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食に携わる注目の人物をインタビュー

シェフの必需品|国領「Don Bravo(ドン ブラボー)」 平雅一 ~前編~

4月からはじまったFOOD PORT.の新連載「シェフの必需品」。東京のグルメシーンを牽引するシェフの料理を作る上で欠かせない道具や食材をご紹介していただくコーナーです。代々木上原「Gris(グリ)」鳥羽周作シェフからご紹介いただいたのは、調布市は国領にあるイタリアン「Don Bravo(ドン ブラボー)」の平雅一さん。最近、美味しいもの好きが口々に「行った方がいい!」と薦める西東京の雄。はたしでどんなシェフが料理を作っているのでしょう?

国領「Don Bravo(ドン ブラボー)」

「Don Bravo(ドン ブラボー)」の最寄駅である国領は新宿から京王線を乗り継いで、およそ30分の距離にあります。各駅停車しかとまらない、決して都心からのアクセスが良いとは言えないこの場所で、“わざわざ訪れたくなる店”を作り出したのがオーナーシェフの平雅一さん。2012年6月、もともと平さん自身が中学生まで暮らし、お父さんが鉄板焼のお店を営んでいた場所に「Don Bravo(ドン ブラボー)」をオープンしました。ランチはサラダ、ピッツァorサラダ、ドルチェ、食後の飲み物が付き、メニューによって1,100円~2,500円くらい。ディナーは5,000円、7,000円、10,000円の3種で、「Don Bravo(ドン ブラボー)」でしか食べられないイタリア料理を体現しています。営業中は料理に集中し、営業が終わると都心で行われる勉強会に顔を出してと、本人曰く「1日の120%は仕事してる」という状況。取材に訪れたのは定休日の水曜日だったのですが、この日の前日の営業後に若手シェフやソムリエが集う勉強会に参加し、仮眠をとってからお茶の勉強会に訪れていたそう。そのエネルギーはどこからくるのでしょう?

「周りにすごい人たちがいっぱいいて、常に焦りながら、劣等感を持ちながら、今できることを精いっぱいやってます」。そう語る平さんですが、経歴を振り返ってみると十分な実力の持ち主であることがうかがえます。レストランでのキャリアのスタートは現在は岡山県に移転した広尾「ACCA(アッカ)」。1997年にオープンし林冬青シェフの造る料理は唯一無二で天才と謳われた人物。「今でもシェフには良くしていただいていて、実は店内の椅子は広尾で使っていたものを譲り受けたものなんです」。大学時代からアルバイトとして働き、そのまま社員になり、イタリアンのいろはを教わった師匠の1人。その後3年間イタリアへ渡りますが、どこもミシュラン星付きのレストラン。フィレンツェ「La Tenda Rossa(ラ テンダ ロッサ)」、ミラノ「SADLER(サドレル)」、シチリアはラグーサ「Ristorante Duomo(リストランテ ドゥオーモ)」。帰国してからは、当時「 Aroma fresca(アロマフレスカ)」の跡地にできた「Ristrantino Barca(リストランティーノ バルカ)」(現在は代官山に移転し「TACUBO」)の立ち上げに加わり、下馬「boccondivino(ボッコンディヴィーノ)」のシェフとして務め2012年に独立しました。

自らの原体験をもとに郷土料理の新しい側面を示す、平流イタリアン

「最初にイタリアへ渡った時は、華々しいミシュランのリストランテに憧れがありました。そこでの修業である程度自信がついたのですが、東京に戻って来て考え方が180度変わりましたね。それまで感覚に頼って作っていたのですが、それでは東京では太刀打ちできないと。ちゃんと理論立てて料理を組み立てられるように、ゼロからまた勉強しました」。「リストランティーノ バルカ」を立ち上げた田窪大祐氏といえば、現在は代官山で薪焼き料理をウリにしたイタリアン「タクボ」を営むシェフ。和の食材を駆使し卓越した味作りのテクニックで知られる「アロマフレスカ」原田慎次氏の薫陶を受けた人物で、東京のイタリアンの最前線を走り続けています。そこでロジカルなイタリアンを学んだあと、下馬の「boccondivino(ボッコンディヴィーノ)」をシェフとして任されます。「なんでも自由にやらせてくれて、本店の『Parentesi(パーレンテッシ)』と同じくピッツァも焼いていたんです。ピッツァ好きの方たちからも、かなり好評価をいただいて、お客さんの幅も広がりました」。ここでは修業時代とはうってかわってカジュアルなイタリアンに。「今まではリストランテにピッツァはいらないと思っていたのですが、お店を続けていくうえでピッツァの位置づけを改めて体感しました。ピッツァはお店の門戸を広げてくれる。最初はピッツァ目当てでも、他と違う美味しさを感じてくれれば、他の料理も受け入れてくれる。独立してもピッツァは出そうと決めていましたね」。

