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中居さんが決めるすき焼きの味 「人形町 今半(いまはん)」| マッキー牧元の「行かねば損する東京の和食」

1年間の外食数は600軒以上。高級店からB級までをくまなく知り尽くすタベアルキスト、マッキー牧元さん。食べ歩きのプロ中のプロに、今行くべき東京の和食店を教えてもらいます。

人形町 今半

創業は明治28年。昭和31年に、「浅草今半」と「人形町 今半」に分かれて現在に至る。現在都内14店舗。なお本店の1階は鉄板ステーキの店。しゃぶしゃぶもおすすめ。昼は4,860円から、夜は8,100円からすき焼きがいただける。コース仕立てもあり、お造りや各種料理のレベルも高い。

他の料理と違うすき焼きの極意

すき焼きは、数ある料理店の中でも変わった料理である。なぜならば、最終調理は中居さんが行うからである。

大抵の飲食店では、調理は料理人が最終工程まで行い、食卓へ運ばれてくる。しかし、すき焼き店での料理人の役目は、仕入れと肉やザクを切って盛り付けることにある。もちろんそれも重要な要素だが、中居さんの技が異なれば、当然仕上がりが違ってくる。

つまりベテランの中居さんほどおいしくすき焼きを仕上げ、若い中居さんほど未熟になるといってもいい。同じ価格を払っても、差が出てしまう可能性があるのが、すき焼き屋なのである。すき焼き屋が紹介されるとき、肉の質やブランドやランクなどが浮き彫りにされることが多いが、実は「中居さんの技」という点に大きなポイントがある。

マッキーさんが認める高レベルの中居さんがいる店

十数年前、今は無き店も含めて、都内のすき焼き屋10数軒を、立て続けに回ったことがある。その中で、老いも若きにも関わらず、中居さんのレベルが高く、一定だったのは、関西風の「岡半」と、東京風の「人形町 今半」の2軒だけだった。

「人形町 今半」は技能テストがあり、店長や経営者、ベテランの中居さんが審査し、合格しないと、客前には出ることが叶わない。それゆえに、若い中居さんでも、今半流哲学に貫かれたすき焼きがいただけるのである。

どの店舗でもレベルの差はないが、風情が漂う本店に出かけるのが最もいい。二階はすべて個室の座敷になっていて、ゆったりとすき焼きと向き合える(昼は一部大広間が、入れ込み式の座敷となることもある)。

「くつくつ」と音を立てる牛肉

突き出しが運ばれ、いよいよ肉の登場である。青磁の皿に盛られた肉が、薄桃色に輝き美しい。もうそれだけで、息を飲み、唾を飲み込み、顔がだらしなく崩れてしまう。

仲居さんが、熱した鉄鍋に割り下を少量流し入れる。その上で、みごとに霜が刺した肉を広げていく。肉は加熱され、沸点に達した割り下に押し上げられ、「くつくつ」と音を立てながら、小刻みに震える。肉の脇からも割り下が流れ出て、「くつくつ」と音を立てる。

そんな光景に、「ああ、もうたまらん」。と思ったその瞬間、中居さんは肉をさっと返したかと思うと、すぐに引き上げ、小皿に取り分ける。片面はレア。片面はミディアム。これが「炊くように焼く」という今半流すき焼きの真骨頂であり、中居さんの卓越した技である。

そのまま食べてもいい。スダチを搾ってもいい。もちろん溶き玉子に漬けてもいい。牛肉の甘みが、割り下の旨みと渾然一体となって舌に広がっていく。肉はふわりと軟らかく、甘い余韻を残して消えていく。気がつけば顔はにやけ、だらしない。しかし鍋は続く。

肩ロースは、牛肉らしい厚みのあるうまさが広がり、ロースの真ん中で最も厚みのあるリブロースは、脂自体に甘みというか旨みがあって、舌の上で溶ける食感と脂の旨みに、体が弛緩します。

おおっ、と歓声が上がるほどの美しさ、艶があって品格があるサーロインは、実にきめが細かく、舌と同化していくように口の中で消えていく。脂自体に品があり、肉にも深い味わいがある。さすが王様の肉である。

「ザク」も超一流。季節の野菜にも注目

さて、「人形町 今半」の魅力は、これでは終わらない。まだまだ他店にはない魅力がある。

まずザク(肉以外の具)が、極めておいしい。ネギなど野菜類、しらたき、麩など、吟味されつくしている。特にオススメは、特注のしらたきと麩である。しらたきは、細くコシが強く、シコシコと弾み、麩は丁子麩で、グルテンが強くもっちもっちと食感が楽しい。しらたきと麩のおいしさを、あらためて感じ入るだろう。

また、こうしたザクには季節の野菜などが入る。秋の松茸、春の筍、夏のナスやトマト、クレソンといったように、普段は参加しない野菜の、すき焼きとの意外な相性に、一年を通して通いたくなる。

シメは「ふわたまごはん」で!

そして最後に、しめのご飯である。ご飯、味噌汁、お新香ともに、これまた上等なものが用意されるが、「人形町 今半」ならではの「ふわたまごはん」をススメたい。食べ終えたすき焼き鍋に割り下と溶き卵を入れて卵とじにするのだが、スクランブルエッグ状にならず、卵がふわっと膨らむように火を入れていく。これまた中居さんの技である。その卵を白いご飯にのせて掻き込む。

割り下を含みながらふわりと膨らんだ卵が、唇にキスをする。それを静かに押しつぶすと、卵の甘みと割り下の甘みが渾然一体となって舌を包み込む。もういけません。あとは一心不乱、脇目も振らずに、ふわ卵とご飯を掻き込むだけである。

そう、ここは最初から最後まで、一転の曇りもないすき焼き屋なのであります。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

人形町 今半にんぎょうちょう いまはん

住所:
東京都中央区日本橋人形町2-9-12
TEL:
03-3666-7006
アクセス:
東京メトロ日比谷線人形町駅A2出口より徒歩1分、都営浅草線人形町駅より徒歩2分、東京メトロ半蔵門線水天宮前駅7番出口より徒歩3分
営業時間:
11:00〜22:00(平日15:00〜17:00準備中)
定休日:
大晦日・元日(半年毎に2日ほどのメンテナンス休業あり)
支払い方法:
クレジットカード可(VISA、MASTER、JCB、AMEX、Diners)

更新: 2018年12月27日

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