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寿司に薫らせる次郎のエレガンス 銀座「すきやばし次郎」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

「すきやばし次郎」

コースは20貫で40,000円(税別)。たとえばある日は、ヒラメ、スミイカ、シマアジ、赤身、中トロ、大トロ、コハダ、鮑、アジ、車海老、さより、赤貝、カツオ、蛤、鯖、うに、小柱、イクラ、穴子、玉子の順。どれも最上。握りは扇子の地紙型に握られ、酢飯はどれも333粒から334粒という無類なき正確さを誇る。予約方法は、お店にお問い合わせを。

香りとキレの赤身、気品の中トロ、甘い記憶の大トロ

マグロの赤身は握られて、黒い寿司板に置かれると、ふっと沈んだ。
ずっと、眺めていたい。
手をつけるのが躊躇われるほど、美しい。
だが、愛でている時間はない。
置かれた瞬間に、間髪を入れずにつかんで口に運ぶ。
前歯で噛んでから奥歯で噛み、握りを舌で持ち上げ上顎でつぶすようにして、食べる。
ああ、なんとキメが細かく、しなやかで滑らかなのか。
爽やかな血の香りに酢飯の香りが寄り添い、鉄分の滋味が舌を刺す。
そして最後は、再び鉄分の香りと酸味が膨らみ、心地よい余韻を残しながら、喉に消えていく。
香りとキレの良さで粋な風が吹き抜ける。
これぞ、江戸前寿司の醍醐味。

次は、中トロである。
綺麗な脂がのった中トロは、口に運ぶと、一瞬にして舌と同化して抱き合う。
それほどまでに滑らかで、微塵のひっかかりもなく、脂の甘い香りで誘惑をしてくる。
気品とは、この中トロのことを指すためにある言葉ではないだろうか。

そして、大トロが置かれる。
口に運んだ瞬間は、脂など無きかのようなさりげなさだが、舌の温度で緩み始めたマグロから、甘い脂の香りが膨らみ始め、陶然とさせる。
しなやかな身はたっぷりと脂を抱えているが、微塵もくどさがない。
こうして大トロは、脂の甘い記憶だけを残し、鮮やかに、軽やかに消えていく。

いなせなコハダ、切なさを抱きしめるシンコ

その次には、コハダが出される。
マグロの脂をコハダの酸味で一旦切って、また新たな握りに向かわせるためである。
最近の寿司屋は、コハダの締め方が淡い。
それを食べて「ジューシーだ」などという人がいるが、それでは酢飯とは合一しない。
「すきやばし次郎」のコハダは、しっかりと締めてある。
まず何よりも、コハダに力がある。
酢も深く行き渡っていながら、出過ぎることなく、酢飯と見事に調和する。
そして喉元に落ちる時、キュッと喉が鳴るような、一陣の風が抜けていく。
艶めかしいのに男っぽい、いなせな味わいが舌を刺す。
これぞ江戸っ子が好む味わいなのである。

7月の終わりなら、シンコが出されることもあろう。
「シンコは2枚づけくらいの大きさじゃないとね」と言って、小野二郎さんは握ってくれる。
最近よく見かける、4枚づけや6枚づけは、そりゃあ可愛い。
でも、やはり味わいは出てこない。
しっかり締められたシンコは、コハダの風格がかすかにあって、拙い粋を忍ばせる。酢飯と軽やかに舞いながら、喉に落ちかかる刹那、青草のような爽やかな香りを残して消えていく。切なさとは何かと言いたげに。

穴子は春の陽だまり

握りの最後は、穴子である。
見事に太った穴子がふわりと唇に当たると、そのまま噛むでもなく消えていく。
極限まで軟らかく煮た穴子をそっと握る。
空気を含んではらりと散る酢飯と、淡雪のように溶ける穴子の出合いに、陶然となる。
消えた後には穴子の旨みの余韻が、春の陽だまりのように、いつまでも舌を温める。

二郎さんの寿司は、生きている

「『すきやばし次郎』のお寿司は、どういう風においしいのですか?」
そう、よく訊かれる。
一言では言えない。だが、無理を承知でまとめれば、それは「エレガンス」ではないだろうか。すべての握りに、エレガントな色気を感じるのである。

たとえばヒラメの握りを食べたとしよう。
口に運ぶ。舌に人肌の酢飯が触れる。ゆっくりと噛む。するとヒラメが、かすかに抵抗しながら悶え、和やかな甘みを滲ませながら、崩れていく。
そこへ酢飯の丸い香りと穏やかな米の甘みが抱き合い、戯れる。ハラハラと崩れゆく酢飯とヒラメが、舞いながら、やがて小さくなり、別れを告げる。

小野二郎さんの握りには、垢抜けて張りのある色っぽさが満ちていて、食べた瞬間に恋に落ちる。
これは、生きている寿司ではないかとも思う。魚も酢飯も生きている。だから色気に満ち、気品に満ちたエレガンスがある。エレガンスがあってこそ、初めて人の心は揺さぶれるのではないだろうか。

その一端は、どの握りも、タネと酢飯が同時に無くなっていく不思議ではないか。
小さな断片になったタネと数粒になった酢飯が、同時に消えていく。どちらかが、際立って残るということがない。
噛む必要のない穴子でも、噛む回数が多い蛤や鮑でも、同じなのである。多くの寿司屋を食べ歩いたが、この感覚は他にない。

寿司の革新者・二郎さんが編み出した江戸前の仕事

見えない仕事が、随所に込められている。
たとえば他店では、アジやカツオの上に生姜などをのせるが、それでは食べにくく、うまさが半減すると、ここでは中に入れて握る。だがそうすると、生姜から水分が出て、酢飯がほどけてしまう。そのため、「包むように、蓋を閉めるように」、酢飯を握るのだという。
これも小野二郎さんが独自で編み出した仕事である。その他、茹でたてで温かい車海老、塩を使わず1時間ほど揉んで茹で、生温かい状態で出すタコ、蒸し鮑、藁の弱火で炙るカツオなどの仕事は、すべて小野二郎さんが生み出した。

革新者なのである。94歳となった今でも、もっと美味しくなる方法はないかと考え、そんな夢をよく見るという。
日々の仕事を点検しながら、常により良き、新しい道を模索する。
「すきやばし次郎」の寿司は、こうして培われ、現在も進化している。

「エレガント」の語源はラテン語で、「注意深く丁寧に選ぶ」「選択する」という意味だという。確固たる自信と軸の中で、現状に決して満足せずに、常に自分にとってベストな選択をし続ける。
そう。理想を追い続けているからこそ、94歳の職人が握る寿司は、限りなくエレガントなのである。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

すきやばし次郎

すきやばし次郎

住所:
東京都中央区銀座4-2-15 塚本総業ビルB1階
TEL:
03-3535-3600
アクセス:
東京メトロ銀座駅C6出口より徒歩1分
営業時間:
月~金曜/11:30~14:00、17:00~20:30(17:30と19:00の2部制) 土曜/11:30〜14:00
定休日:
日曜・祝日、土曜夜
支払い方法:
クレジットカード可(VISA、MASTER、JCB、AMEX、Diners Club)
URL:
https://www.sushi-jiro.jp/

更新: 2019年7月25日

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