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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品|日本橋「鰻はし本」橋本正平~前編~

グルメシーンを牽引するシェフが、料理を作るうえで欠かせない食材や道具をご紹介するコーナー「シェフの必需品」。今回は、日本橋の老舗鰻屋「はし本」の4代目・橋本正平さんです。
創業時から受け継ぐ伝統に甘えることなく、日々、鰻の新しい可能性を導きだそうと邁進している橋本さん。鰻屋を継ぐまでの生い立ちから、絶滅の危機に瀕する鰻との向き合い方、今後の展望についてお伺いしました。

道草を食って料理人に……

「店に入るまではずっと、ぶらぶらしていました。ええ。ただぶらぶらと……」

生まれたときから家が鰻屋という環境に育った橋本さんですが、幼いころから動物が好きで、生き物をさばくことに抵抗があったと語ります。

「鰻屋を継ぐ気はまったくありませんでした。20代半ばまで、東南アジアやアメリカに目的のない長旅をしていました。世間から見ると『超ドラ息子』ってやつですね(笑)。ロックやテクノが好きで、帰国後はクラブDJなんかもやっていました!」

鰻屋の白い割烹着を身にまとう現在の橋本さんの姿とのギャップに、私たちは驚きを隠せませんでした。しかし、彼の両耳にある大きなピアスホールが、好奇心旺盛でやんちゃであった当時の姿を物語っています。

そんな橋本さんですが、お店が窮地に立たされどん底であったとき、経営者である父親から手伝うように言われ、渋々お店に入ります。

「その当時はまだ鰻が資源的に騒がれていたわけでもなかったので、深く考えず、ただただがむしゃらに朝から晩まで働きました。その結果、技術は磨かれました。そして結婚して子供ができたことや東日本大震災、鰻の不漁問題をきっかけに、お店の将来のことを真剣に考え始めました」

現在は、平日お昼時になると、日本橋界隈のサラリーマンで行列ができるほどの人気店ですが、8年前はお店にはお客さんが全然入らなかったといいます。一体、橋本さんはどのような改革をして、行列ができるほどのお店に成長させたのでしょう。

常にベストな状態をお客様に……

「まず、『仕込まない』ことを選択しました。座席数が多いのに客が入らない状況で、料理を前もって仕込むということに疑問を感じたのです。常にベストな状態の鰻を提供したいという想いから、『オーダーを頂いてから作る』という方法にシフトさせました」

しかし、その結果、料理が来るまでの待ち時間が長くなるという問題が生じ、反発もあったと言います。

「そこは料理人の腕の見せどころですよね。メインディッシュである鰻を提供する前に、いかに美味しい料理と楽しい時間でお客様をおもてなしするかを考えました」

美味しい料理にお酒は欠かせません。それまでお酒は滅多に飲まず、飲めるお酒もウーロンハイくらいであった橋本さんですが、これをきっかけに、なんと利き酒師の資格を取得したそうです。

「コース料理も、予約を受けて用意させていただく形をとるようにしました。また、人数がそろった段階で料理を提供させていただく形を徹底するようにもなりました」

これはすべて、ベストな状態で料理を提供したいというこだわりがあってこそだと橋本さんは語ります。試行錯誤を繰り返し改革に挑む橋本さんは、新たなる挑戦に踏み出しました。

「代々木上原にあるモダンフレンチ『Gris』のシェフ、鳥羽周作さんと『はし本』で一日限定レストランを企画しました。シェフというと何となく身構えてしまうのですが、鳥羽さんは、僕が大好きな鰻屋の元大将に似ていると感じました。彼は昭和の大将気質があるというか、愛があるのです。愛が(笑)」

鰻屋とフレンチ。対照的な2つのレストランのコラボレーションではありますが、生きるものを調理して提供する料理人としての共通の熱い想いから、刺激を受け多くのことを学んだと橋本さんは語ります。

クラシックな部分から片足はみ出す

「鰻屋はし本」といえばランチのうな重はもちろん、コース料理では数々の鰻の創作料理があり、鰻好きにはたまりません。そのバラエティに富んだメニューのほとんどは創業当時にはなかったもので、橋本さん自身が、数々のお店を食べ歩き、試行錯誤して生み出したメニューばかりです。

「鰻屋に来るお客さんが求めているものは、だいたい決まっています。そのお客さんが求めている鰻料理の他にも、『鰻料理』というクラシックな部分から片足はみ出して、良い意味で期待を裏切るような斬新なメニューを提供するように心がけています。両足はみ出すのではなく、片足くらいが良いのです。そのギリギリのラインで攻めています」

このようなお店の方針の見直しや他店とのコラボレーション、斬新なメニューの考案、その並々ならぬ努力と挑戦の結果、今は行列のできるお店にまで成長をしたのです。その人懐っこい笑顔と好奇心旺盛なキャラクターだからこそ、成功した改革だったのでしょう。

「鰻屋はし本」は、今後どのようなお店を展開しようと考えているのでしょうか。期待は大きく膨らみます。その反面、鰻の資源の問題が年々加速化しつつあります。鰻屋の立場としてこの文化を維持、発展させていきたいという一方で、世間の風当たりがどんどん強くなっているのが現状です。

「鰻を扱う人間としての在り方を問われる時代となりました」橋本さんは神妙な面持ちで語ります。揺れ動く鰻業界の現実と今後の展望と共に、橋本さんの「シェフの必需品」を後編でお伝えします。

鰻はし本ハシモト

鰻はし本

住所:
〒103-0028 東京都中央区八重洲1-5-10
TEL:
03-3271-8888
営業時間:
【月~金】11:00~14:00 17:00~22:00(LO20:30)【土】11:30~14:30
定休日:
日・祝・土用丑の日・年末年始・お盆
URL:
http://www.unahashi.com/

更新: 2018年2月14日

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