「技」と「仕事」が隠れた小さな料理、鮨|旅する鮨職人、ヨシさんが語る「鮨の心」第一回

アメリカ、ヨーロッパ、アジアと世界を飛びまわる鮨職人、「松乃鮨」のヨシさん。「鮨は刺身がご飯の上にのったものだけではない」というヨシさんが、鮨に込める職人の想いを語ります。

はじめまして。「松乃鮨」四代目、手塚良則と申します。これから皆さんに、この連載で鮨の話をお伝えさせていただきます。長いお付き合いになると思いますが、どうぞよろしくお願いします。\

本格的に鮨の話を始める前に、少し自己紹介をさせてください。

「松乃鮨」は1910年、私の先祖が小さな鮨の屋台を出したのが始まりです。その後、1936年、現在の地・大森海岸に祖父が伝統的な日本家屋を建て、本格的に鮨屋としてスタートしました。当時、この辺りでは、海苔やたくさんの鮨ネタとなる魚がとれていました。また、芸者さんが出入りする料亭が多く、花街としても大変賑わっていたそうです。「松乃鮨」は、そんな環境の中で多くのお客様に愛され続け、今に至っています。現在は、私と三代目の父が、国内外からお客様を江戸前鮨でお迎えしています。「江戸前鮨」とは何か? 外国の方にはわかりにくい言葉ですね。これもこの連載の中で、おいおい説明していきたいと考えています。

私は鮨屋の四代目ですが、学校卒業後、いきなり修業の道に入ったわけではありません。すでに小学生の頃から鮨屋を継ぐことは決めていましたが、将来は世界のお客様をお迎えしたいという想いから、まずは世界を見に行こうと考えました。そんな折、学生時代から本格的にやっていたスキーが功を奏します。プロのスキーガイドとして、世界100カ所以上のスキー場を訪れ、スキーを通じてヨーロッパの文化を日本人のお客様にお伝えする仕事をすることができたのです。オフシーズンには、プライベートガイドとして豪華客船に乗り込んだり、ヨーロッパのワイナリーのガイドをしたりもしました。自分自身でも旅をし、実に50カ国以上を巡り、異国の文化や人々の考えを学ぶことができました。この経験は、鮨職人となった今でも大いに役に立っており、現在は、鮨を通じて外国の方に日本文化をお伝えしています。

今、鮨は世界的に大ブームとなっています。ひと昔前までは、魚を生で食べるなんてあり得ない! と見向きもされなかった鮨ですが、1990年代頃の世界的なヘルシー志向ブームによって、肉や油を使わない鮨は究極のダイエットフードとして認められるようになりました。今ではヨーロッパやアメリカ、アジアの各地で鮨が食べられるようになっています。それとともに、鮨も多国籍化してきました。ブラジルでは苺の巻き鮨が人気とか! 日本人にとって驚くべきネタの鮨があちこちで誕生しているようです。でも、それはそれでいいんです。日本が誇るべき鮨文化が世界に広まっている証しですから。

ただ、日本の鮨職人として伝えなくてはいけないのは、鮨はただ単に「刺身がご飯の上にのったもの」の料理ではない、ということです。魚を獲る漁師さんの技、それを市場に運ぶ運送技術、市場で仲買さんが品定めをする目、魚をシメる技、そして、カウンターで最後の仕事を施す我々鮨職人。わさび、お米、海苔、お酢、お醤油へのこだわり……。小さな鮨一貫には、目に見えない「技」と「仕事」が驚くほど隠れているのです。

そして、鮨は世界でも珍しく、素手で調理する料理です。私はそのことについて考える時、母が握ってくれたおにぎりを思い出します。 私の母だけでなく、日本のお母さんは、家族のためにおにぎりを握ります。私は、家族の健康や幸せを願うお母さんの優しさが、手を通じておにぎりに込められているように思うのです。中身の具材の好み、塩加減、ごはんの硬さなど、それぞれの好みを把握して、家族の喜ぶ顔を考えながら、お母さんはおにぎりを握ります。鮨も同様、鮨職人は真心を手に込めて握ります。お客様一人ひとりのことを考え、その人に鮨を通じて想いが伝わるように……。

「鮨の心」。私はこの連載のタイトルを、こう付けました。ここでのお話を通じて、日本を代表する料理「鮨」に秘められた「日本人の真心」をお伝えできたらと思っております。よろしくお願いいたします。

手塚 良則|Yoshinori Tezuka

松乃鮨 四代目 / SUSHI Ambassador

手塚 良則

手塚 良則

幼少の頃から魚の仕入れに同行し、学生時代から包丁を握る。慶應義塾大学商学部卒業後、海外文化とホスピタリティーを学ぶため、プロスキーガイドとしてヨーロッパ・北米に4年間駐在。世界100ヶ所以上のスキー場のガイドや、豪華客船のワールドクルーズやヨーロッパワイナリー巡りといった富裕層向けのガイドをして活動。スタンフォード大学への留学、ガイド業務で培った異文化コミュニケーションを生かし、海外への発信に力を入れる。体験握りを取り入れた「五感で楽しむ鮨講座」は好評を博している。

松乃鮨

松乃鮨

住所:
東京都品川区南大井3-31-14
TEL:
03-3761-5622
営業時間:
昼11:30~13:30(L.O.)  夜16:30~22:00(L.O.)
定休日:
日曜・祝日
URL:
http://matsunozushi.com/

更新: 2018年6月27日

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