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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品|白金台「TIRPSE(ティルプス)」 田村浩二 ~前編~

東京のグルメシーンを牽引するシェフの料理を作る上で欠かせない道具や食材をご紹介していただくコーナー「シェフの必需品」。3人目のシェフは白金にあるフレンチ「TIRPSE (ティルプス)」の田村浩二さんです。世界最短でミシュランの星をとって以来、常にシーンの中心で注目を集めてきた人気店で、2017年の始めにシェフに就任したばかりの田村さん。どのような想いを持って料理と向き合っているのでしょうか?

白金台「TIRPSE(ティルプス)」

「TIRPSE(ティルプス)」というレストランはいつも話題が尽きません。品川御殿山に移転した「 Quintessence(カンテサンス)」。その跡地を岸田周三シェフから同店で働いていた大橋直誉さんが譲り受け2013年9月にオープン。その後、わずか二カ月でミシュランの星を獲得。パティシエの中村樹里子さんをフィーチャーし、1年間平日ランチの時間帯をデザート・テイスティング・レストラン「Kiriko Nakamura」として営業。突如「つかんと」というトンカツ店としてイベント営業したかと思えば、福岡県糸島市「ミツル醤油醸造元」とともビーフジャーキー「Beef Joker(ビーフジョーカー)」を開発したり、日本の粋を世界に発信する「富士山カヌレ」をFacebook限定で販売したり。極めつけはWorld Restaurant 50の「discovery series」に選出され、上り調子の中での2019年でのクローズ宣言! そんな、のりにのっているレストラン「TIRPSE(ティルプス)」で、2017年1月からシェフを務めるのは田村浩二さん。自分と、料理と、真摯に向き合い続ける、真面目でまっすぐな方でした。

田村浩二さんは1985年生まれの31歳。「Restaurant FEU (レストラン フウ)」でキャリアをスタートし、そこで下村浩司シェフに出合い、「EdiTion Koji Shimomura(エディション・コウジ シモムラ)」の立ち上げに加わる。その後、イタリア料理のお店に移り、そこで現在「Melograno(メログラーノ )」を営む後藤祐司シェフから南イタリアの郷土料理を学ぶ。そして表参道「L'AS(ラス)」を経て渡仏。フランス南部でイタリアとの国境が近いマントン「Mirazur(ミラズール)」(World Restaurant 50 2017で4位)、パリ「Restaurant ES(レストラン エス)」で1年間修業した後に帰国。2016年の夏から「TIRPSE(ティルプス)」で昼のみシェフを務め、2017年から昼夜ともに厨房を取り仕切るようになりました。

フランスで感じた日本の食文化の豊かさ

「フランスへ渡った時に改めて感じたのが“日本はすごい!”ということでした。街のキレイさ、交通の便もさるとこながら、やはり食材の作り方、扱い方については、日本が勝っているという印象でした。フランスには土地のパワーがあるので大雑把に作ったとしても美味しくできる。日本にはそのパワーがない分、優れた技術や工夫にあふれている」。南フランスで過ごしたのはおよそ1年間。マントン「Mirazur(ミラズール)」はイタリアとの国境が近かったため、厨房にフランス人は一人もいなかったとか。オーナーシェフのマウロ・コラグレコさんはアルゼンチンとイタリア人のハーフでアルゼンチン生まれ。英語、スペイン語、イタリア語が飛び交い、せっかく勉強したフランス語が活躍する機会は少なかったというオチも。「そこで世界から集まっている料理人から、“醤油や味噌はどうやって作るんだ?”と聞かれて、答えられなかったことが本当に恥ずかしかった。フランス料理の歴史は学んだのに、自分の国の食文化をまるで知らない。改めて勉強しなければと強く感じました」。

帰国してからは日本の食文化を見つめ直し、さらに気になる生産者がいれば訪れるようになりました。積極的に料理の中に日本を表現します。それは世界に自分が感じた日本の良いところを伝えるため。「飛鳥時代に“蘇(そ)”といって日本古来のチーズがあるんです。発酵はさせていないのですが、牛乳を煮詰めてできたもの食べていたんです。それを再現して料理に使ってみたり。イカスミと、いしりというイカの魚醤と合わせることで発酵感を加え、黒いイカのチーズを作ってイカの料理に合せてる一皿とか。現代の日本人にとっても馴染みのないものかもしれませんが、この国ならではの発酵食の文化の面白さを伝えたくて」。自分が興味をもったり、良いと思ったものは、とことん勉強し、掘り下げて、軽やかに皿の上で表現する。それは「Mirazur(ミラズール)」のマウロシェフの影響が大きいと言います。「彼は世界の食材に対する嗅覚がとても鋭い。ただ取り入れるだけでなく、自分のテイストに落とし込むんです。もしかしたら日本人よりもカツオ出汁をフランス料理に使うのが上手かもしれません。和食のテイストに寄っているんだけど、食べてみればしっかりフレンチを感じる。その手法や考え方を間近で学べたのは自分にとっても財産です」

もうひとつ、田村さんにとって財産になっている言葉があります。それはもう一人の師匠である下村シェフの言葉。「いつも“世界に通用する仕事をしろ”と言われていたんです。下村さんは仕事が細かく、常に最高峰のクオリティで仕事をしていた。それは野菜の切り方ひとつにしても気を張ってなければいけないんです。フランスに渡って、言葉で困ることはあっても、技術は世界共通なので、ちゃんと仕事をしていれば認めてもらえる。それに自分のオリジナルの料理を作ってもベースがしっかりしていないと創作料理になってしまう。食べた人がどう思うかはわかりませんが、自分はフレンチを誇りを持って作っているので、そのベースを叩きこんでくれた下村シェフには感謝しています」。

シェフになっておよそ3カ月。色々なところで評価を得ているものの、まだまだ田村さんが思う理想とは遠いと言います。「料理を見ただけで作った料理人の名前も店の名前も出てくるところまで行かないと。自分の色というか、特徴が大事になってくると思うのですが、いま“香り”をテーマに料理を作っているんです。文献を読んだり、試作を作ったり、今はずっと仕事をしていたいん。何もしていないのが不安で。時間をかけないと出せない美味しさもあるし、みんながやりたがらない仕事を丁寧にやるところに差が生まれてくるんじゃないかなと思っています。楽したいって心が折れそうになってからが勝負かなと」。

まさに全身全霊を込めて料理と向き合う田村さん。香りがご自身のテーマとおっしゃっていましたが、次回ご紹介いただく必需品は香りにまつわるものが中心。さらに田村さんの料理観を掘り下げるべく、次回はそれぞれのアイテムの裏側にあるストーリーを語っていただきます。

TIRPSEティルプス

TIRPSE

住所:
東京都港区白金台5-4-7
BARBIZON25 1F
TEL:
03-5791-3101
営業時間:
12:00~13:00LO、18:00~20:30LO
定休日:
日曜日、月に1度月曜日休
URL:
http://tirpse.com/

更新: 2017年5月16日

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