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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品|白金台「TIRPSE(ティルプス)」 田村浩二 ~後編~

東京のグルメシーンを牽引するシェフが、料理を作る上で欠かせない道具や食材を紹介する連載「シェフの必需品」。前回はなにかと話題の白金フレンチ「TIRPSE(ティルプス)」田村浩二シェフに、料理に対する考え方など、今の料理人としての自分のスタイルを形作る骨格の部分をうかがいましたました。それを踏まえて、今回は田村さんの必需品をご紹介します!

2017年の1月から白金台「TIRPSE(ティルプス)」のシェフとして厨房を任されている田村浩二さん。就任のタイミングでThe World's 50 Best Restaurantsのアジアにおける期待の星“ディスカバリー”の6軒に選出され、さらにOpinionated About Diningの「Asian Restaurants 2017」でも111位に選ばれた。徐々に国内だけでなく、海外からも評価が高まっている、いま注目のシェフ。そんな田村さんは自身の料理の特徴として“香り”を挙げています。シンプルな1皿なれど、幾重にも食材の持つ香りが重なり、食べた時に一体となって、力強い美味しさを生み出している田村さんの料理。このスタイルを確立するまでには、相当な勉強を要したそう。

「香りに本格的に興味を持ち始めたのは4年くらい前。自分はお酒が得意ではないのですが、フレンチの料理人なのでワインは勉強しなければならない。そこで香りを読み取る力をつけるため“ル・ネ・デュ・ヴァン”という教材で嗅覚のトレーニングをしていたんです。小さなボトルにワインを構成する主要なアロマが詰まっているのですが、色んな香りを嗅いでいるうちに感覚が研ぎ澄まされてきて、香りに敏感になってきたんです。料理を食べる時も香りを強く意識するようになりました」。それから自分で料理を作る上でも、1皿における食材が持つ香りの組み合わせを、方程式を組み立てるように構成するようになったそう。

その式を完成させる重要なアイテムが、自作のフレーバーオイル。香りのないグレープシードオイルをベースに、ハーブやナッツなど様々なフレーバーを纏わせて、仕上げに、マリネ液に、食材を焼く時にと使用しています。「料理を考える時に、メインの食材、付け合せの食材、その2つを繋げる食材の3つで構成を考えます。そこに2つくらい香りをのせる。1つの皿に食材が増えれば増えるほど、何を食べてるか分からなくなると思うんです。食材が5つなのか、3つ+香り2つなのかで、食べてほしい食材の存在感や食べた時の感じ方が変わってくる。オイルならば香りだけなので、味としての要素は増えず、鼻に抜けるだけ。香りが食材の美味しさを引き立てて、余韻を長く持ってもらえるように組み立てているんです。複雑に聞こえるかもしれませんが、食べ手にとってはシンプルに美味しさが伝わり、何を食べているかが明確になっているんです」。また、香りが穏やかな日本のハーブも、オイルにすることで主張を強くすることもできる。オイルなら形として皿の上に現れないので、料理を口に入れた時に、不意にイメージと違う香りが飛び込んでくる。強いインパクトを演出することができるのです。

そんな田村さんが料理を作る上での必需品。自作のオイルだけではありません。やはり香りにまつわるものを多くご紹介いただきました。

香りに関する文献

香りを構成する上で、食材自身が持つ香りとの相性が重要。違和感なく食材に寄り添う香りを探すべく、組み合わせのアイデアを練るために欠かせないのがこの2冊の本。定番と言われているような香りの組み合わせは、どんな理由があって相性が良いのか。本に載っている事例を参考にしたり、成功した自分のアイデアを逆算的に検証するためにも使用しているそう。「勉強すればするほど、新しい組み合わせが浮かんでくる。そうすると新しいオイルが欲しくなってくる。どんどん増えていくんです」。写真は1冊が美味しい風味を作る「食材の組み合わせ」を料理の実例とともに980項目収録した『風味の事典』(楽工社)。もう1冊は、調香師に必要な知識や情報を網羅した『フレーバー・クリエーション』(講談社)。

