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おやっ、なんだなんだ、この天ぷらは? 麻布十番「てんぷら前平」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

「てんぷら 前平」

「山の上ホテル」で料理長を9年間務めた前平智一氏が、2017年9月に独立開店。日本酒に合う天ぷらを目指されているようで、定番酒として用意している「王祿」との相性の良さが光る。ワインの品ぞろえも多数。コースは1本で、おまかせのコース20,000円(税別)のみ。

天ぷら店の数が昔から増えない訳は?

鮨、蕎麦、天ぷら、うなぎは、江戸を代表する料理である。どの料理も、江戸時代末期に現代に伝えられている料理とほぼ同じ状態で完成し、以来約200年間伝承され、繁栄している。

このうち鮨と蕎麦は、年々多くの店が開店しているが、うなぎと天ぷらはなかなか店が増えなかった。うなぎは資源減少の問題もあろう。一方、天ぷらは油を使うために現代では受けない「重い料理」という間違った印象と、準備や技術が困難なために増えなかったのではなかろうか。

また、鮨や蕎麦が次々と新しい魚や仕込み方法、提供の仕方が開発されているのに対して、天ぷらは旧態依然としている点が否めなかった。

とうとう出現! 新しさを模索する天ぷら屋

しかし最近、新しい概念を取り入れた天ぷら屋が増えてきているのである。その急先鋒の一つが、「てんぷら前平」である。

店主の前平智一さんは、天ぷらの名店と知られ、多くの優秀な天ぷら職人を輩出している「山の上ホテル」で修業した後に独立された方である。基本の技術は確かな上に、膨大な数の天ぷらを揚げてきた方である。しかし、従来の仕事を見直し、もっとおいしくできないかと、常に考え続ける人でもある。

真っすぐではない海老!! その味はどうなった?

その代表的な仕事に、天ぷらの華である海老がある。多くの店では、海老の天ぷらはすくっと真っすぐに、背が伸びている。揚げる前に海老の筋を伸して(断裂させて)から、揚げるからである。

ところが「前平」では、少し曲がっているだけである。「真っすぐになるように揚げないとダメ」と、修業先では厳しく教わってきたという。だが前平さんは、果たしてそれで海老の味は生きるのだろうかと、考えたのである。

そこで一か所だけ筋を外して、後は切らずいじらず、揚げてみた。筋を切ってない分、歯ごたえが逞しくなった。そして、噛む回数が増えたことによって、ぐんぐんと甘みが膨らんでくるである。

海老をグッと噛む。噛む。噛む。

咀嚼力に挑戦しているかのような海老を、グッと力を入れて噛む。噛む。噛む。甘みが溢れて、顔が緩んでくる。こうして、海老の生命力を鼓舞するような、誰もやっていない天ぷらが生まれた。

ほかの天ぷらも、しめのご飯に至るまで、一つ一つその思想が貫かれている。それでは6月末の、ある日のコースで出された天ぷらを順番にご紹介する。

1. 1週間寝かせた5キロのアオリイカ。モチっとした食感で甘みがほのか、少し色気を感じる。

2. 伏見唐辛子は、目の前に置かれただけで青い香りが立つ。何よりもみずみずしい。生に衣をつけただけのようなイメージ。肉厚である。

3. 海老の頭

4. 海老

5. ペーストにした枝豆の中に30秒茹でた枝豆を鋳込んだ天ぷら。熱せられた豆の香りの高さ。軟らかいが茹でたてとは違う、豆豆とした香り。

アオリイカ、伏見唐辛子

6. 香りが甘く艶かしさがあるキス。

7. 紫アスパラガスは、緑と違って、一筋縄ではいかない甘みがある。紫キャベツ的な感じもある、年増な魅力を伴うアスパラだ。

8. アワビを肝醤油か塩で。熱せられたコリコリ感に色気を感じる。

9. 去年の秋に収穫したというというインカのめざめ。水分が抜けて純粋な甘みだけが際立ち、油の香りが生きる。

10. 白ナス(牛久産)は、噛めばほとんど繊維がないかのように、てれんと舌の上で溶けていく。天つゆと衣、油のコクでその繊細な甘みが光る。

キス、白ナス

11. ハモは花山椒で。加熱によってグッと甘みが増している。

12. ハモの骨出汁。湯引きして1時間ゆっくりと。

13. インゲンの紫蘇巻き。紫蘇の香りとインゲンの食感がよい。

14. 頭だけを素揚げにした稚鮎。

15. マッシュルーム。食べ方としてはベストではなかろうか。噛めばほくっとして、生々しさもありながら、香りが最大級に出ている。

ハモ、マッシュルーム

16. ウニ紫蘇巻き

17. ギンポウは、天ぷら好きにはたまらない逸品。煮ても焼いても美味しくない、天ぷらにして初めてその真価を発揮する魚が、緑がかった茶色の皮目を輝かせている。中心に入ったオレンジと赤い線が美しい。しっかりとしぶとい肉のため、噛めば湯気が立ち上って、メイプルシロップのような太く甘い香りが鼻に抜ける。その香りに目を細めていると、身がハラハラと崩れ舞い、今度はカラメルのような香りを伴った甘みがゆっくりと顔を出す。高温の油でいじめ、余分な水分を抜いて生まれる甘みを知っていた江戸時代からの智慧の味が、生きている。

18. 新蓮根と小柱のかき揚げの冷やし出汁天茶。冷たさと熱さが入り混じる中で、蓮根と小柱の甘みが輝く。

ギンボウ、新蓮根と小柱のかき揚げの冷やし出汁天茶

どうです! 天ぷらの概念を少し変えに、「前平」に出かけてみませんか。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

てんぷら前平

住所:
東京都港区麻布十番2-8-16 ISIビル 4F
TEL:
03-6435-1996
営業時間:
17:00~22:30 (L.O20:30)
定休日:
日曜日・祝日
支払い方法:
カード可 (JCB、AMEX、Diners)

更新: 2019年8月29日

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