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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品| 下北沢「Salmon & Trout」 中村拓登シェフ

グルメシーンを牽引するシェフが、料理を作るうえで欠かせない食材や道具を紹介する連載「シェフの必需品」。今回、必需品を紹介してくれたのは、「サモトラ」の愛称で親しまれる下北沢の人気レストラン「Salmon & Trout(サーモン アンド トラウト)」の中村拓登(なかむら たくと)シェフです。

唯一無二の食体験がここにある。「Salmon & Trout」 中村拓登シェフ

2014年のオープン以来、数々のフーディーたちを魅了してきた「Salmon&Trout」、通称「サモトラ」。ここで楽しめるのは、シチリアでワイン造りを学んだオーナーカヴィスト・柿崎 至恩(かきざき しおん)氏が選ぶ、風土が見える世界の酒やお茶と、中村拓登シェフによるシンプルでありながらも、ちょっとした驚きがちりばめられた料理とのペアリング。中村シェフが作るのは、手法こそ日本料理をベースにしたものではありますが、その料理に明確なコンセプトは謳いません。なぜなら、特定の表現は余計な先入観や固定概念を生み、一つの側面しか見えなくしてしまうから。目の前の料理から何を感じ取り、どう捉えるかはお客様自身。“体感を楽しむレストラン”と称される「Salmon&Trout」でしかできない、唯一無二の体験が待っています。

フレンチから茶道、そして日本料理へ

辻調理師専門学校、辻調グループ フランス校を卒業後、フレンチレストラン「コム・ダビチュード」(中目黒)から本格的に料理人として歩み始めた中村シェフ。当初はフランス料理人を志していました。しかし、本場フランスのシェフたちや、さまざまな海外の芸術文化に触れる中で見えてきたのは、日本の文化に無知である自らの姿。「自国の文化すら語ることができない自分が、フランスの文化だけを習得しようとしているのは格好が悪い」と学び始めた茶道をきっかけに、日本料理の道へ。「HIGASHI-YAMA Tokyo」(中目黒)、「八雲茶寮」(都立大学)で約10年勤めた後、2年ほどフリーの料理人として活動。2019年6月に「Salmon & Trout」のシェフに就任しました。

料理は、生活の延長。作り手の思想や生き様が映るもの

中村シェフの「格好が悪い」という言葉の真意は、本筋が通っていないということ。学生時代から、常に物事を多面的に見ることや、本質を見極めることを意識的に行ってきたというシェフは、茶道を学び始めてさらにその考えを強めたそう。

茶道は一見、使う道具や着物、客間の設えに至るまで、厳格なルールが定められており、さらには由緒あるものを使うことにより価値があると考える人も多いでしょう。しかし、そうではない、と中村シェフ。「大事なのはルールや道具そのものではなく、本質です。一つ一つの作法、茶器の意味・役割を理解して、それがきちんと体現できていれば、ほかのもので見立ててもいい。『絶対にこうじゃなきゃいけない』ということはないんだ、とあらためて教わりました」。

料理で言えば、「四季を表現するもの」「会席料理は、先付けから始まり水菓子で締める」など、疑問に思わないほど当たり前だと思っていることすら、自由でいいとシェフは言います。「料理は、生活の延長線にあるものだと思うんです。つまり、その時々の作り手のライフスタイルや思想、気持ちを表すもの。しきたりや固定概念に縛られて、普段の自分の考えとかけ離れたものを特別に作り上げるものではない」。

中村シェフが作る料理には、シェフがその時に感じたこと、食べたい味、使いたい食材、さらには生き様や人間関係までもがまっすぐに表れます。一皿目から揚げ物が出ることがあれば、スパイスを使うことも。そしてその味わいは実に繊細です。ゆえに「日本料理」をイメージして訪れると「“普通”とは違う」「初めての体験」という驚きを得るのでしょう。でも、その“普通”と思っているものこそ、固定概念。「矛盾していると思われるかも知れませんが、クラシカルなものや伝統への憧れは強くあります。そこに本質がある気がするから。ただ表現方法としては、それに縛られたくない。ひねくれ者なんです(笑)」。

「Salmon & Trout」中村拓登シェフの必需品 「ONIBUS COFFEE」のコーヒー

今回、中村シェフが紹介してくれた必需品は、毎朝飲むという「ONIBUS COFFEE(オニバス コーヒー)」のコーヒーです。“直接的に料理に使用しないもの”を必需品に選ぶあたりも、物事を多面的に捉える中村シェフらしい着眼点といえるでしょう。

「ONIBUS COFFEE」との出合いは、シェフが「八雲茶寮」で働き始めた頃。同時期に八雲にオープンした同店には、当時から頻繁に通っていたそう。職場と家を往復するだけの日々の中で、スタッフたちと交わす毎朝の「おはよう!」「行ってらっしゃい!」の挨拶と1杯のコーヒーが、いつしか仕事へのスイッチになり、生活を豊かにしてくれたと振り返ります。それ以来、欠かせない存在になっているのだとか。「今は毎日お店に通うことはできないので、自分で淹れたり休日に遊びに行ったりしています」。

また、お酒が強くない中村シェフにとって、ワインと似たコーヒーの味や香りの表現方法には学ぶことが多く、何より「ONIBUS COFFEE」で出会ったさまざまな人とのつながりも、料理人として大きな財産になったと語ります。「個人で好きなことを仕事にしている人が多かったので、たくさん刺激をもらいました。考え方の幅もぐっと広がりましたね。オーナーの坂尾篤史くんとは、今でもよく一緒に食事をしたり情報交換したりする仲です」。

「ONIBUS COFFEE」でのさまざまな出合いは、料理の中にも息づいています。後編の「足跡レストラン」では、「ONIBUS COFFEE」のコーヒーかすや、ここで出合った農家さんの食材を使って作る料理と共に、「サモトラ」を最大限に楽しむ秘訣をお伝えします。

Salmon & Troutサーモン アンド トラウト

住所:
東京都世田谷区代沢4-42-7
TEL:
080-4816-1831
アクセス:
小田急電鉄・京王電鉄 下北沢駅より徒歩12分
営業時間:
18:00~24:00 ※東京都の自粛要請などにより、営業時間は変更することがあります。
定休日:
火・水曜
支払い方法:
クレジットカード可(JCB、AMEX、VISA、MASTER、Diners)
URL:
http://www.salmonandtrout.tokyo/

写真・広瀬 美佳 文・山本 愛理

更新: 2021年2月25日

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