さよなら、築地市場|旅する鮨職人、ヨシさんが語る「鮨の心」第四回

アメリカ、ヨーロッパ、アジアと世界を飛びまわる鮨職人、「松乃鮨」のヨシさん。「鮨は刺身がご飯の上にのったものだけではない」というヨシさんが、鮨に込める職人の想いを語ります。

日本政府観光局によると、2017年の訪日外国人観光客の数は、統計を取り始めた1964年以降、過去最高の約2869万人だったそうです。もともとツアーガイドで働いていた私にとって、こんなに多くの外国の方が日本に足を運んでくださっていると思うと、大変嬉しいとともに、今後もっと多くの方が日本にいらっしゃるのではないかと思っています。

私が握る鮨ネタの多くを仕入れる「築地市場」は、そんな外国人観光客の方々が訪れたい人気のスポットのひとつ。その秘密は、なんといっても築地市場が世界最大の魚の取引量を誇るマーケットで、独特の雰囲気、日本の魚文化の象徴であるから。 そんな築地市場の中でもプロが買い物をする「場内」が、この10月6日にその歴史の幕を閉じました。子供のころから通った私にとっては、実に感慨深いものがあります。そこで今回は、築地市場についてお話ししたいと思います。

築地市場と海外のフィッシュマーケットの最大の違いは、魚介の種類ごとにお店が細分化され、それぞれのお店にその分野のプロがいることだと思います。 エビはエビ屋、マグロはマグロ屋など、それぞれにスペシャリストがいて詳しい専門知識と情報を持っています。また、大きな水槽を備えた店では、生きた魚をその場でシメてもらうことができます。そのシメ方も非常にプロフェッショナル。どんな魚でも最高の状態で仕入れることができます。この高い専門性が、日本の魚の質の高さの秘密と言っても過言ではありません。

取り引きの仕方にも独特の習慣があります。きっともっとも驚かれるは、値段交渉。 私のお店「松乃鮨」では多くの天然ものを扱うことから、海の状況によって毎日値段が違います。同じ魚でも、大きさ、質、買う量によって値段が全く異なります。 ゆえに仲買さんと話をしていたところにほかのシェフや仕入れ業者さんがやってくると、すっと先客は去る、という暗黙の了解があります。

また、買う時点では値段がわからないことも多くあります。シェフも、仲買人もその道のプロ。魚を見れば大体の値段がわかるため、余計な会話はしないのです。 また、仲買人さんと業者さんの会話も独特で、比喩的な表現が多い。たとえば、仲買人さんが「今日はこの魚は量が少ないね」と言えば、その魚の値段はあなたの予想より高いという意味。逆に「持っていったほうがいいよ」と言えば、リーズナブル、もしくは、明日は天気が悪いからもっと高くなるよ、ということ。 これらのコミュニケーション方法は「空気を読む」という日本独特の文化が反映されており、築地独特のやりとりです。

「場内」には、買い物を終えた業者さんが集う飲食店も多くありました。私のお気に入りは、コーヒーショップ「愛養」。カウンターとテーブルが2つという、こぢんまりとした店ですが、ここでコーヒーを飲んでいると、誰かしら知り合いがやってきて情報交換の話に花が咲きます。残念ながら、愛すべきこの店は、築地市場の豊洲への移転で閉店となってしまいました。 その豊洲移転は、もう目前の10月11日。現在もまだまだ決まってないことばかり……。次回は、新しく生まれ変わった「豊洲市場」の様子を、いち早くお話ししたいと思います。

松乃鮨マツノズシ

松乃鮨

住所:
東京都品川区南大井3-31-14
TEL:
03-3761-5622
アクセス:
大森海岸駅から54m
営業時間:
昼11:30~13:30(L.O.)  夜16:30~22:00(L.O.)
定休日:
日曜・祝日
支払い方法:
カード可 (JCB、AMEX、Diners)
URL:
http://matsunozushi.com/

文・手塚良則(松乃鮨 四代目)

更新: 2018年9月25日

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