トップシェフが赤坂「桃の木」に集結! ジャンルを越えたトークセッション第2弾 No.1
2020年の春、装いを新たに赤坂でリニューアルオープンした中国料理の名店「桃の木」。小林武志シェフのもとに、「カンテサンス」岸田周三シェフ、「ラ・ブリアンツァ」奥野義幸シェフ、「ザ・バーン」米澤文雄シェフとタベアルキスト・マッキー牧元さんが集結。小林シェフの料理に舌鼓を打ちながら、ジャンルを越えた料理談義に花を咲かせました。
フレンチ、イタリアン&タベアルキストのトークがスタート
マッキー牧元さん(以後、牧元):今日はよくお集まりいただきました。まずは、乾杯! 岸田シェフは「桃の木」に何回かいらっしゃってたんですよね?
岸田周三シェフ(以後、岸田):はい、移転前の店にはよく行かせていただきました。引っ越しをされたのは知らなかったです。
奥野義幸シェフ(以後、奥野):僕の家からも5分でした。
米澤文雄シェフ(以後、米澤):僕は子供が小さかったりしますので、外食の機会が多くなく、特に中国料理はあまり行かないですね。
牧元:岸田さんは?
岸田:中国料理は大好きです。
牧元:岸田さんが希望した「脆皮鶏(ツイピーチー)」(中華風雛鶏のパリパリ揚げ)は香港で食べたのですか?
岸田:はい。東京で食べられるところをあまり知らなくて……元「福臨門」でも食べたんですが、少し違う感じがしました。
牧元:奥野さんは?
奥野:僕も中国料理は大好きですね。子供の頃、家族や親戚が集まるときによくホテルの中華って便利で行っていました。でも、僕は辛いのがダメなんで、上海とか広東料理の方がいいですね。
岸田:僕も辛いのはだんだん苦手になってきました。
岸田シェフの修業時代の苦労話
店:「清湯スープ」でございます。添えてあります中国ハムを入れてもお召し上がりください。
牧元:いきなり清湯ですか!
岸田:これ、脂が一滴も浮いてない。
奥野:ハムがフレイクの鰹節みたいですね。
岸田:ちょっとハムを入れると、ガラッと変わりますね。
米澤:少し入れただけなのに、余韻がまったく違う。
牧元:塩気は変わらないのに、ハムの風味だけが強くなりますね。
奥野:次に向かえますね。そういえば今日は店が忙しくてスタッフがまかないを作る暇がなさそうだったんで、僕がハンバーグを作ったんですよ。
岸田:えっ、優しいなあ。
奥野:でもシェフが作った方が美味しいもん食べられるじゃないですか。そっちの方がスタッフも伸びるかなと思って。
岸田:なるほどね。何人分作るんですか?
奥野:今日は11人分でした。
岸田:それは大変だあ。
奥野:実家が洋食屋だったものですから、得意です。
岸田:洋食屋さんですか?
牧元:話は変わりますが、岸田さんの修業時代の話を一度聞いたことがありますね。「カーエム」の話はすごかった。
岸田:あそこは人生で一番苦しかったですね。
牧元:客に全部丸のままの食材を見せて、選ばせてましたからね。
岸田:そこからが料理のスタートなんですよ。毛つきの青首鴨を見せてお客さんがこれを食べたいって選ぶんですよ。それを下げて、毛をむしるところからスタートでした。
奥野:むちゃくちゃ大変だ!
岸田:アミューズがあって、前菜からすぐにメインだから、時間が全然ないんですよ。だからいくら早くやっても遅いって怒鳴られる。
奥野:普通に考えれば、毛つきを見せても裏にむしったやつがあるよね。
岸田:それをこだわりでやらないんですよ。もっと大変だったのは、前菜にあったオマールのスフレ。まずお客さんにオマールを見せて、そこから殻を外して、一部を潰して、一部をガルニチュールにしなくてはいけないんですが、それも全然間に合わなかったですね。1組目から大パニックになって。
一堂:大笑い
岸田:毎日パニックになるのがわかっていて、仕事に向かう感じですね。「子牛の脳みそフラン」というのがあったんですけど、一人前ずつミキサーに入れて回さなくてはいけないんです。でも一人前だとミキサー回らない(笑)。苦労しました。
驚きを隠せない、「桃の木」の細かいテクニック
店:前菜の盛り合わせでございます。「上海風よだれ鶏」で、ローストしたナッツとシャンツァイ、タレと辣油をよく混ぜてお召し上がりください。こちらは順に「揚ピータンの甘酢ソース」「ジャガイモとインゲンの炒め物」「もやしの湯葉巻き」でございます。どうぞお召し上がりください。
岸田:よだれ鶏って四川料理ですよね。上海風ってどう違うのですか?
