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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品| 紀尾井町「赤坂 桃の木(あかさか もものき)」 小林 武志

グルメシーンを牽引するシェフが、料理を作るうえで欠かせない食材や道具を紹介する連載「シェフの必需品」。今回訪れたのは、2016年より5年連続でミシュラン二つ星を保持する中国料理の名店「桃の木」。今年3月に紀尾井テラスに「赤坂 桃の木」として移転オープンし、さらなる高みを目指し続ける小林武志(こばやし たけし)シェフに、二つの必需品をうかがいました。

素材の味が伝わる“きれい”な中国料理 「赤坂 桃の木」 小林武志シェフ

食通でなくとも、「桃の木」の名を一度は耳にしたことがある人も多いはず。2005年に東京・三田で「御田町 桃の木」としてオープンしたその中国料理店は、オープンからわずか3年後にミシュラン一つ星を獲得。2016年からは5年連続で二つ星を保持する、今や日本を代表する中国料理の名店です。小林武志オーナーシェフが目指すのは、シンプルでありながらも味わい深い「素材本来の美味しさが伝わる“きれい”な中国料理」。培ってきた技のすべてが注ぎ込まれた小林シェフのスペシャリテを求めて、連日多くの食通たちが訪れます。

わずか1ヶ月で虜になった中国料理

小林シェフが料理人を志し始めたのは高校生の頃。「土曜日の夕方に放送されていた『料理天国』というテレビ番組が好きで。出てくる料理はすごく美味しそうだし、フレンチのシェフはかっこいいし(笑)。最初は、フレンチの料理人になりたかったんです」。辻調理師専門学校に入り憧れのフランス料理を学び始めましたが、「フレンチは1ヶ月でやめました(笑)。実習や講習を受けてみたら、フレンチや和食よりも中国料理に夢中になって」。卒業後は同技術研究所で約8年間講師を務めた後、「竹爐山房(ちくろさんぼう)」の山本豊シェフに師事。そこで現場のノウハウを一から学びます。その後、いくつかの中華料理店で修業を重ね、2005年に東京・三田に「御田町 桃の木」をオープン。そして、2020年3月に「赤坂 桃の木」として紀尾井町に移転し、新たな一歩を踏み出しました。

仕上げの前に、どれだけ仕事をするかがすべて

多くの人を魅了し続ける、小林シェフの“きれい”な中国料理。地味なほどにシンプルで、軽やかでありながらも奥深い美味しさは、想像を絶するほどの丁寧な仕込み仕事と、長年培ってきた技に裏打ちされています。たとえばスペシャリテの一つである「干貝柱の炒飯」は、卵は濾してなめらかにし、米は炊飯後に送風機を使って水分を飛ばしながら冷まします。さらに干貝柱は、少量の水で戻した後、繊維1本1本に沿って細かく手で裂きほぐす。「海外で作って見せると『クレイジー!』と言われます(笑)。でもその仕事が、最後の美味しさに繋がるんです。少しでも怠ると、舌触り、香り、見た目の美しさ、すべてが変わってしまいます」。

聞けば聞くほど、一つの料理にかけられている緻密なまでの下ごしらえに驚くばかり。「店を始めた頃、オーダーを受けた後に少しでも早く、美味しく、美しい料理を提供したいと考え始め、突き詰めていったら自然とこうなった」と、小林シェフ。自己流だということにもただただ頭が下がります。「仕上げで火をコントロールする技もとても大事。でも、その前にどれだけの仕事をするかがすべてです」。

