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じっくり仕込み、最後の10秒まで手を入れる。 “どこでもドア”で、すぐ行きたい! 浅草「マイクロビストロ・ペタンク」| 山脇りこの行かねば損する東京のビストロ

ビストロってなんだろ? フランスで言うところの、気楽に食べて飲める、日常づかいのお店。語源はパリにいたロシア人が「ビストロ(早く!)」と言って、料理を急がせたからという説も……。肩ひじ張らずに、食べて飲んで、幸せになる、そんな東京のビストロを、ヴァンナチュール好きの料理家、山脇りこさんがご紹介します。

繊細な味の秘密に迫る?

“まだらの魔術師”、「ペタンク」の山田武志シェフ。

「一度、ゆでこぼしてから、ワインで煮て、冷ましてから、揚げてるんです」。山田武志シェフは、惜しげもなく作り方を教えてくれる。もっと聞けばもっと教えてくれる、しかもとても楽しそうに。

前菜でいただいたトリッパのサラダ仕立て。

何度しつこく聞いたことか。しかし、似たようなものはできても、もちろん山田シェフの味にはならない。そう、できそうで絶対できない! のがペタンクの料理。

和えただけ、焼いただけ、揚げただけの、シンプルでなによりワインに合う料理、と思われているかもしれないけど、これがなかなか一筋縄ではいかない、当たり前だけど。

一つは調味の妙にあると睨んでいる。実はわたしはこっそり、「まだらの魔術師」と呼んでいる。たとえば、サラダ的なるもの。食べているうちに、柑橘の酸味、ヴィネグレット、塩、うん? 甘めの果汁? そして香りを足したオイル? とミルフィーユのごとし。しかも、それ全部で、まるっと皿全体で、一つの至高の味になり、完結している。

たぶん、いっぺんに味つけしないで、微妙に重ねているのだ。まだらになるとシマラナイ、味が決まっていないと思われるかもしれないが、真逆。もちろん確信を持って行われている“繊細なまだら”は、野菜や肉や魚からの味までをも計算した上のことで、うんまい。

ものすごく細かい仕事を、仕込みの時のみならず、オーダーされて料理を出すまでの数分、いや最後の10秒まで、一皿ごとにしているのだ。暑さ、寒さにあわせて、お客さんに合わせて。

ミルフィーユのようにいろんな味が重なり合う絶品サラダ。

コンディマンを探せ!

トマトと味噌のコンディマンで“2度うまっ!”の地鶏のロースト。

もう一つは、著書にもある、「コンディマン」。フランス料理で言う、薬味とか、自家製の調味料的なもの、ちょっとした“足しもの”のこと。主役級のソースとはまた違う、あれ! ちょこっとのっけたら、印象変わった! みたいなわき役。

必食のコンディマン「うふまよ」のアンチョビマヨ!

過日、地鶏のさまざまな部位のローストに添えられていたのは、トマトと味噌のコンディマン(写真手前のレンガ色)。つけずに食べても、うまっ。そして、つけて食べたら2度目のうまっ! 春トマトのぱつんと張った果肉の独特の甘みと酸味を、味噌がまろやかに包んでいる。これだけつけてバゲット……いや、ごはんにのっけたいな~なんて思う。しかも、これがつけ合わせのほくほくのさつまいもに合うの合わないのって、たまりませぬ。

コンディマンは常時数種類、季節に合わせて仕込んであるのだそう。人気のチューリップカラアゲにも、ちょんと添えられている。ウフマヨにも(アンチョビマヨネーズは必食!)。

「小さなビストロペタンク、ワインが旨い絶品つまみ」(1,600円/税別、世界文化社)には、コンディマンのレシピが惜しみなく紹介されている。

私が持って帰りたいとまで思ったのは、ビーツと生姜のコンディマン。「これって……」と絶句するほど好みの味だった。ことさらにメニューの料理名に書いたりしないのも、またいい。皿のほんの3センチ四方くらいにのせる、ともすればなくても成立するわき役にあえてこだわって、時間と手間を惜しまずつくっているのに、「なんとかのなんとかのなんとか添え」なんてメニューには書かないのだ。皿の中にある山田シェフの遊び心と技を、ワクワクしながら見つけたい。

距離感が難しいカウンターで、浅草の街にまで愛されるって?

