和洋中のシェフが集結! ジャンルを越えたトークセッション No.1
2020年の春、装いを新たに赤坂でリニューアルオープンした中国料理の名店「桃の木」。ある夜、小林武志シェフのもとに、3人の料理人が集結。小林シェフの料理に舌鼓を打ちながら、ジャンルを越えた料理談義に花を咲かせた。
フレンチ、イタリアン、焼き鳥&タベアルキストのトークスタート
この夜、「桃の木」にやってきたのは、フレンチ「ラフィナージュ」高良康之シェフ、イタリアン「リストランテ本多」本多哲也シェフ、焼き鳥「バードランド」和田利弘料理長と、タベアルキストのマッキー牧元さん。それぞれが食べたい料理を小林シェフにリクエストし、トークが始まりました。
マッキー牧元(以後M):みなさん、今日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。みなさん、普段は中国料理店に行かれますか?
高良シェフ(以後敬称略):あまり行きません。
本多シェフ(以後敬称略):私もそんなに多くないんですが、まかないが多いんですよ。
M:和田さんはよく行かれていますよね。
和田さん(以後敬称略):はい、よく行きます。先日も荻窪の「北京遊膳」へ行きまして、斎藤永徳シェフと陳皮牛肉餅のことを話したら、「ほー、いいねぇ」と言われていました。
M:今、陳皮牛肉餅の話が出ましたが、事前にみなさんに食べたい食材か料理を上げてもらいました。和田さんは、陳皮牛肉餅とすっきりとしたスープを。高良シェフは、黒酢酢豚とアワビを。本多シェフは、フカヒレでしたね。
和田:香港の郷土料理の陳皮牛肉餅は、昔、香港の「福臨門」で食べた味が忘れられなくて注文しました。これ、結構うまいんですよ。小林シェフとは、辻調理師学校の助教授をやられている頃に、吉祥寺の「竹爐山房」(東京を代表する名店。2019年に閉店)で、初めてお会いしました。
M:小林シェフはその後辻調をやめて、「竹爐山房」で修業されるんです。助教授だったので、中国料理の知識はある程度あると自負されていたのですが、「竹爐山房」の山本豊シェフの知識量に出合って愕然とし、勉強が足りないと思われたそうです。その後、「際グループ」(東京を中心に多くの飲食店を経営する会社)に入るんですよ。そこには中国から特級厨士が来ていて、辻調や当時の日本の飲食店では誰もやってない技法を学べたそうです。
和田:最初「桃ノ木」を始められた時、唐辛子がいっぱい入ったナスの料理が話題になりましたが、実はそれ以外でも素晴らしい料理がたくさんあったんです。
素材の切り方に出る、料理人の個性
店:「揚げピータンの油淋ソース」と「ジャガイモとインゲンの炒め」です。
M:このジャガイモとインゲンは一回揚げてから炒めるのですが、最大限の火力で調味料を振り入れながら炒めます。それこそ手を止めれば焦げるような状態で炒めきり、その時、インゲンやジャガイモから出た水分の飛沫が微妙に焦げて香ばしさが出るのを狙うそうです。
高良:我々は、高い温度は使わないですからね。
本多:油の使い方が違う。
高良:(ピータンを食べて)美味しい。酸味のバランスが素晴らしい。
本多:何年か前に「桃の木」に行ったことがあるのですが、最初から中国料理のイメージが全くが違います。薬味が効いているんだけど、効いてない細かさがある。
M:ネギなどの薬味が細かくて正確ですよね。小林さんに、「これ、中華包丁でやるんですか?」と尋ねたことがあるんです。そうしたら、「いや最近よく切れる和牛刀を手に入れましてね。1ミリ角が0.9ミリ角に切れるようになったんです」と言うんです。その0.1ミリを追求しようという点がすごい。
本多:切るというテクニックで、調理人の細かさや性格って出ますよね。
M:性格ですか?
本多:性格です。こういう風に切ろうという考え方。
M:細かく切ろう、1.5ミリでは許さない、という信念のようなものですね。
高良:これまではソースを作る時に、エシャロットとかをみじん切りにしていたんですが、やめました。みじん切りにすると嫌なえぐみが出るんですよね。
M:潰れたことによってですね。
高良:切った断面が増えれば増えるほど出てくる。だから必要はないな、と思ってスライスするようにした。スライスで十分だなと。それで香りを出していけばいいし……。しかし、小林さんのはこれだけ細かくしながら嫌な味が出ていない。
和田:そうそう。
本多:よほどよく切れるのでしょうね
和田:僕は、小林さんが中華包丁で非常に細かく切る技を見て驚いたことがあるんですが、和牛刀でもやられるんですね。
M:普段使うのは中華包丁だから、重いのは持ち慣れているんじゃないですか。
本多:だから軽快に切れちゃう!
高良:ほんとに嫌なえぐみがない。
本多:生ですからね。
M:フレンチだとエシャロットを多用するじゃないですか。目的は香りですか?
