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自然と料理に心で向き合う。大阪高槻「心根」(ココロネ)|マッキー牧元の美味しいから旅をするのだ!

緑と澄んだ空気に包まれる隠れ家割烹。大阪・高槻「心根」

山奥にひっそりとその店はあった。
大阪府高槻駅から車で約40分、山道を走らせてたどり着いた集落に、築百年以上の民家を改築した割烹である。

周囲は数軒の民家しかない。

鬱蒼とした緑と澄んだ空気に囲まれた場所である。店主・片山城さんは、大阪の郊外の住宅街で店をやられていたが、「草喰 なかひがし」の中東さんや「美山荘」を敬愛するあまり、ずっと思い描いていた山奥へ、2年半前に移転したのだという。今の時期だけという「山桃ソーダ」をいただいた。近隣の山で採ってきた山桃だという。赤いソーダは、甘みがスッキリとして澄んでいる。カウンターの目前に広がる緑を眺めながらいただくと、慌ただしい都会の時間がこそげ落ちていった。

「温かいお料理から出させていただいております」

そう言って運ばれた最初の料理は、温かい椀物だった。オクラと青ユズのたたきとミョウガを入れた、白味噌椀である。白味噌の甘みの中で、オクラの青さと柚子の香りが広がる。青ユズの香りが出過ぎない量の計算や、ミョウガの細いが細かすぎない切り方といったバランスがいい。だが、なによりも温かくおいしい椀で、喉がゆっくり開いていくのが、嬉しかった。

季節の恵みに感謝したくなる八寸

次は八寸が運ばれてくる。

「暑い日が続くので器だけでも涼しくと、楽焼の重ね団扇器に盛らさせていただきました」という八寸皿の奥には、送り火・迎火ということで鬼灯が置かれ、中には蓮根のすりおろしに鱧を甘辛く炊いて合わせ、蒸しあげたものが入っている。

以下、琵琶鱒と胡瓜の棒寿司、もぎ茄子揚煮、オクラ味噌漬黒胡麻和え、玉蜀黍味噌漬、卵黄味噌漬、きぬかつぎ(里芋塩蒸し)、山桃蜜煮、ささげお浸し、黒豆の枝豆が盛られ、脇の小さな葡萄の器には、デラウェアと糸瓜のお浸し、片喰み(野草)が入れてある。

季節への感謝が一つ一つを食べるたびに、迫り上がる。

「衣被でございますが、平安時代の女性がかぶる帽子で、ベールを取れば女性の綺麗な白い肌が見えるように見立てたお料理で、里芋の塩蒸しでございます」という、ご主人の説明も心地よい。

緩急をつけて進む、驚き連続のコース

次の皿は冷物で、「スッポン出汁の酢橘蕎麦 じゅんさいと野萱草の花甘酢漬」が運ばれてくる。冷えてなお深い滋味を讃える出汁をからめながら、そばが口元に昇ってくる。ひんやりと涼を感じながら、後口に残る旨みを楽しむ。

続いては、お造りである。

「なかひがし」同様、獲ってきた鯉を自家に貯めた清流の水で数日の間清めた鯉昆布締め薄造りである。添えたものは、鯉鱗揚げ、鯉皮湯引き、鯉の骨と実山椒の出汁寒天寄せ、四葉胡瓜蛇腹酢漬(スーヨーキュウリ)、葉唐辛子辛煮、辛味大根鬼おろし、長芋梅酢漬、新生姜甘酢漬で、これらをよくよく混ぜ、割醤油につけて食べる。

鯉の淡い甘みを感じながら様々な食感と香りが口の中で舞う。目を閉じれば、山奥で泰然自若と泳ぐ、鯉の姿が見える。

次に運ばれしは、乾燥木の芽をちらした琵琶湖天然大鰻炭火焼だった。

奥に赤玉葱スライスが置かれ、手前には琵琶湖の波紋に見立てた新じゃがいもを桂剝きにして渦巻き状にして揚げたものが添えられる。鰻の味わいによどみがない。脂のいやらしさがなく、よく活動した生物が持つ躍動感のある旨みが舌の上で弾ける。

続いては、「万願寺唐辛子猪肉詰めフライ、花穂紫蘇」が出された。
満願寺の青々しい香りと衣の食感が生む痛快、そして猪の肉汁が一気に押し寄せ、笑い出したくなる。

おもしろい。

そして最後は、 近隣の山で獲ったという「鹿肉の炭火焼」である。

猪肉塩漬け(パンチェッタ)を巻き、賀茂茄子炊いたんと煮詰めトマト、ひも唐辛子、ゆり根と赤紫蘇 を混ぜたものが添えられる。

優しい甘みの中で赤紫蘇が香る、ゆり根のピュレに赤紫蘇を混ぜたものがおもしろく、猪肉の旨みと良くあった。

そして、紅殻色のおくどさんで炊き上がった、ご飯が運ばれる。甘い湯気が顔を包み、幸せを呼ぶ。おかずは、漬物(胡瓜古漬、松前漬、昆布佃煮)、産みたて平飼い卵(美山・戸川養鶏場)、本枯節削りたて(枕崎・金七商店)、自家製塩鮭燻製、柴漬おろし、きりゴマと、たまらない。

鮭を食べてご飯を掻き込み、しみじみと美味いおしんこでご飯をそっと食べ、鰹節をご飯にのせて食べる。最後は、卵かけご飯にした。

充足の時間を締めくくるのは菓子類である。

まず水菓子として、オレンジのソルベ、オレンジ、さくらんぼ、木の芽の焼菓子、番茶ゼリー、桑の実ジャム、オレンジチップの皿が出され、酸味で口を清めていると、ご主人が生菓子を作りはじめた。

餡を丸め、山の芋の生地で包み形成し、様々な文様をつけていく。出来上がった山の芋の練り切り主菓子の銘は、「花火」だという。花火祭りが中止になった今年だからこそ、夏への想いを馳せてもらおうという心意気だろう。最後にお薄をいただきながら、お料理の余韻を思い浮かべる。

心の奥を磨く片山さんの料理

「心根」の料理は、てらいがない。
野菜の扱いが素晴らしく、料理に清々しさを吹き込んで、我々の背骨をまっすぐにさせるような料理である。山奥に店を移したのは、自然の近くで料理し、お出ししたいという思いだろうが、それとは別に、自らの心の奥にあるものを、澄んだ山の空気の中で見つけたい。自分の中にある真奥を磨きたい。そんな思いがあったのではと思う。

「心根」という店名にも、その思いが込められているのではないだろうか。
別れ際に見送ってくれた、片山さんと女将さんの屈託のなき笑顔は、そのことを語っていた。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

心根ココロネ

心根

住所:
大阪府高槻市中畑久保条15-1
TEL:
072-691-6500
アクセス:
自家用車 または JR高槻駅北口より送迎あり。(要予約、1名様〜最大9名様まで) 送迎についての詳細は、ホームページまたはお電話にて御確認ください。
営業時間:
昼 12:00〜15:00  夜 18:30〜22:00
定休日:
火曜日
支払い方法:
各種クレジットカード可
URL:
https://www.cocorone0309.com/

更新: 2020年7月31日

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