店:タレが少し甘めになっています。
岸田:知らなかった。勉強になります。
牧元:ここに前回のトークセッションでも話題となった0.8ミリ角のネギのみじん切りが入っています。
奥野:綺麗ですね。
岸田:これはすごい。ネギを残すのが申し訳ないなあ。切った人に申し訳ない。
牧元:この「ジャガイモとインゲンの炒め物」もなにげないようですが、一回油通ししたジャガイモとインゲンを高温でさっと炒めるときに出てきた水分が鍋肌にこびりついて香りを産み、料理に漂わせるんです。なぜなら中国料理で最も大切なのは「鍋気」と呼ぶ、香りの美味しさだからです。
奥野:このもやしも香りがよく、シャキシャキと歯ごたえがいいですね。
米澤:見た目から想像できない、歯ごたえと香りです。
牧元:このよだれ鳥のピーナッツは日本のものではないです。
岸田:確かに小ぶりですよね。
米澤:ただ乾燥しているのではなく、生を煎っている感じですね。だから身が詰まっている。
奥野:どれも見た目より味が優しいですね。
岸田:去年とか一昨年辺りに若い料理人の中国料理が流行り、カウンターの店が増えましたよね。
牧元:バリエーションも増えましたよね。
奥野:スペインバルの中華版なんかもあっておもしろいですよね。
ゆるくきっちり巻かれた春巻きが一流の仕事
店:お待たせしました。「海老あんの春巻き」でございます。
牧元:すみません。これ、僕が特別に頼みました。実は春巻きって中国料理人の技術の指標になるんですよ。いかにゆるくきっちり巻けるか。
岸田:確かに普段見るのよりゆるい感じですね。
奥野:どうやって作ったらこうなるんだろう。でもボロボロ皮が崩れない。
岸田:確かにそうですね。うーん面白い。
米澤:口に近づけただけで、海老の香りがすごい来るんですよ。
奥野:カリッと揚がっているのに、噛み砕いてもバラバラにならない。綺麗に弾ける、生地がしっかりしている……。
牧元:油切れも綺麗ですね。この薬味はなんですか?
店:こちらは老虎菜(ラオフーツァイ)と言いまして、香菜に唐辛子を忍ばせたもので、上には杏の種の核の部分をかけてあります。こちらは食べる辣油とザーサイ、右側はディルと香菜と大葉、そしてレモンです。これはこの後の料理に合わせて、お好みでおつけください。
奥野:この杏の種の核は、熟した桃と合いそうだなあ。
米澤:美味しい!
コロナ自粛中のシェフの過ごし方
牧元:コロナの自粛期間は何をしていたんですか?
岸田:勉強とかしましたね。読まなくてはいけない本がたくさんあったので、読書しました。
牧元:料理の本ですか?
岸田:いや、料理の本は読まないんですよ。
奥野:僕は最近熟読した料理の本がありましたよ。「ヴィーガンレシピ(米澤シェフが出版したレシピ本)」です。
一堂:爆笑
岸田:ヴィーガンに対応した料理を店で出しているんですか?
米澤:うちはオープン当初からやっています。
岸田:へえ、すごい。ヴィーガンって難しくて、僕断っちゃうんですよ。できるなんて天才だなと思います。
米澤:イヤイヤ、お客さんに応えなきゃなと思っているだけですよ。
岸田:そうですね。必要だなとは思うんですが、全然できないんですよ。旨みはどうやって出すんですか?
奥野:それは「ヴィーガンレシピ」という本があるから、それを読まなきゃ。
一堂:笑
米澤:キノコとかトマトとかで濃縮感をだして、あと豆乳を使ったりとか。
岸田:なるほど!
こうして始まった4人のトーク。小林シェフの料理を水先案内人として、まだまだ続きます。第2回は近々公開予定です。
岸田周三/「カンテサンス 」オーナーシェフ
三重県「志摩観光ホテル」の「ラ・メール」に入社。東京・渋谷の「カーエム」を経て2003年にパリ16区の「アストランス」(現在、3つ星)にてシェフのパスカル・バルボに師事。2004年には同店のスーシェフに就任。帰国後、2006年に「レストラン カンテサンス 」をオープン。2007年に「ミシュランガイド東京 2008」で3つ星を獲得。以来、3つ星をキープし続けている。
https://www.quintessence.jp/
奥野義幸/「ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
米国の大学卒業後、企業に勤めるものの飲食への思いがあり、当時はやっていたイタリア料理の世界に興味を持つ。都内のイタリア料理店を経てイタリアへ料理留学。イタリア全州にて各地の料理を学び、1つ星・2つ星を取得している8店舗にて経験を積む。現在オーナーシェフを勤めるラ・ブリアンツァではピエモンテ州の特徴を組み込んだトリュフのオーブン焼きに定評がある。
http://www.la-brianza.com/la_brianza/
米澤文雄/「ザ・バーン」エグゼクティブ・シェフ
高校卒業後、恵比寿イタリアンレストランで4年間修業。2002年に単身でNYへ渡り、3つ星レストラン「Jean-Georges」本店で日本人初のスー・シェフに抜擢。帰国後は日本国内の名店で総料理長を務める。「Jean-Georges」の日本進出を機に、レストランのシェフ・ド・キュイジーヌ(料理長)に就任。2018年夏、「ザ・バーン」料理長に就任。
http://salt-group.jp/shop/theburn/
写真・広瀬 美佳
小林武志/辻調理師専門学校を卒業後、同技術研究所で講師を8年ほど務めた後、「知味 竹爐山房」をはじめ、数軒の中華料理店で研鑽をつみ、2005年に「御田町 桃の木」を開店。2020年に紀尾井町へ移転し、新たな挑戦に挑んでいる。
https://momonoki.tokyo/
マッキー牧元/1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。
更新: 2020年11月7日
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