土佐ベルガモットのコンフィチュール

TIRPSEのコースの幕をあけるアミューズは、自家製のリコッタチーズにフィンガーライム、刻んだミツバとベルガモットのコンフィチュールを合わせたもの。ベルガモットの強い香りが、田村さんが作る香りの世界へと誘います。「必ず最初に食べてもらうんです。そうすると次からの料理でも香りを意識してもらえる」。

そのきっかけとなるコンフィチュールは土佐で作られたもの。ベルガモットは日本での栽培が難しく、鈴なり付く実を支えられるくらい木が大きくなるまで待たなければならないのです。7年目で初めて実がなった貴重なベルガモットは、実際に土佐を訪れ、生産者に会わなければ譲ってもらえないんだとか。「自分で連絡を取って、お店が連休の時に伺いました。土佐で作り続けていた温州みかんが温暖化で美味しく作れなくなった。そこでベルガモットに目をつけた生産者のみなさんが、世界に誇れる香りを目指して作られているんです。その志の高さにも惹かれています」

はるのTERRACE
http://www.harunoterrace.co.jp/

喜界島のごま油「GOMACASI」

日本では多くを輸入に頼っている中で、数少ない国産のゴマを作っている喜界島。生産者の田向勝大さんがリブランディングし、アイスクリームにかけるごま油として打ち出したのが、この「GOMACASI」。「うちで使う前にFacebookで“GOMACASI”のことをアップしたらけっこう反響があって。知り合いのシェフに先に使われてしまって、どうやって自分なりに活用しようか考え中なんです」。

GOMACASI
https://gomacasi.stores.jp/

松本酒造の酒粕

澤屋まつもとのブランドで知られる松本酒造。この酒粕はTIRPSEがFacebookのみ予約を受け付けて限定販売している「富士山カヌレ」にも香りづけとして使用されています。田村さんは発酵調味料を作る際にも使っているそう。「この間も酒造りの現場にお邪魔して、体験もさせてもらって、TIRPSEのスタッフは家族のようなお付き合いをさせていただいています」。

フランスへ渡った時に、改めて日本の食文化のすごさを感じたという田村さん。今の日本人でも知らないような飛鳥時代のチーズを再現したり、発酵調味料を自家製したり、過去の文献を向き合いながら日々厨房に向かっています。「もちろん、本だけでは読み取れないところがあります。そこは自分が持っているこれまでの食体験や、実際に食材を作っている場所に訪れて、生産者のみなさんとの対話の中からアイデアが生まれてくるもの。今の自分の武器は香りであり、それを支えてくれるのは各地で真面目に食材を作っている生産者のみなさん。自分の料理とTIRPSEという場を通じて、日本の文化を世界に発信していきたいんです」。

 

食材選び。人と人とのお付き合い。食べに来ていただいて、好意的に思ってくださって、そこからお付き合いが始まるというパターンもありますね。本当にいいものを作ってる人って職人さんなので、売り方がわからない人が多い。うちのお店が繋げる役割になれれば。

次回は外苑前のフレンチ「Abysse (アビス)」目黒浩太郎シェフが登場

外苑前から少し奥まった場所にある、肉を使わず魚のみでコースを構成するフランス料理の店「Abysse (アビス)」。シェフの目黒浩太郎さんは、実は「TIRPSE(ティルプス)」田村さんとは同い年。「尊敬していますし、負けたくない存在でもあります」とのこと。どのような必需品が出てくるのでしょうか? 目黒シェフの料理に対する考え方も読み解いていきます!

>前半:田村シェフの料理に対する想いを聞いたインタビューはこちら
http://foodport.jp/people/28689.html

TIRPSEティルプス

TIRPSE

住所:
東京都港区白金台5-4-7
BARBIZON25 1F
TEL:
03-5791-3101
営業時間:
12:00~13:00LO、18:00~20:30LO
定休日:
日曜日、月に1度月曜日休
URL:
http://tirpse.com/

Photo:よねくらりょう

更新: 2017年5月23日

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