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ヴァンナチュール、魅力の真髄を知る男 外苑前「Le chêne(ル・シェーヌ)」| 山脇りこの行かねば損する東京のビストロ

ビストロってなんだろ? フランスで言うところの、気楽に食べて飲める、日常づかいのお店。語源はパリにいたロシア人が「ビストロ(早く!)」と言って、料理を急がせたからという説も……。肩ひじ張らずに、食べて飲んで、幸せになる、そんな東京のビストロを、ヴァンナチュール好きの料理家、山脇りこさんがご紹介します。

外苑前から徒歩5分の「Le chêne」。本物の自然派ワインのビストロ。

「うちでは、きれいなワインしかお出ししません。」

はじめて「Le chêne(ル・シェーヌ)」のオーナーソムリエである飯野瑞樹さんにお会いした時、怒られた。半分、真顔だったと思う。

それもそのはず、飯野さんは、「ヴァンナチュール/自然派ワイン=暴れん坊で時々ヤバイワインも仕方ない」と思っていた私が、「ごめんなさい~」と謝りたくなるほど、完成度高く、バランスよく、“きれいなナチュール”を出してくれる。今や私がいちばん信頼している、ヴァンナチュールの先生、ひそかに師匠と仰いでいる人だ。

飯野さんの選ぶワインには全幅の信頼を寄せている。

ヴァンナチュールの父のもとで働いた人に会いに行く

思えばヴァンナチュールなるものに出合ったのは、今から15年ほど前。某フランス料理の学校でのこと。クラスが終わり、毎回、最後の試食の時にワインが出るのだけれど、これがまずい。なんか、謎な匂いがする。私は、“馬糞の匂い”と呼んでいた。しかも、ジュース? って感じでアルコール度数も低い。聞けば、できるかぎり自然な方法で育てたブドウで、造り手によっては月の満ち欠けに準じていて、手摘みして、天然酵母で、フィルターにもかけていなくて、亜硫酸塩も入れていない、云々……。それを聞きながら、頭では理解しつつも、「うむ、しかしこれはワインなのか?」と思っていた。

開眼させてくれたマルセル・ラピエール。ボジョレー、ヴィリエ・モルゴン村のワイン。

その2,3年後、衝撃的にうんまい、惚れぼれする赤ワインに出合った。聞けば、マルセル・ラピエールという、ヴァンナチュールの造り手が造った、ボジョレーの(!)モルゴン村のワインだという。しかも、たくさん飲んだのに、翌朝爽快!(ここ大事。)すっかり魅了されて、以来、マルセルのワインを探し、別人になったかのようにヴァンナチュールばかりを飲むようになった。少しお勉強もして、マルセルが「ヴァンナチュールの父」と言われていたことも知った。自然派とされるワインたちが、日々進化を遂げていることも身をもって感じた。

飯野さんとマルセルの畑

冒頭のやり取りは、そのマルセルのもとで働いた人が東京にいて、広尾でお店をやっている、と聞いて、走って! 行った時のものだ。当時はまだ当たりはずれがあったから、「あ、ちょっと還元臭がするようなワインでも大丈夫です」と、生意気なことを言ってみた私への、マルセルの弟子、飯野さんの返事だった。

ソムリエだった飯野さんは、ほぼ身体一つでマルセルの畑に飛び込む。フランス語も当時はままならなかったそう。ワインは確かに素晴らしい、しかし、永遠に続く地味で単純で、だけど気が抜けない畑仕事。毎日、その連続。終わると、マルセルが「Un Coup(アン・クウ)!」と声をかけてくれて、みんなで空の下、シンプルな料理と、自分たちのワインを楽しむ時間がこの上なく幸せだったそうだ。

そしてこの呼びかけ、「Un Coup(一杯どう?)」は、飯野さんの店の名前になった。私が初めて訪問したのは、その店だったのだ。壁には、今は亡き、マルセルの似顔絵や来店時のサインがあった。

「Le chêne」の前のテラス、花と緑がむかえてくれる。

思い出すとニンマリする、健やかでまっすぐな料理

そして、2018年、「Un Coup」のスピリットをそのままに、飯野さんは、よりカジュアルに、私たちがより自由に楽しめる店をつくった。それが「Le chêne」。樫の木の意味だ。大きな樫の木の下に集まって、ぐびぐびワインを傾ける、みんな笑っている、そんなビジュアルが浮かぶ。ヴァンナチュールのみを提供する店が数ある中で、正統派の“ザ・ビストロ”だと思う。

