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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品|新橋「Sublime(スブリム)」 加藤順一 ~前編~

東京のグルメシーンを牽引するシェフにとって、料理を作る上で欠かせない道具や食材をご紹介していただくコーナー「シェフの必需品」。5人目のシェフは新橋にある北欧のエッセンスを取り入れたフレンチ「Sublime(スブリム)」の加藤順一さんです。2015年10月にオープンし、ミシュラン1つ星を獲得。1982年生まれの加藤シェフは、東京のフレンチの巨匠、パリのモダンフレンチの旗手に師事し、コペンハーゲンで最先端の料理におけるデザインを学びます。そんな加藤さんは、どのような料理人なのでしょうか? 必需品をうかがう前に、彼の料理に対する考え方について、お話しをしていただきました。

新橋「Sublime(スブリム)」

新橋駅から烏森口を出て、通称マッカーサー通りへ。そこから少し奥に入り、塩釜公園の向いあたりにある「Sublime(スブリム)」。フランス語で“気高い”、“崇高”といった意味を示す店名を持ち、「Edition Koji Shimomura(エディション・コウジ シモムラ)」や、「Hommage(オマージュ )」で研鑽を積んだソムリエの山田栄一さんがオーナーを務めます。穏やかな雰囲気と、にこやかな笑顔のシェフは現在34歳の加藤順一さん。北欧で修業されたのが見て取れる、美しく、華やかなプレゼンテーションの料理が特徴ですが、その奥にある計算された味つけや、食材の重ね方はフレンチの力強さを感じます。「いろんなところのいいとこ取りなんですよ」と加藤さんは笑いますが、その“いいとこ”をお話の中から探ってみましょう。

「なんでお前は日本人なのに和食の料理人じゃないんだ?」。これは加藤さんがデンマークはコペンハーゲンでミシュラン1つ星に輝くレストラン「AOC」で言われた言葉。「とてもショックでした、言い返す言葉もなかったです」。そう語りますが、一度、スブリムで加藤さんの料理を食べてみれば、その答えも推し量れるはず。つまりは「自分の料理」を確立するため。クラシカルなフランス料理、モダンフレンチとキャリアを重ね、もう1つの自分の持ち味として北欧料理を取り入れ、国産食材を使い日本の、ここ「Sublime(スブリム)」でしか食べられない、骨太ながら斬新さを纏った一皿を作るためだったのでしょう。

華やかな一皿の裏側にある確かな技術

加藤さんの料理人としての経験は、お菓子作りからはじまります。ご自身が好きだったから、お菓子作りの道に踏み入れるわけですが、料理学校に入るとフレンチの道へ。「その時はきっと華やかに見えたんでしょうね。フランス料理は作るのも、食べるのも大好きですし、自分のベースにもなっています」。卒業後は、名門「タテルヨシノ」グループへ。言わずと知れた吉野建さんが率いる、ど直球のフランス料理。パリの「ステラマリス」は現地のミシュランガイドで1つ星を獲得。日本においても「タテルヨシノ」と言えば、フランスの味を日本に紹介した、先駆け的な存在。いわばフランス人が作るフランス料理よりもフランス料理らしい料理を作っていた場所です。芝パークホテルにあった「レストラン タテル ヨシノ 芝」に入り、その後、和歌山県の「hotel de yoshino(オテル・ド・ヨシノ)」へ。ここは料理長である手島純也さんの料理を求めて東京からも多くの美味しいもの好きが足を延ばす名店。「和歌山は、本店より直球のフレンチでしたね。タテルヨシノで過ごした時間は本当に濃かったです。味のつけ方、ソース作り、出汁の取り方、料理人として美味しいものを作る上での基礎は今でも吉野シェフが率いるグループのやり方に倣っています。野菜の切り方でも、玉ねぎのみじん切りも少しでもばらついてたらダメだし、しかも早くなければダメだし、机の上も綺麗に、冷凍庫も綺麗に、食材の毎日も管理をしっかり、その上で当たり前のように美味しいものを作る。これを毎日って、なかなか難しいことですよね。吉野シェフはパリ『ステラマリス』で1つ星と規模は違いますが、現地の3つ星のクオリティを実際に見て、食材も料理もそれに近いことをやって、日本に持ってきた。そのおかげで、フランス時代の『Astrance(アストランス)』でも認めてもらえたし、もしかしたら『Astrance(アストランス)』より、もっと厳しいことをやっていたかもしれません」。

