している。上シロだけではない。子袋や豚タン、つくね、こめかみ、レバーなど、吟味されつくした肉類を、的確な処理と味付けで活かす。これは、この店だけの精進の味である。

つくね

レバーはコリッと弾んで甘く、3時間茹でてからそのままじっくり冷ましたというテッポーは、トロトロと溶けるように消えていく。ニンニクと黄身で食べる刺身の鉄分が勇壮な牛ハツや、噛んでいくと甘みが滲み出るガツ(胃袋)とコブクロ。優しい味わいが広がる牛と豚と鳥と玉ねぎのつくねや、しなやかで噛んでいくと甘みと鉄分が流れ出す一串が半頭分という豚のこめかみ。

1頭で小さい部位が2つしかとれないという豚の上タン

微かにハムのような燻製香がしてほのかに甘い、1頭で小さい部位が2つしかとれないという豚の上タンや昆布締め焼きにしたガツ焼き。豚のあごの3種類の部位を刺して、クニュ、シコサク、コリコリといった三種類の異なる食感が、甘い脂の香りと共に味わえる顎肉。

黒豚バラのすき焼き

さらに魅力は、やきとんだけではない。
カラシに酢を溶いたものをつけて食べる和牛ロース肉、本所吾妻橋の「豆源郷豆腐店」の甘い豆腐を入れた玉子とタレ、スダチをつけて食べる黒豚バラのすき焼き。
ガス釜で炊いたご飯、ぬか漬けやラッキョウも手抜きがなく、この上なく美味しい。最後の締めの一つ、キャビアのおにぎりは、決してキワモノではなく、卵がいかにご飯と合うのかを教えてくれる。

酒巻さんとスタッフの心のこもったサービス

キャビアのおにぎり

料理だけでなく、サービスも素晴らしい。
店内は約80席で、一晩に約3回転する。そんな店を20人で迎える。いや、表に出ない人も入れれば40人が働いているという。今東京で、こんな大人数を抱えている飲食店は、数少ない。それでいながら、いつ来てもサービスに心がこもっていて、笑顔に嘘がなく、細かい気配りがあって、澱みがない。これはすべて、店主の酒巻さんの心がけである。

「毎日が勝負。試合だと思って臨んでいます。その中で誰よりもおしぼりを気持ちよく出せるなど、それぞれの仕事に誇りを持つように、毎日話し合っています」

酒巻さんは、店を閉めた後、翌日の予約客を見ながら、シミュレーションをする。
「僕らの仕事は、同じことの繰り返しです。でも、お客さんは毎日違う。明日はこういう方がいらっしゃるのか、ならこういうものを出そう。そう考えるのが楽しいんです。結局、僕らの仕事は人が好きじゃないとやっていけないと思います」と酒巻さんは、人懐っこそうな笑顔を浮かべた。

ぜひ、やきとんの概念を変えに、心のこもったサービスを受けに出かけられたい。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

鳥茂トリシゲ

昭和24年創業。まだ戦後の混乱が続く中、新宿駅東口に、コックだった初代(酒巻さんの祖父)が出した屋台が原点。物資が乏しい中で比較的手に入りやすかった豚の臓物を焼き鳥に見立てて出す店が一気に増えた頃で、焼き鳥の“鳥”と、当時の首相、吉田茂から“茂”をとって屋号にしたという。毎晩満席。要予約。特選コースがおおすすめ。 また、虎ノ門ヒルズビジネスタワーにできた新飲食街「虎ノ門横丁」にも分店があり、そこではEREZOの鹿肉をネギマにして出している。これが逸品、ぜひ試されたい。

住所:
東京都渋谷区代々木2-6-5
TEL:
03-3379-5188
アクセス:
JR新宿駅南口から徒歩約2分
営業時間:
17:00〜25:00(L.O. 24:00)
定休日:
日曜日
支払い方法:
カード不可

更新: 2020年7月29日

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