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「はし本」で鰻を食べる訳 日本橋「鰻はし本」|マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

鰻はし本

4代目となる橋本正平さんが営む鰻屋。本来は街場のいたって普通の鰻屋だったが、橋本正平さんの代から改革を始め、人気店となった。全国の生産者を巡り、健やかに育てられ、環境にも配慮した養鰻場の鰻を指名買いする。問屋任せで買うのではなく、業者を指名買いして鰻を購入している鰻屋は珍しい。昼時は混むので、少し外して出かけられるといい。また「蒲の穂焼き」や「うなぎの刺身」をはじめ、様々な鰻料理が出る夜のコースもおすすめ。鰻重は3200円より、鰻丼は2800円。夜のコースは10500円より(すべて税別)。日本酒の揃えも充実している。

今、消滅の危機にある鰻食文化

鰻を食べるたびに考える。

この先この料理はどうなっていくのだろうかと、考える。

このままいけば、あと10年で日本の品種であるニホンウナギは枯渇し、うな重一人前1万円という時代が来るか、鰻屋が減少するかだろう。

さらに30年後には、鰻という食文化自体が消滅しているかもしれない。

縄文時代から食べられ、江戸後期に花が開いた、2000年以上続く「鰻食文化」は、たった十数年の無施策によって消滅していく……。だったら鰻を食べなければいいじゃないか、と言う人もいよう。

でも、僕は鰻屋に出かける。

鰻という食文化を守り、次世代に繋げようと考えている人たちのいる店に出かける。

実際、全体の日本人の鰻消費量のうち、鰻屋が占める割合はかなり低い。かつての日本のように、鰻を鰻屋だけで食べていれば、鰻は枯渇しなかったに違いない。スーパーで買えたり、チェーン店で手軽に食べられるようになったのは便利だが、同時に真の意味のごちそう感は失われ、鰻の乱獲にも繋がってしまった。我々はそろそろ、「便利の意味」を考えるべき時のなのかもしれない。そんな鰻の料理は、江戸を代表する食文化であるから東京には名店が数多くある。なかでも近年になってよく通うようになったのが「はし本」である。

鰻としての尊厳を感じる「はし本」の蒲焼

まず焼きが美しい。「串打ち3年裂き8年火鉢一生」と鰻はいわれるが、その技術力の高さが焼きの姿に現れている。串うちといっても単に串を刺すだけではない。それぞれの鰻の特質を感じながら、串を刺す。打った時に表面が波打ってしまうと、出っ張ったところだけが焦げてしまう。

さらに正確に打たないと、「万遍返し」といわれる何遍も裏返して焼く時に身がしなったりして、うまく焼けない。あとは、タレをつけずに白焼きにし(白を入れるという)、蒸し、タレをつけながら本焼きする。焼きも難しければ、それぞれの個体差を感じながら蒸す時間を決める技術も難しい。すべてが伝統に裏付けられた職人仕事なのだが、そのすべてが「はし本」は確かである。さあ、それでは食べてみよう。

「はし本」のうな重は、まず、ご飯がおいしい。
鰻のタレに染まりながら、けっして味を染み込ませない加減の炊き方が見事である。それでいて米として存在感がある。この「鰻アルデンテ」ともいえる米と軟らかい蒲焼が、一瞬にして口の中で溶け合う。店主の橋本正平さんの焼きは、焦げ目が微塵もなく、軟らかいのだが軟らか過ぎない。ふんわりとした軟らかさの中に、鰻としての尊厳がある。鰻を愛してやまない橋本さんの愛情が、割きに打ちに、そして焼きに現れていて、なにかこう心が温かくなる蒲焼なのである。そんな蒲焼と美味しい米が一体となり、塩梅が見事に決まったタレがでしゃばりすぎずに両者を盛り立てる。「うな重」という料理の美学がここにある。

サステナブルな鰻を選ぶ

ある日は、鹿児島の横山桂一さんという養鰻家の鰻だった。味わいがきれいである。鹿児島の広々とした池で、のんびりゆったりと、良き食べ物だけを食べて、健やかに育ってきましたという、おおらかさに満ちている。味に雑味がなく、脂のしつこさがなく、香りに乱暴がない。妙な筋もなく、ふんわりと崩れると、甘い脂の香りが立ち上がって、顔をだらしなくさせる。噛めば肉の中に、心をつかむ旨みがある。

そんな鰻を、橋本さんの、軟らかくする一歩手前の蒸し方や焼き方が引き立て、甘辛さが決まったタレが持ち上げ、ご飯のほどよい硬さが後押しする。だからもう、箸を持つ手が止まらない。

またある日は、岡山県北東部に位置する西粟倉村という、人口約 1500 人、面積の約 95パーセントを森林が占める村で育てられている「森のうなぎ」であった。200gくらいの鰻が重を埋め尽くす。通常の250グラム級のでかい鰻もいいが、こうした小ぶりのもいい。脂が少ない分、身の繊細な甘みや香りが伝わってくる。養殖ながらも、川魚特有の身の軟らかさと淡い旨みを噛み締め、しみじみ「うまいなあ」と呟く。タレは甘めだが、ご飯にかかる量が絶妙なので、甘さを感じさせずに心をグイグイと引っ張り込む。焦げやすい甘みのタレで、焦げ一つなく、このように焼くのは至難だろう。ご飯は硬めで、肝吸いの旨みは淡い。すべてが真っ当な江戸前の仕事が生きている。

こうした蒲焼以外にも、こっくりと甘い卵焼きと鰻の甘みが溶け合う「はし本」独特の「うまき」や、鰻の味がほのかににじむ滑らかな「鰻のムース」、さらには、鰻の野性味と白身魚としての繊細さ・脂の魅力を味わうことのできる名物の「蒲の穂焼き」というような、練りに練られた鰻料理もある。使う鰻は、信頼の置ける養鰻業者と直接取り引きしている。

いい鰻、美味しい鰻を生む、養鰻業者であるが、それだけでない。健やかな鰻か、環境に負荷をかけていないか、鰻食文化を明日へ繋いでいくビジョンがあるか、という点にも、選ぶ基準がある。たとえば「森のうなぎ」のパンフレットにはこうあった。

「私たちは、単に鰻の養殖をするのではありません。森に囲まれた環境で、森の恵みを活用しながら林業と水産業をつなげて循環させていくことを目指しています」。人と鰻の良い関係を再構築するためには、どう育てて提供するのがいいか、模索を続けている業者だという。

再び鰻を食べながら考える。我々は、鰻をただ美味しいと食べるだけの時代は、終わったのではないかと思う。

 

参考)「鰻はし本」の「シェフの必需品」記事はこちら

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

鰻はし本

鰻はし本

住所:
東京都中央区八重洲1-5-10
TEL:
03-3271-8888
アクセス:
JR東京駅から徒歩3分、東京メトロ日本橋駅から徒歩3分
営業時間:
【月~金】11:00~13:30 17:00~22:00(LO20:30)【土】11:30~14:00
定休日:
日・祝・土用丑の日・年末年始・お盆
URL:
http://www.unahashi.com/

更新: 2019年5月29日

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