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身体にすううっと入る、渋谷の“渋谷フレンチ” 「Sans Déconner(ソン デコネ)」| 山脇りこの行かねば損する東京のビストロ

ビストロってなんだろ? フランスで言うところの、気楽に食べて飲める、日常づかいのお店。語源はパリにいたロシア人が「ビストロ(早く!)」と言って、料理を急がせたからという説も……。肩ひじ張らずに、食べて飲んで、幸せになる、そんな東京のビストロを、ヴァンナチュール好きの料理家、山脇りこさんがご紹介します。

通いたい! はじめて会ったその日から、恋の花咲くこともある!?

「がんばります!」。予約すると、渋谷将之(しぶやまさゆき)シェフは必ずこう言う。「いつも通りで~」と返すのだけど、きっと彼流の「また予約してくれてありがとう! がんばっておいしいもんつくる!」ってことなのだ。

ここは私が去年、最も“通っちゃった”店「ソンデコネ」。

きっかけは、松濤の工事中の店の前を毎日通っていた友人からの誘いだった。「ずっと、サンドイッチ屋になると思って見ていた店が、なんとフレンチビストロだったよー! 行かない?」。メッセージに添えられていたのは店の正面からの写真。パリの路地裏のようなグリーンのファサードを見て、直感で行ってみたいと思った。

そして、初めて行った日に、はい、恋に落ちました。

「この料理、明日も食べたい、季節ごとに食べたい」と。

あー、美味しかった! で終わらない、通いたくなる店ってのがある。特別な日のレストランとは違う。でも、近所の居酒屋でも、食堂でもない。次の皿が楽しみで、身体に“すううっ”と入っていく料理とワイン。シェフの気張りやプレッシャーが前面に出ていなくて、はじめてでも気後れも緊張もしない。いばったり怒ったりする人もいなくて、くつろげてしっぽりくる店。

そんな店に出会えたら運命だ。通うしかない。

ザ・渋谷フレンチ。ブレずに、確信犯的に“自分の料理”をつくる。

それにしても、これまで、ここで一度も同じ料理を食べたことがない。なにしろ、その日店にやってきた食材を見て、どう料理するか決めるのだという。

当然、メニューもない。その料理について、ややこしい蘊蓄や食材の氏素性の説明もない。ええやん、食べたらわかるやん……ってことなのだと思う。一皿にめいっぱい物語を盛るレストランが増えている中、戸惑う人もいるかもしれない。

たとえば過日、「かつおとビーツ」ってだけのシンプルな説明(なのかな?)とともにでてきたのは、ダイス状にカットしたかつおとビーツの冷たい前菜。ビーツは茹でてある。だから色はピンクというより赤っぽく、カツオっぽく。

見れば、どちらがどちらだかわからない感じでおもしろい。

食べれば、ビーツの絶妙な茹で加減で歯の通り道がわかるような食感と、カツオの弾力とのミスマッチが、さらにおもしろい。

あまり仲良くなさそうなみんなをまとめているのは、ヘーゼルナッツとハーブのヴェルデオイルソース。

花冷えだったこの日の魚は、真っ白に仕上げたブリのソテー。絶妙に焼いたそら豆、ほんのり香る甲殻類のジュ、軽やかなカプチーノ仕立てにしたソースが纏わせてある。

「どこかで摘んできた?」と聞きたくなるような、苦みのあるワイルドな菜の花には、乙女のような甘さのニンジンのピュレだけを添えて。容赦ない硬さの茎にピュレがとことん優しくて、一緒に食べるとスープのよう。うれしくなるではないか!

