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豊かな北海道の素材を生きるように揚げる 札幌「天ぷら あら木」|マッキー牧元の美味しいから旅をするのだ!

優れた職人の資質の一つとは、現状に満足しないこと。

「同じことはやりたくないんです。だから、いつも新しい仕事を考えています」

札幌市の繁華街・すすきのに店を構える「天ぷら あら木」の店主・荒木啓至(よしゆき)さんは、そう言われた。
たとえば、そのまま揚げると水分が多すぎて衣が剥がれてしまうカブは、室に1か月も置いてから揚げる。

新鮮なまま揚げると食感は活かされるが、甘みが足りないと感じたアオリイカは、小さめのサイズをわざと選び、2週間寝かせてから2枚を抱き合わせて揚げる。

ゴボウは常温でどれだけ寝かせると最も状態がいいかを、試行錯誤する。エビは2匹出すが、火の入れ方をそれぞれ変えてみる。

油は2種類を使い分ける。香りを出したい野菜などは大白香胡麻油で、衣にコクを出したいものは太香胡麻油を使う。大根おろしは荒くおろし、おろしたてだと辛いので、2時間ほど置く。

優れた職人の資質の一つに、「現場に満足しない」ということがあると思う。日々の仕事を点検しながら、もっと良い方法はないかと模索する。荒木さんもそういう資質のある方なのだろう。

北海道の豊かな食材を、ただ天ぷらに仕立てるのではなく、さらに生きるよう工夫した仕事がそこにはあった。

弾ける! とろける! そして、うっとり。荒木さんの天ぷら

それではその全仕事を見てみよう。*天種は6月上旬のコース(時価)です。

突き出しは、エゾアワビの5時間酒蒸しにハマグリの煮こごり掛け、ホワイトアスパラガスソテーを添えて。
次にじゅん菜と三つ葉を添えた「あさりの酒蒸し」、銀杏と続いて胃袋を刺激してから、天ぷらが始まった。

エビからスタートである。
2枚に合わせたイカはねっとりと甘く、天つゆにつけてかぶりつくように食べるキスは、甘みに品が漂う。

アスパラガスは香り高い穂先を先に揚げ、次にミネラルが多く味が濃い根元は薄い衣で出される。命の勢いが、口の中で弾け飛ぶ。

そして、次は大変危険なクチコ天ぷらときた!
加熱されて旨みが凝縮し、色気も濃厚になって、酒が猛烈に恋しくなる。

次に出された海苔で巻いたウニの天ぷらは、ウニの甘みの後を海苔の香りが追いかけ、次第に一緒になる瞬間がいい。そして、北海道ならではのシャコである。2匹を抱き合わせたその天ぷらをかじれば、中は半熟でとろりとした甘みが流れ出て、体の力が抜けていく。

山ウドは春の苦味を膨らまし、アワビはむっちりと身に抱き込んだ海の恵みを舌に滴り落とす。
朝採れクレソンと朝もぎグリンピース、白えび、鰹出汁に浸した冷やしトマトといった口直しを挟んで、カブである。

噛めば、カリカリに揚がった衣に歯が当たり、なかからトロトロになったカブが流れ出る。深い、包容力を感じさせる甘みにうっとりする。

続いて艶のある味わいのアイナメ、中心を半熟に仕立てたホタテの気品に唸る。そして、薩摩芋とインカルージュの共演である。舌に絡まりついてくるようなサツマイモの甘みと、ほっこりと心を安らぐ甘みが広がるジャガイモの両者に、顔が崩れる。

最後の天ぷらはウナギで、半分を天ぷらにし、半分をうな重にした。

そのほかにも、4月にいただいた太刀魚紫蘇巻きや、香り高い赤井川のサツマイモ 、絶妙な火加減の貝柱のかき揚げなども素晴らしい。

これからもおそらく、荒木さんの天ぷらは、様々に形を変えていくに違いない。ふふ。札幌に行く楽しみが、また増えた。

マッキー牧元

マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

天ぷら あら木テンプラ アラキ

住所:
北海道札幌市中央区南7条西4丁目 延寿堂ビル 1F
TEL:
011-552-5550
アクセス:
札幌市営地下鉄南北線 すすきの駅 徒歩5分
営業時間:
18:00と20:15の2部制  要予約
定休日:
日曜・祝日
支払い方法:
クレジットカード可(JCB、AMEX、Diners)

更新: 2020年5月25日

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