全国から客を呼び寄せる、西表島の小さな食堂 「はてるま」|マッキー牧元の美味しいから旅をするのだ!

西表島「はるてま」のトリセツ

人気店ゆえに要予約。夜のみの営業なので、近所の民宿と合わせて予約が必要。稀少な泡盛、波照間酒造の「泡波」がいただける。

忘れ去られつつある“食の誠実”に会いに

西表島に夕闇が迫る。

とっぷりと暮れた原っぱに立つ、小さな食堂に明かりが灯る。辺りには、ほとんど飲食店などない場所である。しかし、この店を目指して全国から客がやってくるという。なぜならここには、今の日本から忘れ去られていく、“食の誠実”があるからである。先人たちが残した知恵に敬意を払った料理が生きているからである。

自分で獲った魚と育てた野菜で料理をつくる。そのために先代の女主人は、那覇から西表島に移住し、店を開いた。今は、その息子さんの吉本信介さんが、母の味を、母の料理を、繋いでいる。

日本中の文化人が恋い焦がれて、この店を訪れるためだけに西表島にやってくるという。まず味付けが恐ろしい。これ以上でもこれ以下でもない地点にピタリと収まって、ゆるぎない。どの料理も、地平線の彼方まで優しいのである。

「お造り」
マグロ、アカマチ(尾長鯛)、ミジュン(小イワシ)、ヒレ長カンパチ、ウムズナー(ウデナガカクレダコ)

醤油にコーレーグースとシークワーサーを入れて。沖縄の魚は総じて身がだれていることが多いが、締まってねっとりとした甘みを感じる。

「ミジュンと長命草の南蛮漬け」
香ばしい。長命草の新芽だけを使っているので軟らかく、魚の食感と相性がいい。

「カーナイリチー 」
豚肉とキノコを炒め、醤油とみりんを入れて味が決まったらカーナ(海藻オゴノリ)を入れるのだという。豚肉とキノコと炒め合わせて味をつけただけなのに、鳥肌が立つほどうまい。

「島たけのこの炒め物」
薄味で炒めてあるがゆえに、タケノコ自体の淡い甘みがじんわりと伝わってくる。

「パパイヤの煮物 」
パパイヤは、白いうちは野菜、色がついてきたら果物という。白いのと色がついてきたパパイヤを一緒に煮込んである。果物の甘みが煮汁を染めて、野菜を自然にうまくする。

「味噌ラフテー 」 
豚の凛々しくも穏やかな甘みと味噌が出合い、“新たな天体”をつくっているようだ。これを口に含み、地元の貴重な泡盛「泡波」と合わせると、時が永遠となった。

「アカマチのマース煮」
なんと優しい味わいだろう。マース(塩)がアカマチの穏やかな旨みを引き出して、食べ進むごとに心が柔らかくなっていく。

「苦菜のなまり節あえ」
苦味を伴った野菜のたくましさが、舌をキックする楽しさがある。

「ガザミと西表島新米ごはん」
米にガザミの旨みが染み込んで、幸せが体の底から迫り上がる。

「モーウィ(赤毛瓜)の酢の物」
「削りたての鰹節の汁ソーメン」
「西表島のパッションフルーゼリーとカットパイン」

どの料理も食材の香りと味わいが、生き生きと舌を包み込む。心に火を灯し、脳を安らかにし、身体をひっそりと強くする。料理を食べながら、痛切に思った。

なぜ、僕らはこういう料理を大切にしなくなったのだろう。

高級食材や珍味を喜び、インスタ映えに走り、ご馳走を食べたことを自慢するようになったのだろう。舞い上がり、浮き足立った料理と心は永遠に地面に降りることができないことを、気づかなくなったのだろう。

日本にこの店があることを、誇りに思う。
西表島「はてるま」。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

はてるまハテルマ

住所:
沖縄県八重山郡竹富町字南風見201-101
TEL:
0980-85-5623
営業時間:
19:00~23:00(前日までに要予約)
定休日:
日曜と不定休
支払い方法:
現金のみ

更新: 2020年11月6日

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