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食に携わる注目の人物をインタビュー

和洋中のシェフが集結! ジャンルを越えたトークセッション 最終回

この春、赤坂でリニューアルオープンした中国料理「桃の木」小林武志シェフのもとに集まった、「バードランド」の和田利弘料理長、「ラフィナージュ」の高良康之シェフ、「リストランテ本多」の本多哲也シェフとタベアルキストのマッキー牧元さん。第3回に引き続き、ジャンルを越えた料理談義は、ますます盛り上がっていく。

料理の味をエレガントにする酸味の役割

高良シェフ(以後敬称略):酢豚といえば、中華屋さんではなくラーメン屋さんにある置きっ放しになっている黒酢で水餃子を食べた時に、嫌な思いをしたことがあるんですよ。

一同:笑

本多シェフ(以後敬称略):わかるわかる、それ。

高良:うわあ、俺、黒酢嫌いになりそう、みたいな。普通のお酢ちょうだいって言いたくなる。

和田料理長(以後敬称略):出しっ放しの醤油も劣化するじゃないですか? 劣化した醤油の香りって、すごく質の悪いバルサミコ酢と似ているんですよね。

本多:わかります。

和田:だから魚のカルパッチョ、日本人は絶対バルサミコを使わない方がいいと思うんだけど……。

小林シェフ(以後敬称略):この後に、酢豚とA菜の炒め物、卵チャーハンと続きます。

本多:(酢豚登場。それを見て)ザクロを載せてあるのがいいですね。

高良:(一口食べて)あっ、ワインを待ちましょう。酢の香りがこんなにするのに、食べてむせかえらないのがいい。

本多:あっ、本当だ。

マッキー牧元(以後、M):こんなに酢が香る料理って、洋風にはないですよね。

高良:ないですね。

M:酸味フェチの高良シェフでも、ないですよね?

本多:高良シェフは、酸っぱいのが好きなんですか?

高良:好きです。でも、酸っぱいのを好んで食べるわけじゃなくて、酸味が好きなんですよ。

M:でも、最近の若い方の料理って、酸味の使い方がゆるい気がします。

高良:変な時に入れて、にゅわんとする中途半端な酸味なんですよ。お酒もそうですが、火の入れ方がまだまだですよね。

M:酸味って、料理の味をエレガントにするじゃないですか。

本多:いわゆるこの酢豚が代表作ですよね。

M:それが今の人たちには弱いように思う。

本多:ソースペリグーもそうです。そこに、赤いヴィネガーを一滴垂らしてあげると輝きますからね。

高良:最後にほんの少しだけレモン汁を入れるとね、全部煮詰まっているもので出来上がっているから、フレッシュな酸味が入ると、ソースペリグーがめちゃめちゃ元気になる。味が若返ってくる。

本多:ソースポワブラードもそうですね。そういうのって、「アルポルト」の片岡護シェフとか、同じ年代の和食の方とかも上手ですよね。僕はそれって片岡シェフから学びました。必ずユズでもレモンでもライムでも、最後にふれと。

高良:火が入って生がいなくなる。最後にもう一回だけフレッシュ感を戻してやると、面白くなる。

本多:いわゆるメリハリが立つということですよね。

和田:だからうちでは、「日本酒にスダチを1、2滴たらすと、焼き鳥に合う日本酒になります」って書いているんです。すると、そんなに変化は感じられないのに、お酒が進むんです。

本多:いわゆるキレが良くなるんですか?

和田:そうそう。日本酒が持っている酸だけでは少し足りないんで、違う酸を少し足してやると進むんですよね。

決定的に違う、中華のソース

「地鶏焼きバードランド」の和田さん(左)

高良:これはソースも肉も一緒に作っているんですかね?

本多:いわゆるブランケットの感じですよね。でもこのザクロの酸味とソースの酸味が似ていますね。

高良:俺たち、あまり料理に砂糖を持ち込まないじゃない。こうやって上手に使いたいよね。

M:基本的に西洋料理は、デザート以外は砂糖を使わないですよね。

高良:美味しいなあ、この酢豚。

本多:これは賄いでやろうにも近づけない。実は何回も作ったことあるんですがダメだった。

高良:だって俺らの酢豚って、トマトケチャップ煮の時代じゃない?

