fbpx

RESTAURANT

編集部のお気に入りのレストランをご紹介します

味に現れる料理人の矜持 「乃木坂しん」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

店の骨格を現す「乃木坂しん」の弁当

誠実さは、味に出る。

「乃木坂しん」のお弁当を食べたときにそう思った。弁当というものは、逃げ場がない。弁当箱という空間のデザイン、組み合わせから始まり、構成要素とそれぞれの味わいと量をどうするかなど、緻密な計算が要求される。しかも、冷えてもなお美味しくないといけない。

「ああ、温かったらもっと美味しいのに」と、少しでも思わせてはいけない。手間と時間をかけて、一つ一つの料理をつくり上げながら、メリハリも効かせなくてはならない。味もさることながら、料理人の心構えもすべて現れてしまうのが、弁当である。つまり弁当とは、店の支柱にほかならない。「乃木坂しん」の弁当は、そんな弁当の怖さを知っている者の弁当だった。

料理長の石田伸二氏は、その怖さを知りながら、使命を持って作っているのだろう。弁当を食べながら、猛烈に「乃木坂しん」に出かけたくなって、5月下旬にようやく再開された店に出かけた。

食材と食べる人を思いやった、誠実な料理

付き出しは、「キュウリのすり流しにタコちりとメロン」。

一口で、夏が到来した。キュウリの青い香りと青いメロンの幼い甘い香りに、夏がある。タコの吸盤と足が別々に守られて、それぞれの食感が楽しめる点もうれしい。そしてなにより、全体の旨みが巧みに抑制されている点に品がある。

1皿目は、昨今の割烹のように攻めるものではなく、体に馴染ませるものだという考えが貫かれている。

2皿目は、「イチジク車海老の胡麻和え」。甘みや胡麻あんの濃度バランスがすばらしい。イチジクはどこまでも滑らかで、スキッとした味わいである。聞けば、イチジクの青さを取るためにみりんをかけて、さっと蒸すのだという。

3皿目は、「毛蟹と白アスパラガスの白あえ」。

白あえの地が軽すぎず重すぎず、その淡い甘さが蟹とアスパラに香りと味わいを生かして、すうっと馴染んでいる。食べ終わった後の余韻が、実にきれいである。旨みが残るのはいいが、調味料の味が次に残るのはだめだということを、石田氏はわきまえ、戒めているのだろう。うま過ぎてはだめだとは、このことを言う。

煮物椀は、「オコゼのお椀」だった。

なんと切れ味がいいお椀だろう。余計なものが一切なく、滋味が静かに舌に溶け込んでいく。その中でオコゼの身がホロリと崩れ、甘みを滲ませる。オコゼの出汁と一番出汁に、塩だけで味をつけたお椀である。オコゼだけだと野暮ったくなるのを承知しながら、ギリギリの味付けであり、その潔さとオコゼの力を信じた仕事から生まれる美しさが漂う。

蓬麩、木の芽、じゅんさい、白髪葱。

焼き魚は、金目鯛の炙り、煎り酒ゼリーにふり柚子だった。金目鯛はややもすると、身のだらしなさを感じることがあるが、これにはふくよかさがある。その豊満な脂の甘みを、煎り酒の酸味がほんのりと引き締める塩梅がいい。

次は、「めじマグロ漬け」が出された。なんとも滑らかで、舌と同化するように崩れていく。鉄分は少ないが、身質がエレガントで惚れてしまう。

赤水菜、福井の地芥子添え

焼き物は、「徳島アワビの肝焼き」。

齧れば海の豊かさが、ほとばしる。優しさと野生さが同居したアワビの本領が、口の中でのたうち回る。北海道の長谷川さんがつくった、味の濃いアスパラガスのお浸し添え。

次は、「白甘鯛の銀餡がけと賀茂茄子の揚げ浸し」ときた。

実に品のある味わいである。白甘鯛は、たおやかな旨みを持った魚だが、その魅力を十二分に感じさせながら、茄子皮の香りと出合うと、勇壮な味わいとなるではないか。

ご飯は、「厚岸の牡蠣と新玉ねぎのご飯」が出された。

ご飯が濡れている。牡蠣のジュースで濡れている。これも牡蠣とご飯の量を精妙に計算しているのだろう。牡蠣のエキスの出方が程よく、米の甘みと牡蠣の旨みの抱き合い方がどこまでも自然なのである。

デザートは、「和三盆糖のプリンと抹茶。茂木ビワ」。

これも甘さと香りの統制が効いて、筋が通りながらもさらりとしている。

石田さんの料理の理解者、ソムリエ・飛田さんのペアリング

最後に、この店ではソムリエの飛田泰秀さんのセレクトのペアリングで飲まれることを、おすすめしたい。たとえば、金目鯛の料理にはピノノワールのロゼと合わせた。金目鯛の中に潜む生ハムの香りと煎り酒の梅干し感とピノノワールのロゼが優美に出合う。

あるいは、メジマグロには、磯自慢の中取り大吟醸純米を合わす。吟醸香優しく、力強いこの日本酒が、マグロの滑らかさと強さと見事に溶け合う。さらにアワビには日本酒が恋しくなるが、ジュラのワインと合わせると、その酸化熟成された味わいが、アワビのエレガントさと色気を膨らませる。

こうして石田さんの料理の最大の理解者である飛田さんによって、我々に新たな世界を覗かせてくれるのである。石田さんの料理は、どれもすきっとしている。肩肘張らずに、我々の心に澄んだ食材の味が伝わってくるからである。それこそが、食材と食べる人を思いやった、誠実なのである。

※お弁当は現在も継続中です。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

乃木坂 しんノギザカ シン

乃木坂 しん

住所:
東京都港区赤坂8-11-19
エクレール乃木坂1F
TEL:
03-6721-0086
アクセス:
東京メトロ千代田線 乃木坂駅1番出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・都営大江戸線 六本木駅より徒歩10分。
営業時間:
[ 平日 ] ディナー: 17:30~23:00 (21:30 L.O.)、[ 土曜、日曜 ] ランチ : 12:00~15:00 (13:30 L.O.) 、ディナー: 18:00~23:00 (21:30 L.O.) (ランチは土日のみ営業、前日までの予約制)
定休日:
毎週月曜、日曜不定休
支払い方法:
各種カード可 (Diners、VISA、Master、JCB、AMEX)
URL:
https://www.nogi-s.com/

更新: 2020年6月27日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop