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“牛肉の神の子”が焼くビステッカ 西荻窪「Trattoria 29(トラットリア ヴェンティノーヴェ)」|ハヤシコウの「行かねば損する東京のイタリアン」

日本人初のイタリア人! イタリア渡航歴24年。イタリアをライフワークに活躍するハヤシコウさん。自宅には醤油がない(つまり和食は食べない!)ほどイタリア料理好きなコウさんに、今行くべき東京のイタリアンを教えてもらいます。

29では肉を食べるべし

西荻窪の駅から徒歩5分ほど、 商店街というほどの通りではなく、駅から住宅街のちょうど間といった場所にある 「Trattoria 29(トラットリア ヴェンティノーヴェ)」。名前の29(ニク)のとおり、ここでは肉をいただく。シェフの竹内悠介くんはその美味しそうな外見のとおり、美味しい肉を焼いてくれる。以前も書いたけれど、美味しそうなひとは、美味しい料理を作る。

牛肉の神様・ダリオの来日の目的

フィレンツェから車で1時間、パンツァーノは人口が1000人に満たないほどの小さな町。この町に、“牛肉の神様”と呼ばれる人がいる。250年以上も続く肉屋「Cecchini」のご主人、ダリオ・チェッキーニがその人。彼の肉を求めて、週末には300人を超えるお客さんが、イタリアのみならず、世界中からやって来る。僕がダリオと知り合ったのは、彼の愛弟子の竹内くんのこのお店のオープンのお祝いにと、初めて来日した2015年だった。僕は、“牛肉の神様”の来日を聞きつけた雑誌取材の通訳として立ち会った。2メートル近い身長のダリオは、声も響くし、パッと見た感じちょっと怖い。けれども、彼の口から発せられる、愛弟子への言葉のひとつひとつが優しかった。子どものいないダリオは、自分のお店を継いでほしいと愛弟子に伝えるのが目的の来日だった。名前やお店そのものではなく、意志を継いでもらいたい、ただそれだけを伝えに……。取材の時間は2時間用意されていたけれど、その話題が出た時、僕は記者への通訳を止めて、すぐに竹内くんを呼んだ。記者にでもなく、もちろん僕にでもなく、竹内くんにダリオの言葉を聞かせた。僕はただ隣りで泣いた。

ビステッカの背景を知ることの意味

ダリオには世界中にたくさんの弟子がいる。日本人の弟子もたくさん。竹内くんは1年ほどの修業だったというけれど、肉の解体までみっちりと教え込まれたという(日本人でそこまで教え込まれたのは、竹内くんを含めて2人とのこと)。イタリアの牛肉と日本で手に入る牛肉はかなり異なる。イタリアという国名は“牛がたくさんいる土地:VITALIA”からきている。牛の労働力は農耕に欠かせないし、牛乳もとれる。豚に比べて、牛は産む子牛が少なく、大きくなるのにも月日がかかるので、中世の頃まで食用にはされなかった。「ビステッカ」と呼ばれる炭火焼き料理も、農耕が出来なくなった老牛の固い肉の表面を炭で焼くことでより硬い食感を持たせ、老牛肉の強い匂いも炭の香りをつけることで緩和される。今でこそ、ステーキは高級な料理と見られているけれど、もとはそんな料理ではない。ダリオが自身の食堂で出す料理も星が付くような料理ではないし、ただ食べて美味しいではない。料理の背景を知って初めて味が浮かび上がる。“牛肉の神様の子”、竹内くんの料理は、そうしたダリオの教えも受けつつも、ストレートに美味しい。

メインの肉の前の野菜スティック

メニューをオーダーするとテーブルに並べられる ピンツィモーニオ(スティック野菜)も、ダリオのお店のそれよりも格段に洗練されている。野菜をオリーブオイルと塩で食べるだけなので、季節毎に選ぶ野菜や野菜に合わせた切り方に楽しみがある。生の野菜の辛みが、オリーブオイルを纏うとマイルドになり、そこに好みで塩。野菜が苦手な人の気持ちがまったくわかりません、っていうくらい美味しくいただける。

海のない土地のマグロ?

ビステッカの焼き上がりまで時間があるので、美味しい野菜をつまみに軽めのお肉料理も。「Tonno del Chianti(キャンティのマグロ)」という名の料理を注文。こちらは海のないキャンティの人々が、マグロ肉という名前で食べている料理だ。イタリアでは、ほかにも海がない土地に、マグロの名前のついた料理が存在する。マグロは脂質が少ないので、赤身肉のことをそんな名前で呼ぶことからついたのだろう。キャンティのマグロは、豚の赤身肉をオイルに漬けてほぐして食べるような料理なのだけど、上質のオリーブオイルでいただく豚赤身肉は、とてもサッパリしていて食がすすむ。

ビステッカに合わせる赤ワイン

さて、主役のビステッカが来る前に、ワインを選ぶ。いくつか赤ワインを並べてもらったのだけれど、 僕はこの店では飲むワインは決めている。食べる牛肉の産地は違うけれど、 炭火焼きの香ばしさ、レアに焼かれた赤身肉のビステッカに合わせるのは、サンジョベーゼ主体のキャンティに限る。なかでもこの日は、FONTODIの造るキャンティがあったのでそれをいただくことに。このFONTODIは、畑を耕したりするのにトラクターなどの機械を入れず、牛を使っている。そしてこの農耕牛が歳をとり働けなくなると、ダリオのお店でビステッカになる。グラスに注がれたワインをひと振りすると、中世のキャンティ地方がそこにあると思ってしまうのは、思い込みだろうか……。そんな昔話をしているうちに、 本日のメイン・ビステッカが運ばれてくる。ちなみに、お肉を本当においしくいただくコツがあるとすれば、やはり空腹であるということに尽きる……。なので、野菜と軽めの肉料理で注文を止めて、ひたすら肉を待つ(本当は他にも食べたいメニューがあるだけれど!)。

肉の余韻ではっきりと見えたキャンティの土地

みごとに焼かれた牛肉、ドテっとカットされた断面には、上質のオリーブオイルと塩を。 生の野菜はアクセントに。肉汁がジュワ〜とか、ソースがどうとか、そんなのはビステッカを語る上で必要ない。外はしっかりと焼かれていて、中はほのかに温かい。外の歯応えと、中のなめらかで心地よい歯切れのコントラストが、最後まで口を疲れさせることなく続く。肉の余韻とともに先ほどのワインをひと口。さっきは朧げだった中世のキャンティ地方が、今度はしっかりと目前に見えた。

ハヤシコウ

ハヤシコウ

株式会社ミズコルビノデザイン 代表。多摩美術大学卒、都内イタリアン勤務の後、イタリアのマルケ州ウルビーノISAに留学。帰国後、都内ワインバー勤務の後、2005年ミズコルビノ・デザイン設立。24年にわたりイタリアと日本を往復する中で培ったイタリアへの造詣を生かし、東京のイタリアンを中心に国内外の店のロゴやマーク、内装デザイン、メニューの監修などを手掛ける。2018年、「サルメリア69」の新町賀信氏と共に一般社団法人おいしい生ハム普及協会設立。

Trattoria 29トラットリア ヴェンティノーヴェ

住所:
東京都杉並区西荻北2-2-17
TEL:
03-3301-4277
アクセス:
JR中央線・JR総武線「西荻窪駅」より徒歩3分
営業時間:
火曜〜金曜18:00〜22:00(L.O.)、土・日曜17:30〜22:00(L.O.)
*11:30〜14:00のランチタイムはサンドイッチ店「3&1 Sandwich」として営業。
定休日:
月曜(月曜が祝日の時は火曜)
支払い方法:
クレジットカード不可
URL:
http://trattoria29.jugem.jp/

更新: 2019年2月20日

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