本多:パイナップルの缶詰も使ったり……その世代ですよね。だって、専門学校で合わせ調味料にケチャップを入れなさいって教わりましたよ。

高良:小林さん、大変美味しかったです。

本多:美味しかったです。これ、包子をつけたくなりますね。

小林:うちはナスの唐揚げ、パパイヤのスープ、酢豚、クエの蒸し物、干し貝柱のチャーハンは定番で、みなさんが頼むので外せないですね。このタレもパンとか添えたいのですが、お腹いっぱいになるのでなかなかお出しできないのです。

高良:酢豚はいただきたかったんで、うれしかったです。

本多:これは別々に火を入れているのですか?

小林:はい。ものすごく簡単なので言うのも恥ずかしいんですが、肩ロースをサクに切って醤油ダレで煮るんですよ。その煮豚をストックしておいて、オーダーが入ったら切り出して、油で揚げて表面を温かく揚げ固めるんです。そして、酢豚のタレを鍋で煮詰めていって絡めるんです。

高良:醤油ダレでどのように煮るんですか?

本多:蒸し器にかけるんですか?

小林:いやいや、そのままタレの中に漬け込んで煮ます。

M:滷水(醤油や中華スパイスなどで調合した中華式醤油タレ)ですね。フランス料理のようにして、酢豚ソースと一緒に肉を煮込んでも面白いかもしれないですね。濃度は色々と変えなくてはいけないけど、そういう中国料理があっても面白いかも。肩ロースじゃなくて頰肉と豚バラとか。

高良:僕らが作るソースって、ゼラチン質があるじゃないですか。お皿をちょっと触ったんですが、フランス料理のソースは皿の温度もありますがソースが剥がれないんですよ。ところがここのは、どれもすっと取れる。

本多:糖度? 温度?

高良:わからない。フランス料理と違って、ソースが乾かない。

M:確かにパンで拭っても、皿に残る時がありますね。

和田:植物油と酢と砂糖しか入ってないから、動物性脂肪が入ってないからじゃないですか?

高良:ですかね。確かにゼラチン質や脂肪が入っていたら、こびりつきますね。

本多:バターなのかな?

高良:バターは剥がれるよ。油脂と水分だから。ゼラチン質なのかな、さっきからずっと不思議なんです。

本多:こういうソースを作れたら、お皿がピカピカになって洗わないで済む。

一同:笑

実は炒めない、中華の野菜炒め

:「A菜と干し肉の炒め」です。自家製醤油ダレで5日間漬け込み、5日間干した肉です。

高良:えっ、5日でこんなふうになるんですか!

一同口々に:美味しい!

M:中国料理の美味しい野菜の炒め物って、炒め感がなくて煮浸しみたいなんですよね。

本多:本当にそうですね。

和田:香港では、青菜炒めと書いてあるのに炒めてないことが結構ありますよ。

高良・本多:へー、そうですか?

和田:茹でる、スープかけて、ハイ、終わりみたいな。

高良:僕が行っている店の青菜炒めは、あんかけみたいになってますからね。

和田:やりすぎでしょ!

高良:そう、勉強になるなあ。5日つけて5日干してこうなるのかぁ。

本多:この肉に使っている香草が何かを知りたいですね。

高良:知りたい!

本多:この香りが出るのってすごいでしょう。

和田:使っている醤油の違いだと思うんだけど……。

塩パッ、砂糖パッ、胡椒パッと打ち込み、火力で仕上げる中華料理

高良:(チャーハンを作るのを見て)一回やったら腱鞘炎になりそう(笑)。

本多:フレンチはやらないけど、パスタは同じくらい鍋をふるんですよ。乳化させる時とか。

一同:いただきます!

