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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品|南青山「UN GRAIN」 昆布 智成シェフ

グルメシーンを牽引するシェフが、料理を作るうえで欠かせない食材や道具を紹介する連載「シェフの必需品」。今回訪れたのは、南青山にあるミニャルディーズ専門のパティスリー「UN GRAIN(アン グラン)」。ひとつまみサイズの小さなケーキや焼き菓子に真心を込める、昆布智成(こんぶ ともなり)シェフパティシエの必需品とは?

選ぶ楽しさも、欲張る贅沢さも 「UN GRAIN」 昆布智成シェフ

2015年にオープンしたパティスリー「UN GRAIN」は、ミニャルディーズの専門店。フランス語で「上品さ、可憐さ」という意味を持つミニャルディーズは、フレンチのコースの最後にカフェと共に楽しむ、ひとつまみサイズのお菓子のことです。昆布智成シェフパティシエは、2、3口で食べられるほどの小さなお菓子に、経験や技術、素材へのリスペクト、そしてお客様への愛まで、すべての想いを込めます。贈る相手やその日の気分に合わせてお菓子を選ぶ楽しさと、「あれもこれも、食べたい」というわがままを叶えてくれる贅沢さ。一粒のお菓子が、たくさんの幸せを生むパティスリーです。

人生を変えた、「オーボンビュータン」との出合い

230年以上続く、福井県の老舗和菓子店「昆布屋孫兵衛」の長男として生まれた昆布シェフ。幼い頃から、周囲には常に「跡継ぎになるものだ」と、信じて疑われなかったといいます。しかし、自らの意思で選んだのは、東京の大学への進学でした。そんな学生時代に「オーボンビュータン」(尾山台)と出合ったことをきっかけに、フランス菓子の世界へ。大学卒業後、東京製菓専門学校を経て、念願の「オーボンビュータン」で河田勝彦オーナーパティシエに師事。「ピエール・エルメ サロン・ド・テ」でスーシェフパティシエを務めた後に渡仏し、プロヴァンスのパティスリー「リエデレ」でMOF(国家最優秀職人章)受賞歴を持つシェフのもとで研鑽を積みます。その後、パリの2つ星レストラン「ラトリエ・ド・ジョエル・ロブション」でデセールを担当。帰国し、2015年にスーシェフ パティシエとして「UN GRAIN」に入社、2019年4月にシェフパティシエに就任しました。

常に、自分の道は自分で切り拓いてきた

今でこそパティシエの道を一心に進む昆布シェフですが、幼い頃は“甘いもの嫌い”を公言していたのだそう。「和菓子屋を継ぎたくなかったこともあって(笑)、ずっと甘いものは頑なに拒んでいました。地元には街のケーキ店くらいしかなかったので、実際に美味しいと思ったこともあまりなくて」。そんな昆布シェフの嗜好をよく知るにも関わらず、大学3年生の時に「一度でいいから食べてみて」と、妹が持ってきたのが「オーボンビュータン」のケーキだったといいます。はじめて本物のフランス菓子を目の当たりにし、まさに目からうろこだったと振り返るシェフ。「今までに味わったことがない甘さの奥行き、苦みの使い方、お酒の香りの余韻……。とにかくめちゃくちゃ美味しかったのを覚えています。こんな世界があるんだ! やってみたい! と思って、危うく大学も途中で辞める勢いでした(笑)」。まるで当時にタイムスリップしたかのように目を輝かせて語るシェフの表情からも、その感動の大きさが伝わります。

フランス菓子の道に進みたいと父に伝えた時、父からかけられたのは、「洋菓子を選ぶなら、何一つ手助けはできない。自分で道を切り拓け」という、厳しくも温かい言葉。その言葉どおり、大学進学に続いて、憧れの「オーボンビュータン」への道も、昆布シェフは自らの力で掴み獲ります。河田シェフのもとで一からお菓子作りを学んだ昆布シェフは、自身のベースはやはり「オーボンビュータン」にあると断言します。それは、細やかな技術や練り上げられたレシピだけでなく、ケーキ一つに対する考え方や、お客様と向き合う姿勢などすべて。「下っ端の頃は、『お前は美味(うま)いものを知らない、わかっていない』と、しょっちゅう言われたものです。当時は一生懸命やっているつもりだったので、よく意味を理解できませんでした。でも、ただ技術を磨くだけじゃダメなんですよね。至極当たり前のことなんですけど、『少しでも美味しいと思ってもらえるものを作ろう』という気持ちが、やっぱり何よりも大切なんです」。

