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心を動かす“山の夏”の美味 滋賀県「比良山荘」|マッキー牧元の美味しいから旅をするのだ!

年に一度はなんとしても訪れたい宿

京都から若狭に抜ける鯖街道沿いに佇む小さな一軒宿「比良山荘(ひらさんそう)」に、初めて訪れたのは、今から20数年前だった。

元々は比良山に登山する人のための宿として創業され、今は三代目となる伊藤 剛治氏が、宿兼料理屋として営まれている。20数年前は、まだ全国にその名が広まる前だったと思う。ここで初めて熊肉のおいしさを知った。雪のような脂身がちりちりと縮れ、深い甘みと肉の猛々しさが溶けていく官能を体験した。そして、ご主人が焼く鮎の味に、松茸の香りに、狂喜した。したたかに酔い、二日酔いながら翌朝の芋粥のやさしさに、なんど涙したことか。

去年の夏に訪れる機会を得たが、山の味わいはさらに深化して、心の機を動かす。それではその、夏の「比良山荘」の料理を紹介しよう。

先付け:鰻押し寿司 黒豆枝豆 トウモロコシかき揚げ 青梅、春子(アマゴの稚魚)の南蛮漬け 鯉の玉子に木の芽

ガラス皿の上で、“山の夏”が小さく爆ぜている。様々な甘みや旨み、酸味が舌に染み込み、食欲を刺激する。

鮎のなれ鮨

傍らの藁葺き屋根をかたどった器の蓋を開けると、堂々たるなれ鮨が現れた。練れながらも溌剌とした酸味が舌を刺し、酒が恋しくなる。

煮物椀:岩茸 新銀杏ちぎり梅 炒り米

素晴らしい。
梅の塩気だけで呑ませる、清廉なる淡い淡い仕立ての吸い物に、炒り米の香ばしさが漂う。

お造り:鮎のお造り

シコッ。
鮎は歯の間で悶えると、なめらかに消えていった。清流を泳ぎ抜く鮎は、アスリートである。それはこのお造りの強靭さが物語っている。噛めばそっと脂を潜め、ほのかな野生の香りを漂わす。味は淡い。噛んでいくと、微かな滋味のようなものが顔を出す。最初は酢に漬け、次は子うるかをのせて食べる。うるかの練れた塩気によって、塩焼きにされた時に感じる凛々しさが、ふっと現れたような気がした。それは親子の情だったのかもしれない。

アメノウオ(琵琶マス)鰻の焼き霜 胡瓜メロン

琵琶マスのきめ細やかで滑らかな身から、脂がじっとりと滲み出て目が細まる。一方、鰻には、微かな海老香に似た香りが滲み出てくる。

焼き:鮎塩焼き

鍋:月とスッポン

スッポンの出汁で炊くツキノワグマである。チリリと縮まった熊の脂の甘みが、滋味を湛えるすっぽんのスープに溶け込んで、深遠を極める。湖と山の恵みが、抱き合って新たな高みを生み出す。

焼き:安曇川鮎の塩焼き

前者の鮎も素晴らしかったが、圧倒的に香り高い。肝の甘いこと。

強肴:青干しゼンマイ(松葉で燻製したもの)猪ロース 甘長唐辛子、カブ、 イタドリ

飯:鮎ご飯

米一粒一粒に鮎の香りがまとわりついて、しみじみとしたうまさが募る。充足に満ちた締めのご飯である。

甘味:枝豆お餅 鶯粉 岩梨

庭を望みながら約2時間強、ゆっくりと山の幸をいただく。その非日常を味わう時間の、かけがえのないこと。最寄駅からは遠いが、季節ごとになんとしてでも足を伸ばしたい店である。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

比良山荘ヒラサンソウ

住所:
滋賀県大津市葛川坊村町94
TEL:
077-599-2058
アクセス:
京都市内から車で約50分・JR堅田駅(湖西線)より車で約30分
営業時間:
11:30~13:00最終入店 17:00~19:00最終入店(予約制)
定休日:
火曜日
支払い方法:
カード可 (VISA、Master、AMEX)
URL:
http://hirasansou.com/

更新: 2020年9月15日

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