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懐石の心、それは「辻留」の心 赤坂「懐石 辻留(つじとめ)」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

「辻留」

明治時代から三代にわたる、日本を代表する割烹。この赤坂と仕出し専門の店を京都に構える。初代、辻留次郎が裏千家の家元に手ほどきを受け、京都に店を構えたのが「辻留」のルーツ。今も茶道裏千家のお茶時を引き受けている。二代目辻嘉一氏の時、東京に進出、初めて仕出し以外の飲食店を出す。現在の主人は、北大路魯山人に師事した、三代目となる辻義一氏。昼は松花堂弁当10,000円のほか、コースは15,000円から35,000円。夜は25,000円から43,000円。部屋のみ。

懐石の真の意味を知る店

辻留の料理長を務める石井さん。

懐石の心は、三つある。

一つは、旬のものを使う。
一つは、持ち味を活かす。
一つは、食べる人を思いやる。

僕は、そのことを「辻留」の三代目である、辻義一さんに教わった。そして、多くの割烹や日本料理店に行く度に、この三つの心を思いやる。

言葉にするのは簡単だが、しみじみと美味しい煮物椀のように、奥深く、複雑で、真意を考えれば考えるほど、難しい。だが、「辻留」に来れば、その答えがある。僕の心が、その三つに触れられなくて、しばらく砂漠を彷徨よっていたとしても、「辻留」で、お軸を見、生け花を眺め、料理を味わううちに、さわさわと清流が流れ込んで潤い、真の意味と対峙することになる。

“食材を活かす”ということの答え

「先週まで、キュウリは少し苦くてダメでした」。料理長の石井さんは言った。たかがキュウリ、されどキュウリである。本来の“旬”が狂う中で、情報に惑わされず、真っ白な心で、毎日届く食材の声に耳を傾ける。それこそが、“旬のものを使う”ことなのだろう。

「持ち味を活かす」「食材を活かす」とは、どんな料理人も使う言葉だが、これほど真実を求めることが難しい言葉はない。

味付けを軽くして、そのものの味や香りを活かすことがそうなのか?

それなら、冷たいトマトを生のまま出した時に、どの温度で出すのがよいのか。食材の味より、美味しくし過ぎてはいまいか?

あるいは、食材の味をわざと壊すことによって、本質が見えて来ることはないか?

豪華な食材を加えたり、飾り過ぎたりして、主役の味がボケてはいまいか?

その答えが、「辻留」にある。

焼き魚には添え物がなく、食べる人がその魚に集中できる勢いがある。

お造りのツマもわさびも、煮物椀のツマも同じようにして、必要最小限であり、味を活かす必然が貫かれている。

「おいしいの初心」とは?

そして、食べる人を「思いやる」である。

お椀をいただいた時、微かにいつもより濃いと思った。

「今日は若い方がご一緒だと聞いたので、いつもより少し、しんみりめ(濃いめ)にしました」

食後にお話を聞くと、石井さんはそう言われた。

食べる方は何歳か?

今日の外の温度は、天気はどうなっているか?

どちらからいらっしゃっているか?

様々なことを頭に入れながら、料理に思いやりを入れる。それは、これ見よがしではないから、気がつかない人の方が多いかもしれない。しかし、虚心坦懐に味わえば、岩に染み入るかのようにゆっくりと、その優しさが体の隅々にまで行きわたっていく。ここには見た目の豪華はない。上っ面の贅沢もない。素直に、精神を洗って食べてこそ気づく「おいしい初心」がある。だから僕はこの店に来るときは、身を清め、体を整え、店の前では、大きく深呼吸をしてから入る。込められた三つの心を、ひとしずくも逃さないために。

初夏の薫りを纏う献立

初夏の献立から、「石がれいのお造り」。細胞が生きている。ほの甘い滋味がじっとりと舌にのって来る。

「鱧と管ごぼうの煮物椀」。大きな鱧が、ふわりと崩れ、旨みがじわじわと涌き出でる。まだ青い新ごぼうの香りと、精力を誇らんとする鱧の香りが出合う、初夏の切なさがたまらない。

「胡麻豆腐 じゅん菜」。クライマックスである煮物椀をいなすような、涼。夏の到来が静かに忍び寄る。食感の対比がいい。

「賀茂茄子の揚げ出し、糸ガツオ」。油を吸ったナスの甘みが、濃い煮物の地とともに、心を温める。

「鮎の塩焼き、蓼酢」。自らの持つ脂で中骨や頭までカリリと焼かれながら、身はしっとりと仕上げられた鮎の塩焼き。魯山人の器は、清流で鮎が群れ遊ぶ様子にも見える。

「キュウリとアワビ、寿海苔の酢の物」。今、日本の割烹で酢の物が出されることは少ない。おそらく地味で、お客さんもあまり喜ばないからだろうか。しかし、今までの料理を洗い流し、新たにご飯へと向かわせる酢の物は、日本料理の流れの句読点であり、自分自身は主張しないものの、起承転結の重要な役目を背負っている。主役はアワビではない。そのしなやかな身は、キュウリの瑞々しさと香り、歯ごたえを立て、傍らにいる。また寿海苔(水前寺のりを固めたもの)は、香りをそっと忍ばせて、緩やかに風味を膨らます。そして何より、凡百の酢の物とは違う、淡い淡い味に仕立てた三杯酢が、初夏に爽やかな風を送る。

「しそご飯、麩の赤だし味噌汁、お新香」。しその量が素晴らしい。出過ぎず、ご飯の香りを立てながら、時折香らせる程度の量であり、極細に切られている。冷たすぎない温度もいい。

その後、水菓子「さくらんぼ」、和菓子では「手毬花」、お薄が出されて終わる。お軸は、熊谷守一の書で五味を表したもの。酒器は、小林東五、茶碗は、鵬雲斎の高麗茶碗であった。

目を閉じれば、体の中に初夏への感謝が湧き上がる。心がすっと座って、背筋が伸びた。外食続き、ご馳走続きの毎日だが、ご飯をいただく意味を考えさせられる「辻留」は、僕のメモリをゼロに戻す場所なのである。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

懐石 辻留

住所:
東京都港区元赤坂1-5-8 虎屋第2ビル B1F
TEL:
03-3403-3984
アクセス:
東京メトロ赤坂見附駅より徒歩5分
営業時間:
12:00~14:00/17:00~21:00(L.O)
定休日:
日曜日
URL:
http://www.tsujitome.com/

更新: 2019年6月29日

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