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心に響く「時代」や「暮らし」
|100年後まで残したい料理本[7]|

100年後まで残したい料理本
〔アーティスト・朗読家〕前田エマさん

様々な方に「100年後まで残したい料理本」をお聞きしてきました。そもそも「料理本」とは曖昧な言葉ですが、「料理が素敵に描かれている本であり、時代、個人の嗜好・ライフスタイルなどが『料理』を通じて伝わってきたり、『料理』の存在が作品の味付けになっている本のこと」。そんな風に言うことにしました。例えば“主婦のバイブル”と呼ばれたレシピ本、食通の作家による随筆もアリです。時代を切り取り、人生を写し出し、読み手の暮らしにヒントをもたらすことは、「料理本」ならではの可能性。人々の心に響く、価値ある「料理本」を広い価値観で集めてみれば、見えてくる何かがきっとある。そして、やがて「料理本大賞」みたいな評価軸が生まれるなど、1ジャンルとして「料理本」がさらに育っていったら面白いと思うのです。

〔アーティスト・朗読家〕 前田エマさん

写真でエマさんが手にしているのは5冊。 実はここで紹介している2冊以外、あと3 冊選んでくれていたのです。すべて絵本 で、『ふたりはいつしょ』(文化出版局)、『う ちにかえったガラゴ』、『バムとケロのにち ようび』(いずれも文漢堂)

[写真の場所]カフェ・アンセーニュ・ダングル 自由が丘店
自由が丘という街ではなかなか貴重な正統派珈琲店。フランスのクラシックな家具やアール・ヌーヴォーのランプによる落ち着いた雰囲気の中、ネルドリップの珈琲が楽しめる
050・5868・3350 東京都目黒区自由が丘1・13・6 鳥井ビル1F 10:00~23:00 無休

そこに至るまでの物語と背景、「想像力」が味を膨らませる

“かえでの木から採った蜜を雪にかけて食べると春の味がします”という一節を読んだ時、「春の味ってどんなだろう」って。子どもの頃から妄想ばかりしていたというエマさんの豊かな想像力を刺激する、この描写こそが『すばらしい季節』を料理本として選んだ理由。「数カ月前までオーストリアに留学していたのですが、向こうで野菜の新たな美味しさと出会いました。それは、行者ニンニクやホワイトアスパラガスなど、今まで馴染みのなかった春の味。季節を味わうように、スープやソテーにして、それはもうたくさん食べました」。かえで蜜と氷が春の味がするのは、厳しい自然の中で春を待ちわびる心そのものであったように、異国の地で出合った新しい美味しさは、エマさんにとってきっと春の味そのものとなるのだろう。 自分に重ね合わせて読んだというのが『おやすみなさいフランシス』。最初に読んだのは保育園の頃。小さなアナグマのフランシスが寝るまでを描いたストーリーだけれど、エマさんの記憶に残ったのは、フランシスを寝かしつけた後、両親が居間でケーキを食べているシーン。「まさに同じような経験があって。うちの居間では、美味しいチョコレートやお酒を愉しむ両親の姿がありました(笑)。子どもの頃は夜という時間への憧れもあり、夜中に大切な人と何かを食べる行為が特別素敵に思えた。早く大人になって、私も素敵な夜の時間を過ごすことを夢見ていました。でも。実際に大人になった今、夜に食べるケーキは、あの頃イメージしていたほど特別ではないかも…」。 きっと、夜に食べるケーキの味はシチュエーションと大人への憧れの気持ちとが合わさって大きく膨らんでいたことだろう。残念な気もするけれど、絵本を開けば、あの美味しさはそこにある。 料理を語るのは美味しさだけではない。食べるまでの背景や物語がそこにあることで、味は立体感を増し、読み手の中で大きく膨らむ。料理本らしからぬ絵本は、エマさんの想像力によって立派に料理本になるのだった。

SELECTED BOOKS

ターシャ・テューダー文・絵 末盛千枝子・訳  現代企画室・刊 1,620円

すばらしい季節

農場で暮らす女の子、サリーの周りには自然の恵みと命の輝きが溢れています。五感をめいっぱい使って、からだじゅうで四季の移ろいを感じるその日々からは、懐かしく豊かな「幸せ」が伝わってきます

ラッセル・ホーバン著 ガース・ウイリアムズ絵 松岡享子・訳 福音館書店・刊 1,188円

おやすみなさいフランシス

アナグマの子ども、フランシスは眠るのが苦手。天井の割れ目や揺れるカーテンが恐ろしいものに見えて、その度に起きてお父さんとお母さんのところに行って相談します。果たして眠ることができるのでしょうか?

〔アーティスト・朗読家〕 前田エマさん

〔アーティスト・朗読家〕 前田エマさん

1992年生まれ。美術大学で油絵を学びながら、アーティストとしても活躍。朗読をはじめエッセイ、写真、モデルなど多方面にわたり才能を発揮中。キャッチフレーズは「上からよんでも下からよんでも前田エマ」。10月3日(金)~5日(日)、荻窪・6次元にて前田エマ個展「アトリエE17のこと。」開催

Photo 佐藤航嗣(TRON)Text 森亜紀子
※こちらの記事は2014年9月20日発行『メトロミニッツ』No.143に掲載された情報です。

更新: 2017年4月19日

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