独立してからは「外に出なければ成長が止まってしまう」と、国領から積極的に出て行き、同世代の料理人やソムリエ、生産者たちと交流をするようになりました。その同業者たちも、口々に「Don Bravo(ドン ブラボー)」を薦めます。その理由はここでしか食べられない、平さんならではのイタリア料理がいただけるからに他ならなりません。日本の食材や、味噌や梅などのいわゆる和の食材を使っていることは特徴的ですが、そこには確固たる平さんのイタリア料理観があったのです。「やはりイタリア料理の根幹は郷土料理にあって、日本のように南北に長いイタリアは地域ごとに異なる食文化を持っているんです。今は郷土料理の新しい側面を探すことに面白みを感じています」。

店内には平さんが一目惚れしたという、アーティストの松島純さんの作品が飾られています

例えば「トリッパの煮込み」。脂っぽさをカットするために辛みを加えるクラシカルな煮込みに、ベッタラ漬けとパウダー状にした八丁味噌を合わせて甘味でバランスをとる。イタリアンは基本料理に砂糖を使いませんが、ボロネーゼソースに砂糖を入れて牛の旨みと砂糖の甘味を合せたり。「煮込みは、上野のガード下で食べるようなモツ煮込みをイメージして。ボロネーゼは、『Gris(グリ)』とのコラボディナーの時に鳥羽さんからアドバイスをもらったのですが、すき焼きのような甘い美味しさに。どちらも日本人のDNAに刷り込まれているくらい絶対美味しい組み合わせだし、イタリア人が食べてもきっと新しい美味しさを感じてもらえるはず」。“再構築”ではなく、“新しい側面を探す”というのは、つまり自分のこれまでの食体験とイタリアの郷土料理を照らし合わせるということ。「2016年に数年ぶりにイタリアに行ったんです。その時に街場のレストランで食べた郷土料理に、涙が出るくらい感動した。小さいころから郷土の料理を食べ続けて、お母さんが作ってくれて、自分でも作ってきた、そんなイタリア人に同じ土俵では勝てないですよね。それならば自分にできるイタリア料理ってなんだろうと考えた時、自分が辿ってきた食体験しかないなと。それ以来、味噌とか梅とか砂糖とか使うことにためらいがなくなりました」。

一緒に写っているのは平さんとともに厨房に立つ藤井淳利さん。奈良から上京し、食べ歩きしながら修業先を探す中、ドンブラボーの料理とスタッフの雰囲気に惹かれて1月から働き始めている

「建築でもアートでも同じだと思うんですけど、昔から残っている作品や技法は、今でも全く同じことをやっているはずがないと思うんです。違う時代、ましてや違う風土で育った違う人間が、同じことを再現することが伝えることなのか?という疑問を持ったんですね。イタリアの郷土料理を自分が伝えるにあたっても、自分なりの新しい解釈を加えることも、伝えることなんじゃないかって。そのほうが自分にとっても楽しいですし」。イタリアで体験してきた郷土料理へのリスペクト、東京イタリアンのロジカルな考え方、東京随一のピッツァ、そこに自らの食体験を重ねあわせた今の平流イタリアンが組み合わさって、東京においても類を見ない「Don Bravo(ドン ブラボー)」というレストランができているのです。「けっこう時期によって考え方がかわるので、周りの人たちの刺激を受けながら、変わり続けると思います」と平さん。今の彼が作るイタリア料理をいち早く食べに行くべき、そんな風に色んな人が「Don Bravo(ドン ブラボー)」を薦める理由がわかったような気がしました。

そんな平雅一さんに紹介してもらった必需品は「オニバスコーヒーのコーヒー&アメリカンプレス」、「鳥海 海の泉の塩」、「安部農園の全粒粉」、「The Dorのお茶」の4品。それぞれのストーリーは次回ご紹介いたします。

>足跡レストランの「Don Bravo」の記事はこちら
http://foodport.jp/feature/28336.html


>後半:平シェフの必需品のご紹介はこちら
http://foodport.jp/people/28481.html

Don Bravoドン ブラボー

Don Bravo

住所:
東京都調布市国領町3-6-43
TEL:
042-482-7378
営業時間:
11:30~14:00LO、18:00~22:00LO
定休日:
水曜日
URL:
http://www.donbravo.net/

Photo:よねくらりょう

更新: 2017年5月1日

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