1895年創業、忍者の里で醤油造りに励む「福岡醤油店」|美味しい日本が生まれる風景

南北に長細い島国、日本。国土は狭いけれど、豊かな自然と清い水がそこかしこにある美しい国です。そしてその美しい風景から、日本の美味しいものが育まれています。この連載では、大都会では見られない日本の原風景から生まれる美味しいものを紹介します。

忍者の里の百年醤油

(English page is here.)

忍者の里として知られる三重県伊賀市。その末裔が今も暮らすというこの街の中心から車を走らせること約30分、山と山の間を一本の川がすっと流れる風光明媚な土地に島ヶ原地区があります。山と川が人々の生活の一部だったのでしょう。島ヶ原には、その2文字のどちらかがつく苗字の家がたくさんあります。1895年創業の福岡醤油店の3代目当主・啓造さんの苗字も、川向。この地の自然と手を携えて、醤油造りに励んでいます。

島ヶ原を訪れたならば、創業時から続く川向さんの蔵は必見。蔵はもちろん、隣接する自宅の屋根瓦や外壁には、蔵から風で運ばれる微生物が年月と共に付着して、黒く輝いています。醤油が生き物である証しです。

蔵に入れば、文字通り、醤油に“招かれた”ことに気がつくことでしょう。すくすくと育つ醤油が発する芳しい香りに、全身が包み込まれるからです。今年仕込んだばかりのニューフェイスから数年来のベテランまで、それぞれの香りが杉桶から漂って、まるでオーケストラがハーモニーを奏でているよう。

麹の仕込みから醪造り、搾り、そして、瓶詰めやラベル貼りまで、全行程をいまだに手作業で行う福岡醤油店。その醤油の味を大きく左右する重要な作業が、キリン式圧搾機による醪搾りです。キリンの首のような長い丸太で、テコの原理を使ってじっくりと醪を搾ります。大豆の余分な油分を搾り出さないこの方法は、醤油の出来栄えに大きく貢献します。残念ながらキリン式圧搾機は、今では全国的にほぼ見られなくなってしまいました。ゆえに川向さんのそれは、文化庁の登録有形文化財に指定されました。

「はさめず」。耳慣れないこの言葉は、川向さんの醤油の登録商標。2代目の友宏さんが、「醤油のことを昔は箸では“さめない料理”と呼んでいた」という逸話を知り、手塩にかけた自社の醤油の名前にしたそうです。確かに“はさむこと”は叶いませんが、豊かに香る「はさめず」の存在感は、私たちの味覚で“はさむこと”ができます。キリン式圧搾機と共に次世代に伝えてほしい、大切な和食の宝物といえるでしょう。

福岡醤油店

URL:
https://www.hasamezu.com/

文・FOOD PORT.編集部

更新: 2018年5月2日

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