デセールのレモンムースにのったイチゴも、見た目は凡庸なのに、食べてみればただもんじゃない、選ばれしイチゴとわかる。ほんのり軽くマリネの小技も効いている。

料理は、一見“素材の力を活かしてシンプル”に見える。なにも足さない、なにも引かない、かのように。しかし、だまされてはいけませぬ。渋谷シェフにしかない独特な、直感的な組み立てのメカニズムで、しっかり足してあり、しっかり引いてある。

すべての料理にソースがあり、もちろんバターも使われ、主な調味料は塩とビネガー。その意味で、至極まっとうなフレンチ。

しかし、ソースは野菜などの食材から生み出され、バターは程よく軽やかに。甘みや苦み、旨みを食材の組み合わせから引き出し、油脂や塩に頼りすぎない。

特に酸味の使い方は天才的で、果汁、果実、醸造した酢まで、たいへん幅広く独特。パンチもあり、優しい味=うすらぼんやり、ってのとはまったく違う。最後をちょっと濃い目に〆るデセールは、古典的でさえある。しかし、イノベーティブと呼ばれるほど、やりすぎない。

毎日食べられる、健やかで軽やかな、育ちのよさを感じるフレンチ。

たぶん、本当はがんこな渋谷シェフが、自分が美味しいと思うピンポイントに向けて、確信犯的に貫いている「ザ・渋谷フレンチ」なのだ。

“僕のフレンチ”はカンタンには生まれない、正しき修業の日々

ながく仰いだ師匠は、クリストフ・プレ氏。パリの街はずれで2つ星を獲得していた店を閉めた時、パリ中にどよめきが起きたと言われるレジェンド。現在はパリを代表するグランメゾン「ル・クラランス(Le Clarence)」のシェフだ。

昨年、「クラランス」に行って、プレシェフに渋谷シェフの料理の写真を見せたら、ものすごおおく喜んでくれた。目をキラっキラに輝かせて、「これ何? これは?」と真顔で質問してくる。愛されてたんだな(かなりお茶目なところは、両シェフの共通点かと……)。

その後、パリの路地裏の「Clandestino(クランデスティーノ)」でシェフを務め、連日パリジャンで満席にしてしまう。渋谷フレンチ”は、今のパリで、一筋縄では予約が取れない人気のレストランたちの先駆けだったのだ。でも、惜しまれながら帰国。地縁もなければ、働いたこともない渋谷に店を開く(神戸のご出身です)。

「公園の前がいいな & 名前が渋谷なので、渋谷かな」と(そこ? ぷぷっ)。

ワインは、ほぼすべてナチュール。フランスを中心にジョージア、スペイン、イタリアのものまで、フランス人でありカタルーニャ人であるマルコがサーブしてくれる。マルコは数々のナチュールの蔵を自分の足で回っていて、料理人でもあり、信頼できる。3か月で急激に日本語が上手になったチャーミングな若者で、とってもよく気がつく繊細な人だ。

きっとシェフがこれを読んだら、「いや、ま、ややこしいことはともかく、がんばります!」と笑うんだと思う。本当のところ、通ううちに一番ほれ込んだのが、「なんと楽しそうに仕事をしている人たちなんだ!」ってところ。

どう考えても昼夜店を開けるのは、痩せるほど大変なはずなのに(実際、かなり痩せたらしいデス)、いつも嬉しくってしかたないよ、って感じで料理している。

だから、食べている私たちも、ゆかいゆかい。1日の最後に行けば「あ~幸せだー」と、気持ちも満腹になって、帰ったらスヤスヤ眠れる。

……それにしても、「ソンデコネ」ってどういう意味なの? ぜひお店で、直接シェフに聞いて教えてもらってほしい。いたずらっ子さながらの笑顔で、なんかおもしろいことを言ってくれるはずだ。

山脇りこ

山脇りこ

料理家。東京・代官山で料理教室「リコズキッチン」を主宰。雑誌、テレビ、ラジオなどでも活躍中。「グルマン世界料理本大賞2014」で「昆布レシピ95」がグランプリ受賞。「明日から、料理上手」(小学館)、「いとしの自家製」(ぴあ)など著書多数。旅好きで、美味しいものがあると聞けば、どんなに遠くてもでかけていく、食いしん坊。http://rikoskitchen.com/

Sans Déconnerソン デコネ

住所:
東京都渋谷区松濤2-13-10
TEL:
03-6479-4625
アクセス:
京王井の頭線新泉駅より徒歩5分
営業時間:
[月] 19:00〜23:30(L.O.21:00) 、[火〜土] 12:00〜14:00(L.O)、19:00〜23:30(L.O.21:00)
定休日:
日曜日
支払い方法:
クレジットカード可

更新: 2019年4月13日

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