「赤坂 桃の木」 小林武志シェフの必需品 美味しさを格上げする「牛刀」

一つ一つの仕事が緻密ゆえに、使う道具で味や仕上がりが変わるという小林シェフ。「とにかく、ものすごく、切れるんです」と見せてくれた必需品が、昨年の夏頃から愛用している牛刀です。「“切れる”ってこういう感覚なのだと思い知りました。この包丁を使い始めてから、よりいい仕事、美味しいものができるようになりましたね」。これまで1ミリ角でしか切れなかった野菜が0.9ミリ角で切れるようになり、細胞を壊さずスパッと切れるためにみずみずしさが保たれ、食材が傷まなくなったといいます。「野菜がね、生きてるんですよ」。そう言いながらネギを切って見せてくれた小林シェフ。縦から切り横から切り、でき上がったネギのみじん切りはあまりにも細かくてまるで雪のよう! 「普通は、ある程度まで細かく切ったら残りは叩いてしまいます。でも、僕はきちんと最後まで“切る”。叩いてしまうと野菜が潰れてしまうし大きさもバラついてしまうけれど、いい包丁で“切った”野菜はどんなに小さくなっても存在感があり、素材の味、香り、食感がちゃんと生きているんです」。

香港で買った網

二つ目の必需品は、3年ほど前に香港の道具街で偶然出合った網です。小さな穴が空いたおたまのような道具で、日本ではあまり見かけないもの。「すごく便利ですよ。針金で編んだ網と違って、1枚のステンレスをプレスしてあるから継ぎ目がなくて丈夫ですし」。鍋の中のアクや浮遊物を取るのはもちろん、濾したり、ペーストを作る時にも使うのだそう。デザインよりも実用性を重視する中国には、訪れる度に便利な道具が開発されていておもしろいと話します。「これ1本をずっと使い続けていますからね。日本では見たことがないので、壊れてしまったらまた香港まで買いに行かないと(笑)」。

細やかな技が光る「前菜の盛り合わせ」

今回小林シェフは、必需品を使って「前菜の盛り合わせ」を作ってくれました。「甘鯛の揚げもの」「いんげんとじゃがいもの炒めもの」「よだれ鶏」の3品です。

「甘鯛の揚げもの」には、先ほどの0.9ミリ角に“切った”数種類の野菜入りのタレを添えて。彩り豊かな野菜が皿いっぱいに浮かぶ様子は、まるで万華鏡のよう。こんがりと揚げられた鯛とともに口にすると、鯛の香ばしさの後ろで小さな野菜一つ一つが放つ存在感に驚きます。こんなにも細かいのに、シャキッとした食感とみずみずしさを確かに感じるのです。

和食の名店「京味」の店主、故・西健一郎氏も愛したという一品が「いんげんとじゃがいもの炒めもの」です。二つの野菜を、それぞれの美味しさが最大限に引き立つようにタイミングを合わせて揚げ、「揚がったら熱いうちにしっかりと油を切る。これが皿に残ると、重たくなってしまう」と、シェフ。タレを絡めて強火で一気に煽って水分を飛ばすと、表面はカラリとしつつもタレの香ばしい香りをまといます。プチッと弾けるいんげんとホクホクのじゃがいもの美味しさが、見事に活かされた一品。「よだれ鶏」は、皮付きのローストピーナッツ、ごま、山椒、香菜とともに、香りを楽しみながら。どれもシンプルに見えて、丁寧な仕事と技が詰まっています。

後編の「足跡レストラン」では、小林シェフ渾身のスペシャリテをご紹介しながら、移転オープンにかけた決意に迫ります。乞うご期待!

赤坂 桃の木あかさか もものき

赤坂 桃の木

住所:
東京都千代田区紀尾井町1-3 紀尾井テラス3F
TEL:
050-3155-1309(予約専用)
アクセス:
東京メトロ有楽町線・半蔵門線・南北線 永田町駅 9a出口直結、東京メトロ銀座線 赤坂見附駅 D出口より徒歩1分
営業時間:
17:30~22:00(L.O.21:00)
定休日:
水曜日
支払い方法:
クレジットカード可(JCB、AMEX、VISA、MASTER、Diners、DC、UC、UFJ)
URL:
https://momonoki.tokyo/

写真・広瀬 美佳 文・山本 愛理

更新: 2020年3月24日

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