新しいケーキを考える時、いつものお菓子の仕上げをする時、どんな小さな工程一つにも、作り手の気持ちは写ります。より美味しい状態で届けたいと思えば、自ずと手は早く、作業は繊細になる。そうすれば、すべてがいい状態で仕上がるのです。「高い技術を持っていても、常にその気持ちがあるかないかで、出来上がるものはまったく違う。河田シェフの受け売りですが、一流と超一流の差はそこにある、と僕も思っています」

「UN GRAIN」昆布智成シェフの必需品は、故郷“福井”そのもの

今回昆布シェフは、二つの必需品を紹介してくれました。一つ目は、故郷・福井県の伝統工芸、越前打刃物のペティナイフ。多くの料理人に愛される「高村刃物製作所」のものです。

フランスでの修業時代にレストランでアシェット・デセールを学んだことで、素材の考え方が大きく変わったという昆布シェフ。毎日決められたレシピに沿ってケーキを仕立てて店頭に並べるパティスリーとは異なり、レストランでは、目の前にいるお客様ひとりひとりのために、その日、その時、もっとも美味しい状態になるよう仕上げなければなりません。日によってフルーツの状態が変わるからこそ、デセールのレシピも常に変わります。「より真摯に素材と向き合うようになりました。地元の伝統品である越前打刃物のペティナイフは長年ずっと欲しくて、手に入れたのはつい最近。お菓子の美味しさに直結する、切れ味、断面のなめらかさ、水分の出方がほかのものとはまったく違う。実は福井県に関わる仕事をさせてもらった縁で、地元の方からいただいたものなんです。だから余計に愛着が湧いています」。

「きっとこのいちごも、自分が切られていることに気づいていないくらいだと思いますよ(笑)」

二つ目の必需品は、昆布シェフが強く思い入れがあるという食材。福井県の特産品の一つ、樹上完熟梅「黄金の梅」です。フランス菓子には、甘さとの抑揚を出すためにさまざまな酸味のある果物を使いますが、完熟梅独特の強烈な香りと酸味は、ほかでは出せないと昆布シェフは語ります。主張が強すぎるのでは? と思いきや、それこそが最高の個性だそう。

「ケーキという甘いものを仕立てる時に、このインパクトのある香りと酸味がとても重宝します。“故郷の食材”であることで自分が使う意味がありますし、味でも自分の個性が出せる。これからもずっと使い続けるでしょうね。絶対に欠かせない存在です」。アイスにしたり、マーマレードにしたり、ムースにしたり……、旬を迎える6、7月頃には毎年必ず、さまざまなかたちのデセールに仕立てるのだとか。またミニャルディーズでも、定番の一品「リュネット」として提供しています。

「大きく言えば、必需品は福井です!」と、笑うシェフ。次回の足跡レストランでは、そんな福井への愛をぎゅっと詰め込んだ、遊び心あるケーキをご紹介しながら、ミニャルディーズの魅力に迫ります。

UN GRAINアン グラン

住所:
東京都港区南青山6-8-17
プルミエビル1F
TEL:
03-5778-6161
アクセス:
東京メトロ銀座線・千代田線・半蔵門線 表参道駅B1出口より徒歩10分
営業時間:
11:00〜19:00 ※東京都の自粛要請などにより、営業時間は変更することがあります。
定休日:
水曜
支払い方法:
クレジットカード可(JCB、AMEX、VISA、MASTER、Diners)
URL:
https://www.ungrain.tokyo/

写真・広瀬 美佳(梅以外) 文・山本 愛理

更新: 2021年4月17日

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