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食に携わる注目の人物をインタビュー

料理を支える「和」の食材|WA Theater Restaurant 食の劇場×白神山美水館・奥井海生堂

人気レストランとその料理を支える国産食材を紹介する連載「料理を支える『和』の食材」。第3回で紹介するのは、香港の「WA Theater Restaurant食の劇場」です。愛妻と猫と共に日本から引っ越した長屋英章シェフが、異国の地で欠かせないという「和の食材」について伺いました。

欧米ビジネスマンのファミリーや香港のセレブリティが暮らす西貢地区。香港の中心地からは車で40分ほど、無数のクルーザーや漁船がひしめく湾の一角に、2017年11月にオープンしたレストランが「WA Theater Restaurant 食の劇場」です。厨房を率いるのは日本人の長屋英章シェフ。恵比寿「モナリザ」で料理人としてのキャリアをスタートした彼に一つ目の影響を与えたのは、フランスでの修業経験でした。

「左右対称のベルサイユ宮殿の庭を見た時の違和感が、日本人としてのルーツ……『わび・さび』や不完全なものに対する美意識を目覚めさせてくれました。日本人としてフレンチをやるのであれば、やはり日本の文化をしっかり勉強しなくてはと」

その想いを胸に、帰国後に修業した「NARISAWA」と「よねむら 祇園」での経験が、長屋シェフの食材に対する考え方にさらに影響を与えました。

「成澤シェフには食材に対する深い思考力を、米村シェフには日本の食材の使い方を教わりました。そういう意味で、最も影響を受けた二人ですね」

異国の地、香港でも日本の食材をふんだんに使うという長屋シェフ。彼が香港で勝負したかった理由の一つに、日本の優れた食材をもっと世界に広めたい、という強い想いがあったからです。

「日本の生産者さんの食材を日本のレストランの仲間達と買い上げたところで、彼らの生活が潤うとまではいきません。これから人口が減っていく日本ではなく、圧倒的に増えていくアジアでビジネスを広げたほうが、彼らの生活も良くなると思うのです。一例をあげますと、旧正月の期間、中国全体で約30億もの人が移動します。単純計算で1人1円使ったら30億円の経済効果がある。そんな大きなマーケットで勝負した方が、チャンスがあります。また、香港では日本的なコストベースな値段のつけ方ではなく、価値ベースで値段がつけられる。日本から見たら『香港って高いね』というイメージがあるかもしれませんが、たとえばブドウが1房1万円でも、こちらではそれでもその価値を認めて買う人がいます。日本の生産者さんたちに還元できるのは、そういうところじゃないかなあと」

そんな長屋シェフに欠かせない和の食材を尋ねたところ、「日本の水と空気」という意外な答えが。香港にいながらにして「日本」を感じてもらうためには、その2つがマストアイテムなのだと語ります。

「世界自然遺産、白神山地の『白神山美水館』の水を、料理はもちろん、お客様用としても使っています。いろんな水を試しましたがこの水は超軟水で、食材の良いところを引き出すのに最適です。コーヒー抽出の世界最高峰の大会「WORLD BREWERS CUP 2016」で、アジア初の世界チャンピオンに輝いたバリスタ、粕谷哲さんもこの水を使ったそうです。コーヒーといえば硬質の水を使うのが常識のところ、超軟水を使ったことで今まで出てこなかった酸味とか香りが引き出されたそうです。余談ですが、日本からこちらに連れて来た猫が、調子が悪そうだったんです。それで、もしかして水かも、と思い立ち、香港の水から日本の水に変えたところ、すっかり元気になったんですよ」

「白神山美水館」は、日本から取り寄せた良質の食材を最大限に活かすための「鍵」といえそうです。ではもう一つの「日本の空気」とは?

「日本の風土が作った昆布などの食材が『空気』。昆布は、京都で修業中に出会った『奥井海生堂』の蔵囲昆布を使用しています」

「蔵囲昆布」とは、利尻島、礼文島で収穫される天然利尻昆布を昆布倉庫で1年から2年、3年と寝かしたもの。寝かすことで昆布臭や磯臭さが消え、旨みが増すのだとか。まるでワインを蔵で寝かせるのと同じように時間をかけて作られる贅沢な「蔵囲昆布」は、今では生産者が減っているそうですが、伝統製法を守る「奥井海生堂」のそれは、京都をはじめ全国の高級料亭のだし昆布として支持されています。

「外国の人に食を通して日本を紹介したい」という長屋シェフの想いは、「日本の水と空気」によってぶれることなく形になっています。後編ではその「日本の水と空気」がどのような料理になるのかを紹介していきます。来週もご期待ください。

写真・伊藤徹也

WA Theater Restaurant 食の劇場

WA Theater Restaurant 食の劇場

住所:
Shop on the LG/F and UG/F., The Pier Hotel, Pak Sha Wan, Sai Kung, New Territories, Hong Kong
TEL:
+852 2779 7797
営業時間:
ランチ12:00〜14:30、ディナー18:30〜22:30
定休日:
火曜日
URL:
http://wa-theater.com

更新: 2018年7月19日

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