そう、加藤さんのフランス時代の修業先はパリのミシュラン3つ星レストラン「Astrance(アストランス)」。天才と謳われるパスカル・バルボさんが率いるモダンフレンチを牽引するお店です。そこで加藤さんは1年間在籍するわけですが、メインの肉を任される大抜擢に。「ある日、肉を担当していた料理人が骨折してしまって、ポジションに空きができたんです。『ステラマリスでやってた加藤ならできるだろう?』と声がかかった。その日の朝と突然でしたが、私としてはそれがやりたくて『Astrance(アストランス)』に来たようなものだったので、本当に嬉しかった。でも、これが本当に厳しかったし、めちゃめちゃ怒られました。一回しか火の入れ方を教えてくれなかったのですが、オーブンから出したときの“ジュワー”という音がいつもと少しでも違うとシェフが飛んでくる。温度も時間も少しでも早かったり遅かったりすると、もう暴れ出すくらいの勢い。パスカル・バルボさんは、職人タイプの方で『同じ肉でも1日経てば水分量も違うし、同じ焼き方で良いはずがない』と。昨日の食材と今日の食材は全く別物だと。世界で評価されているシェフの仕事を間近に観れて、哲学に触れることができたのは自分にとっての財産ですね」

当時、このパリの名門で肉を任されたのは日本人では「Quintessence(カンテサンス)」の岸田周三さんと、箱根「BERCE(ベルス)」の金山康弘さん、そして加藤さんの3人のみ。そんなキャリアを積んで、次に加藤さんはもうひとつ何か自分の料理に要素を加えたいと考えました。「パリから帰国して日本で料理をやろうと思っても、すでに岸田さんや金山さんという先人がいます。当時は『El Bulli(エル・ブリ)』が最高潮で、スペインで学べないかと考えたのですが、学生ビザとフラメンコビザしかなく・・・。そんな時にデンマークの『noma(ノマ)』が一番最初の本を出して、それを見たときに美しさと、かっこよさに惹かれまして。それなら最先端のデンマークへ行こうと。何軒かレストランを食べてまわったのですが、ここで働こうと決めた『AOC』は正直味はそんなに好みではなかったんです(笑)。でも、なにをやっているのか、まったくわからなかった。食材をパウダーやオイルなどに形を変えて、見た目では想像できない味が飛び込んでくる驚き。ひと皿ひと皿の表現であるとか、食材の組み合わせ、デザイン。北欧料理のイメージに近かったんですね」

こうして、クラシカルなフレンチ「タテルヨシノ」で学んだと料理人としてのベース、モダンフレンチ「アストランス」で学んだ肉や魚への火入れテクニック、ニューノルディック「AOC」で学んだデザインとプレゼンテーションをミックスさせた加藤さんの“自分の料理”が生まれたわけです。そしてもうひとつ、重要なキーワードは国産食材。

「北欧料理を定義する“マニフェスト”があるのですが、第一に“地産地消”が掲げられています。北欧でとれないフォアグラやトリュフは使わない。わざわざ他国から取り寄せるなら、その手間とお金を国内の優れた生産者を探すことに使ったほうが良いと。料理を作るにあたって、ワインも1本も開けませんでした。例えば、北欧でやっていた食材の組み合わせを、そのまま日本でやっても、ストーリー性もないし、お金もかかるし、やる意味がない。近くで取れる食材なら生産者とのコンタクトもとりやすいし、なにより自国のアピールにもなりますよね」

ミシュランの1つ星をとってから、「Sublime(スブリム)」には、外国からのお客様が増えたと言います。例えばフランス産のフォアグラを出すよりも、蕗の薹を出した方が、興味を持ってもらえるし、喜ばれる。国産食材を使う意味と手ごたえを、徐々に掴んでいるようです。「フランス産の肉とか、イタリア産のトリュフとか、本当に美味しくて、使いたいんですけどね。食べに行くことで我慢してます」と本音のような冗談のような笑顔で語る加藤さん。そんな日本の食材を扱うにあたって、記憶に残っている師の言葉があります。

「吉野シェフから言われた『人にも食材にも素直になりなさい』という言葉が印象に残っていて。“こんなソースと合わせたい”とか“あの本にはこんな食材と組み合わせていた”とか、それは自分のエゴだと。そうではなく、どんな人が作った、どんな食材なのか、ちゃんと向き合うことが料理のスタート地点なんです」

加藤さんの作るお皿は、美しく、驚きがある。華やかなプレゼンテーションだけではなく、しっかりと食材に対する想いがこもっていて、それを表現する確かな技術がある。これからの自分への課題に“テーマ性”を揚げていたのですが、どんな進化が見られるのでしょう? そんな加藤さんの必需品は「マッシュルーム」、低温調理器具「Anova Culinary」、チーズを作るための「レンネット」。それぞれにまつわるストーリーは次回ご紹介します!

Sublimeスブリム

Sublime

住所:
東京都港区新橋5-7-7
ロイジェント新橋 B1F
TEL:
03-3578-8831
営業時間:
12:00~13:00LO、18:00~20:00LO
定休日:
日曜日
URL:
http://www.sublime.tokyo/

Photo 鈴木彩

更新: 2017年6月22日

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