飯野さんチョイスのナチュールが並ぶセラーとメニューの黒板。

黒板に手書きされたメニューは、ワインと足並みをそろえるように、有機野菜や自然な形で育てられた肉、自家製のソースや調味料、ていねいに作られたシャルキュトリ。金柑の白和えや、アスパラとイチゴのサラダなど、日本ならではの季節感満載で、ちょいとひねりが効いているのもうれしい。

レバーペーストは塩味きつくなく、いくらでも食べられそうで怖くなる。

ピッカピカに磨きこまれたキッチンで料理を作るのは、東海美佳シェフ。カウンターは、料理ができるまでをワクワクしながら見られる特等席だ。私は、料理には性差が如実に出ると思っている。美佳シェフの料理は、骨太なんだけど、女性シェフならではの“中に潜む身体思い”を感じる。食べ飽きないだけでなく、毎日食べても大丈夫という信頼感。これ以上入れたら、さすがに身体にささるっていう塩足しはしない。反芻してにんまりする味だ。ついでに言うと、淡々としたキャラも、なんか後からくる感じで、たまらない。

この豚が焼きあがるまで、シェフの無駄のない動きを見ながら待つ、ああ、至福。

ワインは、ここでは飯野さんにゆだねることをおすすめする。特にもし、ヴァンナチュール1年生だというなら、これ以上の店はない。私が言うのもなんだけど、はじめて出合うナチュールはとても大切だと思うから。ともかく、苦手な味わいがあればそれだけを伝えて待とう。まちがいなく、料理とベストマッチで、しかし、一筋縄ではない1杯がでてくる。一口味わって、「ほうー!」と。しばしおくと、グラスの中で予期せぬ変化が起きていて、再び唸る、そんな経験も何度かした。おもしろいんだ、これが。

春の終わりだけのメニュー、イチゴとアスパラ。さて、どんな白が?

月曜日からぐびぐび飲んで、次の日の活力に

昨年、そのヴィリエ・モルゴン村を訪ねた。マルセルとともにナチュールを造ってきたジャン・フォワヤールのコート・ド・ピの畑で、成長しても膝上くらいの低いブドウの木を見ながら、「ああ、飯野さん、このあたりでワインと格闘していたんだなー、腰痛いよなー、大変だっただろうな」と、思った。でも、「かけがえのないヴァンナチュールの父との時間、プライスレスだよな」と、しみじみ思った。そこで、フォワヤールのマダムが、「毎晩、マルセルたちと飲んでいて、翌朝に残らないワインを造ろうよ!って話になったのよ」と言った。えっ、えーー! 私がナチュール飲む理由と一緒じゃん!

デザートのノスタルジックなプリンもおすすめ。

「ル・シェーヌ」は、だから、月曜日から行きたい店だ。料理ももたれない、ワインも残らない。ただただ幸福な余韻だけが満ち満ちて、翌日もごきげんが持続する。もちろん、週末の午後飲みもおすすめ。テラスもいい。

あ、そうそう、飯野さんは、かのワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の先生でもある。いっしょに自然派ワインを訪ねる旅や、モルゴン村のナチュールを飲み比べる会、なんていう企画もあるから(たぶん)、ますます楽しみだ。

山脇りこ

山脇りこ

料理家。東京・代官山で料理教室「リコズキッチン」を主宰。雑誌、テレビ、ラジオなどでも活躍中。「グルマン世界料理本大賞2014」で「昆布レシピ95」がグランプリ受賞。「明日から、料理上手」(小学館)、「いとしの自家製」(ぴあ)など著書多数。旅好きで、美味しいものがあると聞けば、どんなに遠くてもでかけていく、食いしん坊。http://rikoskitchen.com/

Le chêneル・シェーヌ

住所:
東京都港区南青山2-13-15
TEL:
03-3470-7377
アクセス:
東京メトロ外苑前駅より徒歩2分
営業時間:
ランチ/11:30~14:00 ディナー/17:30~23:30(L.O. 22:00) ※土曜・祝日 15:00~21:00 L.O.
定休日:
日曜日、隔週土曜日
URL:
https://www.le-chene-aoyama.com/

更新: 2019年6月13日

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