青森の秘伝の絶品、毛豆|美しい日本が生まれる風景

南北に長細い島国、日本。国土は狭いけれど、豊かな自然と清い水がそこかしこにある美しい国です。そしてその美しい風景から、日本の美味しいものが育まれています。この連載では、大都会では見られない日本の原風景から生まれる美味しいものを紹介します。

やめられない止まらない、甘い味!

(English page is here.)

緑の莢に金茶色の毛がふさふさと生えている。さわれば、ふんわりと優しく滑らかで、毛皮を触っているようだった。毛豆は、津軽地方原産ともいわれる、青森在来種の枝豆である。こちらでは誰も枝豆とは呼ばない。それよりも「枝豆は、毛豆を変化させたもの」という認識を持っている。

毛豆の特徴は、まずその大きさにある、我々が普段食べている枝豆より一回りはでかいだろうか。そして甘く、香りが高い。大きくて風味が濃いのだから、たまらない。初めて食べた人は、熱狂し、毛豆を運ぶ手が加速して、止まらなくなる。

米が凶作な年でも育つ作物で、古くから津軽農家の食卓を支えてきた。種は母から嫁ぐ娘へと代々受け継がれ、嫁たちは田んぼの畔に種を植えて、いかにうまい豆を育てるかを競い合い、味が向上していったのだという。

そんな毛豆だが、全国的には名が知られていない。収穫が9月下旬から始まるからである。枝豆といえば一般的には夏にビールと味わうという認識が根強く、9月下旬ともなれば、食べ飽きがきてしまう。そのため毛豆は今まで、ほとんど県内で消費されて、県外に名が伝わることが少なかった。

年間王者を決める「最強毛豆決定戦」

それをもっと広めようと「青森毛豆研究会」が生まれ、さらには豆のうまさを競い合う「最強毛豆決定戦」が行われている。その第6回(2018年9月21日)に参加した。参加生産者は19チーム。予選は、会場来場者約80名が16種類を試食して投票し、上位6生産者が残る。そこに去年の1位から3位の生産者を加えて9種類を、再び投票する。今回は毛豆決定戦史上、初の出来事が起こった。去年の優勝者・福士茂さんが、2年連続で優勝したのである。

名前を呼ばれた瞬間に、高々とガッツポーズをした福士さんに、「特別なことはしているんですか」と、聞いてみた。「いんやなにも特別なことはしてねえ。無農薬どころか肥料もあげてねえ。それでも毛豆は土の養分吸ってしっかり大きくなる。あえて言えば、うちの豆がいいんかな」。一子相伝、門外不出というか、今の日本では稀少な、先祖から受け継がれ続ける食文化への誇りが伝わる言葉である。

翌日は、朝一番で板柳町の生産者で「毛豆王子」として知られる長内将吾さんの畑に行き、毛豆を収穫し、その場で茹でてもらった。なにしろ、「畑に収穫に行く前に湯を沸かしとけ」とまで言われる、鮮度が命の豆である。こんな幸せなことはない。長内さんが、まず一鞘食べた瞬間に「うまいっ」と叫んだのだからたまらない。一同の手が次々と延びる。熱々を頬張れば、ほくっとして栗のような甘い香りと、豆らしい青い香りが広がって、思わず顔が崩れる。皆が猛然と豆を食べながら、笑っている。ふと思った。毛豆王子の長内さんも、毛豆プリンセスの櫻庭妃咲美さんも笑顔が素敵なのは、いつも毛豆を食べているせいかなあと。

マッキー牧元

RECOMMENDER マッキー牧元

1955年東京出身。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を、年間600食ほど食べ歩き、雑誌、テレビなどで食情報を発信。「味の手帖」「朝日新聞WEB」「料理王国」「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。最新刊は「出世酒場」集英社刊。

青森毛豆研究会

URL:
http://www.kemame.jp

写真・広瀬美佳 文・マッキー牧元

更新: 2018年10月12日

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