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「京味」の精神を注ぐ料理 新橋「味享(みたか)」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

新橋「味享」

「京味」出身の井上享俊さんが弟さん夫婦と、同じく「京味」出身の「星野」に移転後に、同じ場所で出された店。 コースは3万円。カウンター7席のみ。要予約。

ムースのように崩れる蕪の焚き物

締めのご飯の前に出されたのは、蕪の炊き物だった。

少し中をくり貫いて、海老と大黒しめじが詰められている。 箸を入れると、蕪に吸い込まれるように入っていった。 口に運んで噛むと、ムースのように崩れていく。 ようやく形を保つギリギリに、蕪が炊かれている。

甘く、香り高く、蕪にまだ命があって、歯を招き入れ、包み込んでいるかのような躍動がある。 それでいてどこまでも静かな、楚々とした品がある。噛んでいけば、蕪の優しき甘みを活かす淡い味付けの中から、食欲を掻き立てる香りが、ほんのりと香った。それは微かなアクセントであり、密やかに色気をつける化粧であり、心を傾けなければ気がつかないような、揺らぎである。 聞けば、鯛の中骨を一緒に炊いているのだという。 

日本料理で一番難しい野菜料理

今まで出された、蟹や鯛、甘鯛やブリは、この野菜の美味しさを引き立てるためにあったのではないか。そう思わせるほどの格があった。また、途中で出された根芋の炊き物も、うますぎず、歯ざわりを活かした炊き加減が、しみじみとおいしい。 

食事が終わって、蕪や根芋の炊き物が素晴らしかったと伝えると、若きご主人は言われた。 

「ありがとうございます。親父さんはことあるごとに言われていました。野菜料理が一番難しい。高級食材は、少し手を入れるだけで形になるが、野菜は同じ季節の同じ野菜でも、ひとつひとつ個性があるので、難しい。日本料理の料理人は、野菜料理の習得を目指さなくてはいけない」

親父さんとは、「京味」の故・西健一郎さんのことである。 

「味享」のご主人・井上享俊さんは、長年「京味」で修業され、2019年に独立してこの店を持たれた。 

「私もなんとか炊き物だけは一人前になりたいと、7年間、親父の横で炊き物を教わりました」

野菜料理を大切にする若い料理人が出てきたことが、なんとも嬉しい。もうこの姿勢だけで、通いたくなった。最近の若い人が出す割烹は、高級食材オンパレードの店が多く、悲しくなっていたので、なおさらである。

旬の食材を、緩急をつけ「味享」のコースに

12月にいただいたコースも、緩急をつけた、心温まる料理だった。 

最初は、引き上げ湯葉と振り柚子が入った白味噌椀である。熱々のお椀が、冷え切った舌を緩め、喉を開いていく。 

次はおしのぎの飯蒸しで、珍しく少し火を通したイクラが入れてある。 前の晩から漬けたという淡く味がついたもち米と、半生に火を通されたことで生感が消えて甘みが増したイクラが合う。次が、津居山のゆでズワイガニとこのこで、冬の贅沢が舌に染みる 

そして、「芽芋の葛煮」である。 贅沢の後の質素は、互いを活かす。  

その後、珍しい「ホッキ貝葛粉揚げと芹の天ぷら」が出された。 ほっき貝のわたがカーブを描いて色気を感じさせ、衣に貝の旨みが染みている。揚げた貝は、焼くよりも旨みを強く感じさせる。 次は、そぎ切りではなく、薄いヒラ造りにされた、明石鯛のお造りである。 切り方がいい。厚みがいい。 食べやすく、12月の鯛の脂を素直に受け止められる切り方である。 

続いて煮物椀が出された。 昆布で作った船の中に、甘鯛、もってのほかなどが入っている。 甘鯛はねっとりと甘く、食べ進んでいくと、次第に昆布船から旨みや酸味が溶け出て味が変わっていく。 その変化の具合が楽しい。 楽しいが、手間がかかり大変でしょうと尋ねると、井上さんは言われた。 「はい仕込みが大変です。でも、こういう昔の仕事を残してきたいんです」 。

続いては、焼物の「氷見のブリ 柚子幽庵焼」だった。 

堂々たるブリにはぐんと脂が乗って、幽庵地の旨みと抱き合って、舌に迫ってくる。 はじかみも何も置かない、シンプルな盛り付けが潔い。 

そして、先の蕪の炊き物である。 締めのご飯は白ご飯で、牛肉しぐれ煮と小玉スイカ奈良漬けが添えられる。 「まだお腹に余裕がありますか」と、聞かれるので、「もちろん」と答えると、 大間マグロの鉄火丼が出された。 剛毅である。 

分厚い切り方なので、よく咀嚼する。すると、マグロの鉄分を感じ、ご飯を猛然とかき込みたくなる味になる。 

そして、最後はひんやり、さらりと、わらび餅で締めくくる。

食べて思う。 

都内に「京味」出身の割烹は多くあるが、最もその精神を注いでいるのは、井上さんではないかと。 

季節ごとに通わなくてはならない店が、また増えた。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

味享ミタカ

住所:
東京都港区西新橋1-18-8 報徳ビル 1F
TEL:
03-6812-7168
アクセス:
東京メトロ内幸町駅より徒歩2分
営業時間:
18:00〜23:00頃(一斉スタート)
定休日:
日曜日・祝日(その他に不定休日あり)
支払い方法:
クレジットカード可(VISA、master、AMEX、JCB、ダイナース)

更新: 2020年2月4日

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