タベアルキスト・マッキー牧元が出会った、津軽あかつきの会
南北に長細い島国、日本。国土は狭いけれど、豊かな自然と清い水がそこかしこにある美しい国です。そしてその美しい風景から、日本の美味しいものが育まれています。この連載では、大都会では見られない日本の原風景から生まれる美味しいものを紹介します。
先人の知恵を絶やすまい。津軽のお母さんたちの踏ん張り
津軽人ではない。津軽に住んだこともない。それなのにどの料理も、懐かしい味わいがした。温かく心を包んで、遠い記憶を呼び起こした。弘前市石川地区の農家の女性グループ「津軽あかつきの会」に、作っていただいた料理を食べた時のことである。「津軽あかつきの会」は、工藤良子さんを中心とした、津軽の伝承料理を作り、提供するグループで、手間暇かけた先人たちの知恵を、今に伝えている。家に入ると、割烹着を着たお母さんたち十人ほどが、分担しながら料理を作っていた。
「大きな釜でゆがいてから、皮剥いて、一晩水さつけてアクを抜いてから、塩かけて搾って、糠と塩混ぜて保存するんよ。それこそ塩もいっぱい重しもいっぱいして、3ヶ月すれば出来上がり」
こうして料理や保存食の作り方を、淡々と説明してくれる。使う野菜や穀物、豆類は自ら作ったものであり、もちろん化学調味料や市販のスープの素などは使わない。
「化学調味料を使わなくとも、土作りをきちんとしていれば、採れたての野菜から十分に旨みは出る」
昭和の中ごろまで、津軽農家の女性たちは、冠婚葬祭や田植えなど事あるごとに集まっては、料理を作り客人をもてなしていたという。しかし次第にその風習も少なくなり、各家々で伝わってきた料理が失われつつあった。このままでは津軽伝承料理は消えてしまう。そう思い立った工藤良子さんを中心とした有志が集まり、地域の古老に聞き取りを行い、作り、互いに教えあい、活動を続けている。
「津軽の女性はAKBよ」という。
あっちゃ(姉さん)、かっちゃ(母さん)、ばっちゃ(おばあさん)からなる1組という意味で、経験豊かなばっちゃが総指揮をとり、かっちゃが料理を作り、あっちゃが下働きをしながら学んでいく。そんな伝統が、「あかつきの会」では今も根付いている。
津軽人の幸せと健康を支えた保存食
賑やかに話をしながら次々と料理が出来上がっていく。やがて18種類の料理がテーブルに並んだ。ではその詳細をご紹介しよう。
「毛豆ご飯」。顔を近づけると、枝豆の甘い香りに包まれる。秋の食卓には欠かせないご飯だという。
「煮物」。フキ。干しダラ、インゲン、人参、高野豆腐、こんにゃく。しゃくしゃくと弾むフキを噛み締めると甘みがにじみ出る干しダラが素晴らしい。
「鰊飯寿司」。塩3、麹5、米8の割合で漬け込んだ「三五八漬け」で、去年の冬に漬け込んだものだという。
「イガメンチ」。弘前のソウルフードとも言われる人気料理。イカやキャベツを団子にしてあげたもので、イカの旨みとキャベツの甘みが出会って優しい。
「なんば漬け(青唐辛子、昆布、きゅうり、茸、食用菊の麹と醤油漬け」」。麹の旨み、昆布の粘り、野菜のみずみずしい力が抱き合う逸品である。「ささげの田楽」。ささげとミョウガをダシで炒め煮にし、自家製味噌で和えた料理。しみじみとしたうまさがある。
「春菊胡麻和え」。各種「三五八漬け」。なんとも太く、シャキッと噛めば、舌の上でぬるっと粘る「みず」。
「毛豆の漬物」。コリコリと噛んでいくと次第に甘みがにじみ出る。
「かぼちゃいとこ煮」。実に身がしっかりとしたかぼちゃで、ほっくりと甘い。小豆の穏やかな甘みと合う。
「サンマのだまっこ汁」。サンマを叩いて自家製味噌と合わせ団子にし、汁に仕立てた料理。
「さめなます」。茹でたサメの肉と大根を、合わせ酢で和えた料理。
「茗荷と紫蘇の実入り、きゅうりの酢の物」。「漬物。きゅうり、りんご、毛豆、ナス、沢庵」。「栗の渋皮煮」。
青森の冬は厳しい。そのためいくつもの保存食が発達した。豊富な保存食は冬を生き抜いてきた、叡智の塊である。最後にその保存食用の小屋を覗かせてもらった。そこにはいくつもの樽が並んで、重石の下で野菜や魚が漬かり、眠っている。乳酸菌特有の酸っぱい香りが漂う中、自分たちの出番をじっと待っているのであった。
WRITER マッキー牧元
1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。
写真・広瀬美佳 文・マッキー牧元
更新: 2018年11月15日
この記事が気に入ったら
「シェア」しよう
最後までお読みいただき、ありがとうございます