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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品| 広尾「au deco」 掛川哲司シェフ

グルメシーンを牽引するシェフが、料理を作るうえで欠かせない食材や道具を紹介する連載「シェフの必需品」。今回、必需品を伺ったのは、広尾のフレンチレストラン「au deco(オデコ)」の掛川哲司(かけがわ さとし)オーナーシェフ。自ら立ち上げた代官山の人気ビストロ「Ata(アタ)」を離れ、新たな場でフレンチと正面から向き合うシェフの必需品とは。

憧れの“正統派”フレンチを再び 「au deco」 掛川哲司シェフ

「美味しいものが食べたい」と思ったその時に、正統派フレンチがきちんと食べられる店。そんなレストランとして当たり前のフレンチの在り方を体現するのが、「au deco」です。オーナーシェフは、代官山の予約が取れない人気ビストロ「Ata」を手がける掛川哲司氏。モダン、イノベーティブ、ビストロと、数々のムーブメントを経てきた東京のフレンチの世界から今失われつつある、フレンチの本質性を取り戻すことが必要だと、掛川シェフは語ります。食べたいものが自由にアラカルトで楽しめる気兼ねなさ、懐かしさと気品を併せ持ったクラシカルな料理、ヴィンテージワインや器に至るまで、「au deco」の一つ一つに、かつて多くの人が憧れた正統派フレンチの姿を再び映し出します。

原点は「美味しいものが食べたい」という素直な欲求

「コンビニで買った安いバゲット風のパンと、市販のチーズとハム。それを兄がサンドイッチにしてくれただけで、すごく旨かったんですよね」。共働きの両親のもと、3人兄弟で育った掛川シェフが初めて料理に関心を持ったのは、「出来合いのお弁当や工場生産の調理パンではなく、少しでも美味しい食事がしたい」という、ごく素直な感情からだったと言います。生きる術として日常的に料理に触れるようになり、将来進む道を決める時には「自分の手の中に料理しかなかった」と、掛川シェフ。複数のレストランでの下積みを経て、フレンチの名店「オーベルジュ オー・ミラドー」(箱根)の勝又登シェフに師事し、その後「NARISAWA」(南青山)で研鑽を積みます。独立して2013年にオープンした「Ata」は、当時としては新しかった本格フレンチがカジュアルに楽しめるビストロスタイルが受け、瞬く間に予約が取れない人気店に。以降も、スパイスカレー店「GOOD LUCK CURRY(グッドラックカリー)」やビストロ「Värmen(バーマン)」など、普段づかいできる店を多く手がけてきた掛川シェフが、40歳を迎え自らの身を置く新たな場として2019年にオープンしたのが、伝統的なフレンチを提供する「au deco」です。

一人の料理人として、「au deco」に懸けた師への恩返し

「『オー・ミラドー』のムッシュ勝又から学んだ“正統派”のフレンチを、途絶えさせてはいけない。残りの料理人人生を考えた時、それが僕にできる仕事であり、ムッシュへの恩返しだと思ったんです。後にも先にも、彼ほどカリスマ性を持った人には出会っていません」。ビストロを離れ、クラシカルなフレンチと再び向き合い始めた理由を、掛川シェフはそう語ります。

自身の料理観は、すべてが「オー・ミラドー」での4年にわたる修業時代に基づいていると言う掛川シェフ。今でこそ順風満帆な料理人人生に見えますが、地元の小さな専門学校から料理の世界に入った掛川青年にとって、ここまでの道のりは非常に険しいものでした。「憧れてフレンチを志したはいいものの、人脈が何もなかったので、卒業して6、7年はフレンチとは程遠い店で洗い場ばかりやっていました。出口があるのかもわからない真っ暗なトンネルの中で、ひたすらもがいていた感じです(笑)」と、振り返ります。ある時、その頑張りを見てくれていたシェフの紹介で「オー・ミラドー」へ。初めて暗闇の先に小さな光が見えたと言います。

「毎日、足の皮が剥けるくらい走り回って働きました。ムッシュはとにかく厳しかったですし、下っ端の間は直接話すことすらできない雲の上のような存在で。休みの日でも、同僚みんなが厨房に集まるんですよ、苦手な調理を練習するために」。「ムッシュに認められたい」「ライバルに負けたくない」、その一心で、互いに切磋琢磨し腕を磨く日々。そうさせるほど勝又シェフが作る料理は、味や技術はもちろん、出来上がった料理が訴えかける説得力が圧倒的だと、目を輝かせて掛川シェフは話します。「僕らは、そんなムッシュから直接指南を受けた最後の世代です。ずっと芽が出なかった自分をここまで育ててくれたムッシュから学んだ、本当のフランス料理を、次の世代に受け継げるのは、僕らしかいないんです」。

「au deco」掛川哲司シェフの必需品 3つの圧力鍋

そんなムッシュ勝又への敬意を熱く語る掛川シェフに必需品を尋ねると、一転やわらかな笑顔に。「実は、道具には本当にこだわりがないんですよね。基本的にすごく合理主義なので、包丁も使い分けしないし、まな板も薄いプラスチックのものを次々と買い替えるし……。どうしましょう(笑)」と、シェフ。「他の料理人が使ってなさそうなもので言えば」と、今回は大小3つあるという圧力鍋を紹介してくれました。「だしを取ったり、煮込み料理に使ったりしています。作業効率を考えると、半日もかけてだしを取るなんて現実的じゃない。たとえばコンソメスープに使う鶏のだしは、通常の方法だと10時間以上かかるところが、圧力鍋なら2時間程度で済みますから」。短縮できるものは短縮し、また可能な限りオーダーを受けてからその場で調理をするというのが掛川シェフのスタイルです。効率性を重視する考えは厨房にも現れていて、なんと熱源はIH。「お湯が沸くのものコンロが空くのも待ってられないんです(笑)。お客様を待たせてしまうことにも繋がる。IHなら上や近くにものも置けるし、汚れない。絶対的に効率がいいですよ」。

終始、明るくフランクに接してくれるシェフが、「オー・ミラドー」やフランス料理の行方の話になると、真剣な眼差しになるのが非常に印象的だった今回の取材。後編の「足跡レストラン」では、そんな掛川シェフが今必要だと考えるフレンチの在り方と、必需品を使って作る歴史ある一品をご紹介します。

au decoオ デコ

住所:
東京都渋谷区恵比寿2-23-3
TEL:
03-6721-9218
アクセス:
東京メトロ日比谷線 広尾駅より徒歩7分
営業時間:
月~土曜 18:00〜23:00(最終入店)
定休日:
日曜日
支払い方法:
クレジットカード可(JCB、AMEX、VISA、MASTER、Diners)

写真・広瀬 美佳 文・山本 愛理

更新: 2020年9月12日

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