高良:そうです、よく使います。入れたくない時は、お酒しか煮詰めませんけど。それにしてもこのピータン絶品です!
M:ピータンは、発酵が弱めで一番軟らかい糖芯ピータンが使われています。
本多:これは学ぶべきものがあります。中華独特の甘みと酸味のバランス。
絶妙なラインで味をまとめる小林シェフの料理の美学
店:よだれ鶏です。
M:よだれ鶏でソースが多いのは珍しい。
和田:そうですね。
高良:よだれ鶏のこの旨み感はなんですか。うまい!
和田:そして、一緒に入っているピーナッツが香ばしくて、お酒が飲みたくなる。
本多:本当にこのピーナッツはおいしい。これ、こんな小さいのは国産かな? 僕は地元ということもあって、秦野産を使いますが甘いんです。
M:どんな料理に?
本多:今は生を煎ってからペーストにして、白子のピューレと混ぜてパスタと和えてスープっぽい感じを出しています。このピーナッツ、揚げているんですかね。皮にも皺が寄ってないし。
高良:ピーナッツはどうしているんですか?
小林シェフ(以下敬称略):一度低温でじっくりと揚げています。これは中国産です。長いものじゃなくて短いもので。短いものだと日本のものとはかなり違います。
高良:全然違いますよね。
和田:あえて渋皮つけてローストしているので、あの渋さというか苦味が味に微妙に出るんです。
本多:でも、苦味を感じない程度で甘みが引き立つというか……。
小林:そのまま食べていくとちょっとえぐみがある。香菜とか辣油やタレとかの相乗効果でそう感じるんです。だから香菜を召し上がれない方でも、このタレだと食べられてしまうんです。
M:さて、お酒はどうしましょう?
高良:リストを見たんですが、ローヌとロワールといった中国料理に合うワインが充実していました。
和田:さっきの油淋ソースは、甕出し紹興酒が飲みたくなりますよね。
M:まさしくそうですよね。
高良:酢豚が食べたいと言ったのは、ワインと一緒にどうぞとすすめられていたからで、食べてみたかったんです。
M:だからといって、ペアリングは疲れますよね。最近は12皿とかのコースがあるじゃないですか。また、間に日本酒入れられると……。そこでシャットアウトされちゃう。
本多:そうですね。でも、ぬる燗を出された時はあるなと思いました。
高良:山廃とか、ああいう酸味があるものはいいよね。ダメだなこれは、酒飲んじゃう料理だな(笑)。
和田:シュナンブラン、いきましょう。
M:ではワインと、甕出し紹興酒、両方もらいましょう!
一同:笑
高良:よだれ鷄は、なんでこんなに嫌味じゃないくらいの辛さなんですか?
本多:ちょうどいいんですよね。
和田:刺し込むような辛さじゃない。
M:辛さもしかり。絶妙なラインで味をまとめるのは、小林さんの料理の特徴のような気がします。美学といってもいいような……。
和田:「桃の木」ができた頃、鴨舌と水煮牛肉が話題になったんですが、本当に得意なのはそこじゃないんですよ。ある日の昼に、お任せでさっと食べて帰りたいといったら、カサゴの清蒸し一匹とご飯を出してくれました。
高良・本多:それ最高じゃないですか!
和田:蒸し汁をご飯にのっけて食べたら、もう……。
M:最高の贅沢ですね。
こうして始まった5人のトーク。小林シェフの料理を水先案内人として、まだまだ続きます。
第2回はこちらから。
高良康之/ホテルメトロポリタン勤務を経て、89年渡仏。パリ・サヴォワ地方などフランス各地で2年間研鑽を積む。帰国後は、赤坂「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」副料理長、日比谷「南部亭」料理長を歴任し、2002年「ブラッスリー・レカン」オープンに伴い、料理長に就任。「銀座レカン」総料理長を経て、2018年10月、銀座五丁目に自身の店「レストラン ラフィナージュ」をオープン。
https://laffinage.jp/
本多哲也/東京調理師専門学校卒業後、「リストランテ トゥーリオ」ほかで修業を積み、1997年に渡仏・渡伊。イタリアの三ツ星レストラン「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ本店」ほかで修業を積み、99年に帰国。「リストランテ アルポルト」にて副料理長を務め、2004年に「リストランテ ホンダ」を開店。
http://ristorantehonda.jp/
和田利弘/1987年に阿佐ヶ谷にて「地鶏焼きバードランド」オープン。2001年、銀座に移転し、現在は銀座と丸の内の2店舗を取り仕切る。
http://ginza-birdland.sakura.ne.jp/
写真・広瀬 美佳
小林武志/辻調理師専門学校を卒業後、同技術研究所で講師を8年ほど務めた後、「知味 竹爐山房」をはじめ、数軒の中華料理店で研鑽をつみ、2005年に「御田町 桃の木」を開店。2020年に紀尾井町へ移転し、新たな挑戦に挑んでいる。
https://momonoki.tokyo/
マッキー牧元/1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。
更新: 2020年5月12日
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