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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品|銀座|「六雁(むつかり)」秋山能久 ~後編~

グルメシーンを牽引するシェフが、料理を作るうえで欠かせない食材や、道具を紹介する連載「シェフの必需品」。今回は、銀座の日本料理店『六雁』の秋山能久総料理長です。
「料理人は表現者」と語る秋山さんが作るのは、伝統と革新を合わせた日本料理。使う道具や器ひとつひとつにも、秋山さんの熱い想いが表現されていました。3つの必需品とともに、多くの客を魅せ続ける理由を探ります。

伝統のその先へ

「この方、ほんと”バケモノ”です」。秋山料理長が敬意をもってそう言い表すのは、包丁造りの名人『二葉商会』の坂下勝美さん。初めて目にしてから10年。長年の思いが叶い、ようやく手にすることができた名人の包丁を愛用しています。中でも目を引く大きな鱧切包丁は、秋山さんが元々持っていたものを坂下名人が特別に仕立て直した、唯一無二の一本。

一瞬にして心を奪われてしまう、まるで日本刀のように背が反ったその美しい姿。独学で包丁造りを極め「人生の答え」として佐賀の工房で独り、全エネルギーを包丁造りに捧げる坂下名人の作品は、調理道具の域をはるかに超えた凄みをも感じさせる、まさにアートの境地です。秋山さんの手に合わせ七角形に整えられた柄、食材の切り口・舌触りを考え、あえてステンレスで造られた刃――。「伝統はこうあるべき」の先を志す姿は、ふたりに共通するものを感じます。

「この包丁を手にするだけで、心がピシッと引き締まるんです」と語る秋山さん。包丁を引くたび、包丁の反りが生むなめらかな曲線のように揺れる光、カリカリとリズミカルに刻まれる鱧の骨を切る音――。一本の包丁で”魅せられる”世界がここには広がっています。

料理人の心を表す手

そんな包丁を扱う自身の『手』がふたつめの必需品。「本当はハートって言いたかったんですけど(笑)」。そう笑う秋山さんの情熱は、本物です。

「昔はね、手が小さかったことがコンプレックスだったんです」。それでも、料理という全ての表現作品は”自分の手から生み出されるもの”、”自分の手でしか表現できないもの”。だからこそ、自身の『小さな手』はなくてはならないものだと言います。「坂下さんの包丁も、手が小さい自分が持つからこそ、長さが強調されて迫力が増し、その魅力をもっともっと伝えることができるし、お客様に”魅せる”ことできる」。表現作品としてできあがった料理だけではなく、包丁を置く、まな板を拭く、料理をお出しする――、その全ての所作は『手』から生まれ、そこに料理人の気持ちが表れるもの。『手』は料理人の熱いハートを映し出す道具なのですね。

食べ終わっても、魅せ続ける料理

包丁と手によって生み出された数々の料理を飾るのが、茨城に工房を持つ清水将勇さんが手掛ける草木染の杉の器ブランド『Japonica(ヤポニカ)』の器と箸置き。調理道具同様、器や箸置きひとつにもストーリーと意味があると話していた秋山さんが、清水さんと何度も試作を重ねて作り上げた「六雁」のオリジナル椀です。

「器が深すぎると盛ったときに料理が沈んでしまうし、浅すぎると圧迫感を感じる。大きさも、存在感がありながら優しさを感じられるものが良かったんですよね」

全てはお客様がどう”魅せられる”か。目の前に料理が置かれた瞬間の印象、触れたときの感覚、食べ終え器だけが残った姿……その全てを最も美しく表現するためにミリ単位で調整。スタッズをイメージした箸置きも同じく、窪みの深さやかたちを何度も試行錯誤して作り上げたそうです。

「料理を食べ終わったあとには必ず器だけが残る。ひとつひとつ違う杉の木目の美しさ、ポテッとした丸みと草木染のあたたかさ、これも料理を通して伝えられるもののひとつ」。

表現者としての料理人

「料理人に表現できることは無限大にある」と底知れない意欲をにじませる秋山さん。今の時代だからこそできる高度な科学技術を使ったおいしさもあるけれど、伝統技術、日本料理人としての心意気、地方の魅力や若い作家さんの情熱、その全てのストーリーを紡ぎ、表現したいと語ります。

シェフの手で表現されていくまだ見ぬ数々のストーリーに思いを馳せながら、味わうだけではない、魅せられる「六雁」の料理を、五感で感じ取りたいものです。

六雁むつかり

六雁

住所:
東京都中央区銀座5-5-19 銀座ポニーグループビル 6F・7F
TEL:
03-5568-6266
営業時間:
17:30〜23:00 *土曜日のみ17:00〜
URL:
http://mutsukari.com

更新: 2018年7月12日

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