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日本の魚の未来を考える 「第一回まぐろミーティング」 後編|SPECIALイベントレポート

現場のプロに聞く、太平洋クロマグロの現状

全編に引き続き、「日本の魚を考える会」「一般社団法人Chefs for the Blue」が、食に関わる人たちと問題を共有するシンポジウム「まぐろミーティング Vol.1」の様子をレポートします。前編では、太平洋クロマグロ(近海本マグロ)は減少の一途を辿り、このままでは近い将来、私たちはマグロを食べられなくなる日がくるかもしれないというお話でした。後編では、厳しい規制のもと資源が復活した大西洋クロマグロの事例、現場の漁師や料理人たちの意見交換の様子を報告します。

資源を適切に管理すればマグロは復活する!

臼福本店 臼井壯太朗社長

創業は明治15年。 “はえ縄漁業”にこだわり、現在遠洋マグロ漁業を営む「株式会社臼福本店」の臼井壯太朗さんが登壇されました。はえ縄漁とは全長約150㎞の幹縄に、枝縄という約2500本ほどの釣り糸を枝のように取り付け、イカや小魚などの餌を付け、漁場に流して回収するといった日本発祥の伝統的漁法の一つ。毎日6時間、手作業で餌を付け、12時間かけて縄を引き上げるという、非常に手間暇のかかる作業です。昼夜を問わず交代制で作業を行い、一航海は一年近くもかかるそう。

「それだけやっても獲れるクロマグロは、仕掛け2500本の内の1パーセント程度。激減していた時には、2〜3本ということもありました。私たちのクロマグロの年間漁獲量は60トン程度ですが、それは“巻き網漁”だと一回で獲れてしまう量です。大西洋クロマグロの数は1970〜2000年代に危機的な状況になったのを受け、欧米諸国や日本のはえ縄漁業者が厳しい漁獲規制を行ったことで奇跡的な復活を遂げました。産卵期の漁獲規制や不正漁獲対策のトレーサビリティを徹底し、みんなでしっかりした漁獲管理を行った結果、マグロの量が増えてきて……。管理をきちんとすれば、資源が増えるということは実証済みです」と臼井さん。

はえ縄漁業にこだわり、遠洋マグロ漁業を営む臼福本店。写真提供:株式会社臼福本店

「株式会社臼福本店」は現在6隻の漁船を所有し、大西洋アイルランド沖、カナリア諸島沖、南アフリカのケープタウン沖、オーストラリアの西側やインドネシア沖で操業をしています。日本が漁業立国だったかつては、この地域にも日本船がたくさん操業していたのだとか。1970年代の200海里水域が設定以降は操業ができる海が減り、また漁獲規制も年々厳しくなるにつれて、日本の水産業者は撤退していったといいます。

臼井さんは続けます。「釣り上げた大西洋クロマグロは船上で一匹ずつ重さをはかり、日時、重さ、位置情報などを記録し、ICタグをエラのところに取り付けます。水産庁に毎日報告する義務があるのです。『違反していないかどうか』を常に監視するオブザーバーも乗船しています。漁期を終え、水揚げ時に私たちに割り当てられた年間漁獲量を1キロでも超えたら、禁固刑やライセンスの剥奪もありえます。規制がほとんどない太平洋クロマグロとは全く別の世界です。最初は私たちもそのやり方に反対していましたが、今はよかったと思っています。結果的に資源回復に繋がったからです。太平洋クロマグロもきちっとしたフェアなルールを確立して、資源の枯渇を避けてほしいですね」。

世論を盛り上げる! そのために私たちができること

臼福本店は“気仙沼の魚を学校給食に”と、食育活動も熱心に行っている。写真提供:株式会社臼福本店

「料理で使う海の資源全般でいうと、12年前と今では、魚の質が下がっていると実感。上質なものをそろえるのに苦労します。何故なのか? 疑問に思い、色々と情報を集めいている過程で、マグロが危機的状況であることを知りました」と、シンポジウムに参加した三つ星レストラン「カンテサンス」のオーナーシェフ、岸田周三さんは話します。岸田さんは「一般社団法人Chefs for the Blue」の中心メンバーの一人。限りある海の資源を未来につなげていくために、メンバーのシェフたちと共に草の根の活動を行っています。岸田さん個人でも、マグロを含む海の資源の危機的状況をお客様や関わる人々に発信しているそうです。

一方で「鮨屋はマグロがメイン」と語るのは「すきやばし次郎」の小野禎一さんです。東京には約4000軒の鮨屋があり、その10パーセントが銀座にあるとか。なかでも最高峰と言われ、各国のVIPも訪れるこの店でもまた、上質な太平洋クロマグロを入手するのに苦労しているといいます。「20年前には部位も選び放題だったのですが、今では最高なものが手に入るのは年に1〜2回。近い将来、本当のマグロの味を知っている人が少なくなるのではないでしょうか?」。資源を使う側としては「私たちが知らないマグロの事実を、もっとマスコミが報道して、世論を盛り上げてほしい」とも。みんなで声をあげ、ボトムアップすることの必要性を訴えました。

「すきやばし次郎」小野禎一さん、「カンテサンス」オーナーシェフ 岸田周三さん

マグロの仲卸業を営む「株式会社フジタ水産」は「すきやばし次郎」など、数多くの一流店にマグロを納めています。「どの鮨屋にも、あって当然と思われている近海のマグロですが、実はそうではありません。たとえば、大間でもマグロの獲れる量が減っているのです。大間の漁師たちは、最近導入された漁獲規制を守るために、今年は7月は漁を自粛し、8〜9月は禁漁。10〜12月の3か月間に勝負をかけて一本釣りに出漁します。それでも小ぶりなものが多く、本数も上がらないのが現状です。地方の小規模漁業者は、良いマグロを安定して供給するために、自主規制して守る努力をしています。しかし、6-7月の産卵期に巻き網がこぞって獲ってしまっては、そんな努力も全く無意味」と代表の藤田浩毅さんは、憤りを感じているようです。

太平洋クロマグロの代表的産地のひとつ、大間から駆けつけたマグロ漁師の南芳和さんは次のように話しました。「マグロと漁師が一対一で向き合う一本釣り。そうそう簡単に餌に食いついてもらえるわけではありません。マグロに餌を選んでもらうため多くの工夫を凝らし、早朝〜日没まで格闘して、一本をようやく釣り上げた時は、漁師冥利に尽きますね。そんなマグロは大切に扱い、美味しく食べてもらうために血抜き、神経締めなどできちっと処理をして送り出します」。

現在、マグロ専業で生計を立てている船は、大間では20隻程度しかないそうです。このままでは若手漁師の育成はもちろん、前編の記事で伝えたように地方の小規模漁業は衰退してしまうでしょう。一刻も早い漁業改革が望まれます。そのためには、私たちが漁業の現場で起こっていることを正しく知り、情報を共有していかなくてはなりません。そのためにも、「まぐろミーティング」の次回開催に期待したいところです。

大西洋クロマグロのMSC(国際的な海のエコラベル、Marine Stewardship Council)認証を受検中の臼井壯太朗社長。船は臼福本店所有の第一昭福丸。写真提供:株式会社臼福本店

文・ナイキミキ

更新: 2018年11月27日

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