高良:焼き菓子みたいな、粉に火が入った時のような香りが、ふわっとくる。

M:卵にきちんと火が入っているから。

高良:卵が入っているのに、見えない。

本多:でもちゃんと卵の甘みがある。

一同:ああ、これも美味しいわー。

高良:しかも、ネギの食感もちょうどいい、口に入れると絶対に当たるっていう……。すごいな。

和田:ネギは生のように見えて、生のいやらしさは飛んでいる。

本多:水でさらしているんですかね。

和田:中国料理でネギをさらすのはあまり聞いたことないから、さらしてないと思う。中国料理のレシピを見ると、ちょっとした和え物でもいっぱいいろんなものを入れるんだよね。これ入れてもわかんないでしょ、というものも入れて。醤油味とかに偏らないようにしている感じがある。中華料理のレシピを見ると科学的ですよね。

小林:ちゃんとしている人の料理は、それがすごいです。

高良:でも火の前に立って、その場で勝負していくじゃないですか。

小林:火力が強力なので、コンマ何秒で水分蒸発量が変化して、味が変わるんです。

高良:僕たちが言うレシピって、分量みたいなところがあるじゃないですか。でも、実はうちにはレシピがないんですよ。中国料理って僕らがいうアラミニッツ(フランス語で出来たての意味、仕込みなしで毎回その場で作り上げる料理を指す)の世界が多いじゃないですか、それって今塩2g入れたよ、なに入れたよって、絶対ない。

小林:できないできない。

本多:イタリアンのパスタと一緒ですよね。

小林:ぜったいグラムとか時間とかじゃないです。でも、ジャンルは違うんだけど、見た目の瞬間の感覚とか、ちょっと最後のふわっとやる仕上げとか……。

本多:でも火力の微妙さって、中華はある気がしますね。

小林:ユーラシア大陸の料理は、皆そういうことがある。

一同:そうですね。

M:イタリアンでも、ご主人と弟子の作るパスタは全然違いますよね。

本多:オリーブオイルの量も違いますね。

小林:なんでそんなに違うんですか?

本多:塩の振り方、材料の振り分け方と入れ方、オリーブオイルの入れ方。

M:パスタって簡単そうに見えるからこそ難しい。

小林:チャーハンも簡単そうでしょ。

M:いやあ、あれは難しいですよ。

和田:よく合わせ調味料って、炒める前に作るじゃないですか。

小林:あれは中国人のトップクラスの人に言わせると、家庭料理だと。みんなができるような仕組みです。“打ち込み”って言いましてね。塩パッ、砂糖パッ、胡椒パッとやるんですが、これ引けないじゃないですか。それで味付けられなかったらダメだと。これで持っていけるようにしないとダメだと。

M:味見しないですものね。

小林:味見している時間がもったいない。その時間分、ダメになっていく。でも、チャーハンのご飯は4名様だったら何グラム、ネギは何グラムと管理しています。

和田:ご飯は重さを測るんですか?

小林:タイ米が炊き上がったら風を当てながらすぐに冷まして、キッチンペーパーで包んで冷蔵庫に入れ、次の日ほぐして、といった段取りです。

M:でも仕上がりは、水分が残っている状態ですよね。

小林:それは管理しています。

乳化のテクニック。均一にならない美味しさをめざす

「ラフィナージュ」の高良シェフ(中央)と「リストランテ本多」の本多シェフ(右)。

本多:さっき高良シェフが言っていたのが、ソースが皿にこびりつかないということ。

小林:でも、バターモンテじゃないですけど、うちは油脂使いますし、たとえばフカヒレはネギ油でモンテするんです。

本多:乳化だ。

小林:わざと雑に乳化させて、油と液体を分離させながら美味しさを出すという点もあるんです。

高良:それは乳化している?

