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なくなっていく皿を見つめ、別れのため息をつく。京都「cenci」(チェンチ)|マッキー牧元の美味しいから旅をするのだ!

cenci

日本家屋をリフォームし、地下を掘り下げたという店内は、天井高く、箱庭をを望んで、実に居心地がよい。イタリアワインのみならず、日本のワインも交互に合わせた絶妙なペアリングは必須。昼も夜も予約した方がいいだろう。

京都ならではの洋食店の難しさ

日本の各地には、地の野菜を巧みに使ったイタリアンやフレンチがある。

しかし、その難しさを一番感じているのは、京都にある店ではないだろうか。京都の伝統野菜は、営々と和食で使われて、絶対的な味わいを形成しているからである。それを長年食べ続けている京都の人を、相手にしなくてはいけない。他県から訪れる人も、まず数多ある割烹を経由して洋食を訪ねるだろうから、そうした人の舌も満足させさせなくてはいけない。

関西圏トップのイタリアン「cenci」

平安神宮側の閑静な街中に店を構える「cenci」坂本健シェフは、京野菜を扱う怖さを知悉(ちしつ)している人である。

全国から吟味した食材と京食材を出合わせ、食材の個性を引き出した独創的なその料理は、関西圏トップのイタリアンといってもいいだろう。その料理は、複雑さの中に澄んだ味わいがあって、京都人を魅了し続けている。たとえば、以前いただいた「七草と猪のリゾット」では、青々しい香りが弾ける中で猪の滋味がじっとりと滲み、山の中で猪が草を食んでいるかのような情景が、浮かび上がってきたことを覚えている。

この初夏の12,000円(税別)のメニューは、下記のとおりである。

ボンダボンの24ヶ月ベルシュー(生ハム)と自家製チーズと吉田牧場のリコッタチーズ、うすい豆のペースト
塩の旨みに持ち上げられた逞しさを膨らます生ハムと優しい豆の甘みが、口の中で軽やかに舞い、抱き合う。

五島列島のイサキ、トマトとニンニクの芽とヴィネガーのソース

イサキのエレガントで優美な旨みが、ソースの酸味と響きあう幸せがある。

新生姜とアオリイカの冷製パスタ、イカスミのタヤリン

新生姜の甘酢漬け、イカのねっとりとした甘み、肝の旨み、静かで澄んだ味わいの自家製鶏節の旨みが共鳴し合う、美しい一皿。

玄米、鳩、木の芽

フランスのラカン産の小鳩胸肉に首皮を巻いて低温調理してから、炭火で仕上げ。無農薬の丸麦や赤米と、鳩のもも肉や砂ずり、心臓、レバーを炒め合わせたものに、木の芽のソースが添えられている。胸肉はしっとりとした食感で、脂の甘みと香りと鉄分を滴らせ、付け合せの炒め物と食べいくと、鳩のすべてが口の中に充満していく。

香り高いソースのうまいこと。鳩の鉄分を軽やかに飛翔させる。木の芽のソースは、大分の鮎魚醤と米麹を60度で2日間発酵させ、新玉葱で炊いたソースとあわせたものだという。

坂本シェフは言う。「僕らは様々な調味料を使ってきましたが、こうして自分で調味料を作ることによって、新たな味を生み出したいのです」。

★あさかぜキュウリ 茗荷 小鮎
小鮎フリット。塩漬けキュウリとサワークリームが、口の中でみごとに清流を蘇らせる。そこにぬか漬け角切りがシャキシャキとアクセントとなり、楽しい。

アスパラガス、イタリアの黒レンズ豆とアーモンド、黒にんにく、沖縄経産牛

みごとな加熱である。経産牛でありながらエレガントさがあり、いつまでも噛みしめていたい旨みがある。

余市のウニ 十六島海苔 葉ワサビと塩麹のソース

水抜きした塩水ウニの甘みと緩み、海苔の香り、山葵の香りがみごとに出合ったパスタ料理である。上質のウニの軍艦巻きを食べているように、ウニの甘みが来てからわさびの刺激と香りがすぐに追いかけ、その後から海苔が来て、また最後に海苔とウニの旨みが一緒になる。

ジャガイモとクレソン、マナガツオのリゾット

ああ、なんというリゾットだろう。
「cenci」のリゾットは、いつも食材の溌剌たる命を宿して、僕らの胸に迫ってくる。噛むと、キタアカリがほろりと崩れて甘い湯気を口に満たし、米の甘みと静かに抱き合う。そこへクレソンの軸がシャキリと弾んで、清涼な風を起こす。

愛媛県のカリスマ漁師の藤本さんが獲ったマナガツオは、猛々しく香り、優美な甘みを舌にポトリと落とす。そして、塩気が穏やかな自家製からすみは、旨みだけで加勢し、リゾットの味をほんのりと豊かにする。ジャガイモは、これ以上でも以下でもないサイズで、これ以上でも以下でもない軟らかさに茹でられている。

クレソンの切り方も魚の加熱も、からすみの作り方も精妙であり、理想を目指して作り上げた精巧なる美に満ちている。だから食べるたびに「ハァ〜」と、充足のため息をつく。次第になくなっていく皿を見つめながら、「ハァ〜」と、別れのため息をつく。

デザートは、「カンノーリ、バナナとパッションフルーツのシャーベット、オレンジとキャラメルの生地」「クローブで香り漬けしたパイナップル、バニラムース、ジャスミンのゼリー」「カッサータ ビスコ アメリカンチェリー、塩で発酵させたアメリカンチェリーのソース」と続き、コースは締めくくられた。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

cenciチェンチ

住所:
京都市左京区聖護院円頓美町44-7
TEL:
075-708-5307
アクセス:
京阪神宮丸太町駅より 徒歩12分・ 地下鉄東西線東山駅 徒歩15分 ・京都駅より 市バス206系統 高野・北大路バスターミナル行き 「熊野神社前」下車 徒歩7分
営業時間:
昼 12:00~15:00(L.O.12:30)・夜 18:00~22:00(最終入店 19:00) 新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は店舗にご確認ください。
定休日:
毎週月曜日・不定で日曜日
支払い方法:
各種カード可 (JCB、VISA、Master、AMEX、Diners)・ 電子マネー不可
URL:
http://cenci-kyoto.com/

更新: 2020年6月29日

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