思わずクスッとしてしまうワインのエチケット。

ペタンクは浅草、観音裏に、2017年4月、こつ然と現れ、あっという間に東京中から人が集まる人気店になった。「ミシュラン2019」ではビブグルマンに。「マイクロビストロ」の名のとおり、カウンター9席、山田シェフが一人で切り盛りする。

はじめて来た時から、はじめて会った気がしなかった(勝手に思っただけです)。カウンターで向き合う店は距離感が難しいのに、すっかり魅了された。ま、そんな人で毎夜満席なのだけれど……。

ディープな浅草にすっかり馴染み、地元民にも愛される山田シェフ。

在ハンガリー日本大使館の公邸料理人の後のことだったか? いや、フランスで修業した帰りのエピソードだったか?

山田シェフがとある先輩シェフの店に挨拶に行ったら、そこはオープンしたばかりでてんやわんや。挨拶もそこそこに、「あ、山田、ちょうどよかった、手伝って~!」と言われ、それから3日ほど、休日返上で朝から晩までお手伝いしたのだそう。笑いながら、めっちゃうれしそうに話してくれたのだけど、ああ、まさに山田シェフ!

最初の師匠だった五反田の名店「ヌキテパ」(私も大好き!)の田辺年男シェフのところに人が足りないと聞けば、すでに「ペタンク」が人気店になっているのに、週に1度、「勉強しなおし」と称して手伝いに行っていたし……。

義理堅い、いや情がある人なのだ。うん、だから浅草合うのかな? いまや、浅草のみなさんとすっかり馴染んで、店にいると地元の人が(用がなくても?)声をかけてくる。

ワインのあて=強い味、ではないんです

自称「ジャケ買い」ワインが並ぶ店の棚。

後でわかったのだけれど、私がよく行っていた頃の銀座の「グレープ・ガンボ」のシェフが山田シェフだった! 今は亡き、日本にヴァン・ナチュールをもたらした、自然派ワインの先駆者・勝山晋作さんの名店。ナチュールをカパカパ飲みながら、「いいねー」と食べていたあの肉は、山田シェフが焼いていたのだ。特に偏愛していた、なんでもないルッコラなどのグリーンサラダにも、コンディマンが効いていたのかもしれない。

なかなか飲めない貴重なナチュールも。

もちろん、「ペタンク」もほぼすべてヴァン・ナチュール。「ワインはジャケ買い」と書いてあるけど、まさにジャケ買いしたような(いや多分違いますけど)、なかなかお目にかかれない日本のイケてるワインが飲めるのもうれしい。

ところで、ワインに合う……というと、塩味がきつめの料理を出すビストロが多いけれど、その心配は無用。強い味ではなくても、野菜や魚、肉の旨みが、シェフ独特の組み合わせの力で、ナチュールに絶妙に合い、引き立てあっている。

正直なところ、もう少し近かったら、たとえ一杯と一皿でもいいから、毎日あのカウンターに座りたい。シェフも近くの人に愛される店と意識していて、「この料理にこのワインで、この値段でいいの?」と聞きたくなるくらい良心的。もし、どこでもドアがあったら、今すぐ、シェフとシェフの料理に会いに行きたいと……仕事で煮詰まった時、私の頭にいの一番に浮かぶ店なのだ。

山脇りこ

山脇りこ

料理家。東京・代官山で料理教室「リコズキッチン」を主宰。雑誌、テレビ、ラジオなどでも活躍中。「グルマン世界料理本大賞2014」で「昆布レシピ95」がグランプリ受賞。「明日から、料理上手」(小学館)、「いとしの自家製」(ぴあ)など著書多数。旅好きで、美味しいものがあると聞けば、どんなに遠くてもでかけていく、食いしん坊。http://rikoskitchen.com/

Pétanqueペタンク

住所:
東京都台東区浅草 3-23-3 上野ビル101
TEL:
03-6886-9488
アクセス:
つくばエクスプレス浅草駅より徒歩6分、東京メトロ浅草駅より徒歩8分
営業時間:
火〜金17:00〜24:00、土・日15:00〜22:00
定休日:
不定休
支払い方法:
カード不可
URL:
https://www.facebook.com/petanqueasakusa/

更新: 2019年5月8日

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