小林:そうなんですけど、とろりとしたソースの中に、油滴が点々と残っている感じです。

高良:僕もあえて混ぜないでという料理がいっぱいあるんです。サラダに関しても混ぜ切るなとか。チュイルにしても指で伸ばせとか、そうするとハラハラ崩れるところと厚いところが出てくる。だからソースは乳化しているんだけど、あえてその中に油脂が浮かんでいて、口の中に入ってくるアタックを変化させる。

本多:それって、北欧的な最近の料理でオイルの点々があってそこにソースを流していく料理って違うと思うんですよ。

高良:“ジュ・トランシュ”っていって、“トランシュ”って別れるっていう意味なんですけど、ソースを乳化させないで油脂分だけを浮かす時があるんですよ。それはわざと狙って作るんです。

M:その狙いは何ですか?

高良:ジュの部分、酸味が入っている部分、油脂の部分と箇所箇所で味が変わるのを感じてもらうことです。だから繋がない。しかも重くしたくないので(乳化すると重くなるので)やるんですが、それもソースの温度があって、初めて油が入っての香りなんです。個別にふっていては皿の中で香りが立たない。

本多:僕が言っていたのは、同じ温度で、ただ見た目だけでやっていてはダメでしょ、ってことです。

小林:僕らは鉄鍋の中だけで瞬間に作っちゃうんで、そこまで考えたことはないです。でも、乳化させちゃうと味が均一になるじゃないですか? 均一にならない美味しさってあると思うんです。

本多:よだれ鶏なんかまさにそうですね。あれ、繋がっていたら面白くないですよね。

小林:そうです。

高良:うちのハタで使っているソースは、酒を入れて煮詰めます。でも、煮詰めない中途半端なところでハタからとった出汁を入れるんです。そして、まだ曖昧なところでバターを入れるんです。それを沸かしていくと、バターの持っている水分で“乳化している風”になるんです。でも、食べ始めると液体と油に分かれるんです。そこに目一杯刻んだハーブを入れて出す、という料理をやっています。

小林:バターが乳化していないと、重く感じそうですけど……。

本多:さっきのよだれ鶏みたいに旨みが下にあって上に油があるんで、そこにハーブがあることによって、多分重く感じさせないんだと思います。逆にさらっとしている感じ。

小林:ハーブが香り立つ温度に持っていかないといけない……。

高良:そうなんですよ。タケノコとかホワイトアスパラとかの人間が香りを感じやすい温度って60度くらいなんですけど、それぐらいの温度帯に持っていく意識ですね。温度を測るわけにはいかないので、口の中に入った時の温度を考えることですね。

小林:行き着くところはどこのジャンルも同じだと思うんです。

高良:いやあ、今夜は感動しました!

本多:本当に素晴らしかったです。

和田:いやあ、美味しかったです。また来ます。

高良:もう一回、最初に戻れますよ。

一同:笑

高良康之/ホテルメトロポリタン勤務を経て、89年渡仏。パリ・サヴォワ地方などフランス各地で2年間研鑽を積む。帰国後は、赤坂「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」副料理長、日比谷「南部亭」料理長を歴任し、2002年「ブラッスリー・レカン」オープンに伴い、料理長に就任。「銀座レカン」総料理長を経て、2018年10月、銀座五丁目に自身の店「レストラン ラフィナージュ」をオープン。
https://laffinage.jp/

本多哲也/東京調理師専門学校卒業後、「リストランテ トゥーリオ」ほかで修業を積み、1997年に渡仏・渡伊。イタリアの三ツ星レストラン「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ本店」ほかで修業を積み、99年に帰国。「リストランテ アルポルト」にて副料理長を務め、2004年に「リストランテ ホンダ」を開店。
http://ristorantehonda.jp/

和田利弘/1987年に阿佐ヶ谷にて「地鶏焼きバードランド」オープン。2001年、銀座に移転し、現在は銀座と丸の内の2店舗を取り仕切る。
http://ginza-birdland.sakura.ne.jp/

写真・広瀬 美佳

小林武志/辻調理師専門学校を卒業後、同技術研究所で講師を8年ほど務めた後、「知味 竹爐山房」をはじめ、数軒の中華料理店で研鑽をつみ、2005年に「御田町 桃の木」を開店。2020年に紀尾井町へ移転し、新たな挑戦に挑んでいる。
https://momonoki.tokyo/

マッキー牧元/1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

更新: 2020年6月4日

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