PEOPLE

食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品|外苑前「Abysse(アビス)」 目黒浩太朗 ~前編~

東京のグルメシーンを牽引するシェフにとって、料理を作る上で欠かせない道具や食材をご紹介していただくコーナー「シェフの必需品」。4人目のシェフは外苑前にあるフレンチ「Abysse(アビス)」の目黒浩太郎さんです。2015年3月にオープンし、魚介に特化したフレンチということで話題になり、1年経たずにミシュラン1つ星を獲得。現在31歳のオーナーシェフ目黒さんは、どのような料理人なのでしょうか? 必需品をうかがう前に、彼の料理に対する考え方について、お話しをしていただきました。

外苑前「Abysse(アビス)」

「30歳までに自分の店を持つ」。オーナーシェフである目黒浩太郎さんは料理人として仕事を始めたころから、そう思い続けていました。その夢を叶えて2015年にオープンした「Abysse(アビス)」。場所は今や日本を代表し世界のトップレストランに名を連ねる「Florilege (フロリレージュ)」が移転前にあったところ。そこに「Quintessence(カンテサンス)」で修業した、魚介に特化したフレンチがオープンしたとなれば、自ずと美味しいもの好きの話題になるもの。その期待に応えるように初年度でミシュラン1つ星を獲得するわけですが、「そのころの自分は何も考えず、ただ必死でやっていました。いま思い出すとよくミシュランの星を獲れたなと、不思議に思います」と語る目黒さん。当時と今で自分でも驚くくらい料理が変わったと振り返りますが、どのような変化があったのでしょうか?

1985年生まれの若きオーナーシェフである目黒浩太郎さん。都内のレストランで経験を積んだ後、26歳で渡仏。23歳の時に一時期、川手寛康シェフ率いる「Florilege (フロリレージュ)」で研修していたこともあるとか。フランスでは、マルセイユの三つ星レストラン「Le Petit Nice(ル・プチニース)」で研鑽を積みます。ここが、フランス最大の港町にあるマルセイユにあって、魚介料理に特化してミシュランの三つ星を獲った店。「フランスのいろんなお店に手紙を送って、いくつかお返事をいただいていたのですが、Le Petit Nice(ル・プチニース)が一番最初にお返事をくれたんです。特に魚介のお店に行きたいという意図はなく偶然で」。日本に帰国し川手シェフに「Quintessence(カンテサンス)」を薦められ、そこで2年半の間、岸田周三シェフのもとで学びます。

「川手さんはなんでも相談できる兄貴的存在。独立する前に相談したら『実は店を移転することが決まっていて、独立するならここでやってみれば?』と言ってくれたんです。あのFlorilege (フロリレージュ)の後ということで、プレッシャーはありましたが、やってみたいという気持ちが強く、また覚えてもらいやすいと言う利点もあるなと。この場所を引き継ぐ決意が固まりました」。目黒さんの目論み通り「フロリレージュの跡地にできた魚介専門のフレンチ」として名が通り、オープンしてからすぐに話題に。「でも、シェフという経験も、自分の料理を作るということも初めてで、今考えると“何もわかってなかった”ですね」。しかしながら国内外から高い評価を受けたのは、目黒さんにそれだけの素地があったから。こそは師匠である「Quintessence(カンテサンス)」岸田シェフのもとで得た経験が大きく影響しています。「岸田さんは他の料理人とは全く異なる考え方を持ったシェフでした。例えばブイヨンのとり方でも普通は鶏も野菜も一緒に何時間も煮込むところを“野菜を三時間も煮込んだら香りが飛んでしまう”と、鶏と野菜を別々に適した時間だけ煮込んで、それをソースに合わせる。そんなふうに、慣習やルールに縛られず、疑い、美味しいものを作るためにはどうしたらいいか、自らでロジックを組み立てていたんです。自由で良いんだなと」。

兄貴分である「Florilege (フロリレージュ)」の川手シェフ、師匠である「Quintessence(カンテサンス)」岸田シェフ。2人の存在に加えて、目黒さんの料理の骨格は魚介に特化した「Le Petit Nice(ル・プチニース)」で形作られました。「シェフも、お店も、料理もかっこよくて、魚に対する愛情がすごかった。魚の扱いに少しでも手を抜こうものなら『お前は本当に日本人か!』と怒られるくらい。でも、やはり日本の魚の方が美味しいというのは常々感じていたことで、厨房に来る前の獲ってからの処理技術が日本のほうが格段に上だったんですね。だから日本でLe Petit Nice(ル・プチニース)のような魚介に特化したフレンチをやったら、もっと美味しくできるのではと」。世界の料理の中心がフランスではなくなり、スペイン、北欧、南米とグローバルになっていく中、目黒さんは世界を目指すにあたって“アイデンティティ”が重要であると語ります。「その上で、日本という場所でフランス料理をやるにあたって、日本の特性を活かし、四季を表現できる魚介に絞ろうと決めました。世界を目指すにはこれだと」

例えば、目黒さんの料理に初鰹を使った一皿があります。外側をカリっと火入れし中はレアに、そこにパウダー状にしたシェーブルチーズ、レーズン、マリネして酸味をつけたエシャロット、ナッツ、大葉のオイルを合わせた、複雑な構成。「言ってみればカツオのタタキ。カツオは羊や鹿といった肉と似た味わいをもっている。そこにシェーブルチーズの旨みを合わせるのは、きっとフレンチをやってきたからこその発想だと思うんです。さらにレーズンの甘みに、エシャロットの酸味を加えてよりフレンチ的な味の重ね方をして、かつ大葉の香りを添える。日本人にしかできないフレンチの一皿だと思っています」。このように直感だけではなく、一皿について、かなり深いところまで潜り込み、考えを深め、表現する。それが独立した当初と異なるところ。「アスパラを使った一皿も、同じく春が旬のグレーフルーツと合わせました。グレープフルーツの爽やかさと苦味、アスパラが持つ香りと独特の青臭さ。これは春しか食べられない味です。その瞬間、その場所で、今の自分しか作れない料理をこれからも作っていきたいですね」。

自らの強みと、世界から見た自分の立ち位置を俯瞰的に、冷静に見ている目黒さん。オープンから2年がたっていますが、現状に甘んじることなく、常に挑戦を続けます。「まだスタイルは固まっていないというか、決めつけるのが嫌なんです」。変化を恐れることなく、ルールに縛られることのない若きシェフが、これからどんな料理を作るのか。外苑前の「アビス」という店を舞台に繰り広げられる目黒劇場に期待が高まります。

さて、そんな目黒さんの必需品はというと。スペシャリテであるスープ・ド・ポワソンを作るための調理器具「ムーラン」、日本酒、世界の料理人が書いた本の3つ。それぞれが今の目黒さんにとってどんな役割を担っているのか、次回ご紹介いたします!

>足跡レストランの「Abysse(アビス)」の記事はこちら
http://foodport.jp/feature/28728.html

Abysseアビス

Abysse

住所:
東京都港区南青山4-9-9

AOYAMA TMI 1F
TEL:
03-6804-3846
営業時間:
12:00〜13:30LO、18:30〜20:30LO
定休日:
水曜日
URL:
http://abysse.jp/

Photo:よねくらりょう

更新: 2017年5月30日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop