SPECIAL

食と暮らしを豊かにする特集記事はこちらです

心に響く「時代」や「暮らし」
|100年後まで残したい料理本[2]|

17人の100年後まで残したい料理本 Part2

まず、はじめに話をお聞きした17人は、仕事もライフスタイルもそれぞれ 全く異なります。しかし、「料理好き」(食べるのが好きも含む)または「読書好き」な方々です。そして、各自の価値観で、答えていただきました!「あなたにとって、100年後まで残し たい料理本は何ですか?」

09 〔フードディレクター〕 野村友里さん

料理歳時記 辰巳浜子・著 中公文庫 

著者は、料理研究家・辰巳芳子さんの母、浜子さん。「歳時記」と銘を打ち、四季の移り変わりに沿って旬の食材を活かした料理を紹介。作り方を事細かに記したいわゆるレシピ本とは違って、忘れてはいけない日本人の心が詰まっています。幼い頃、曾祖母や祖母、そして母から、童謡を歌ってもらうかのように聴かされていた料理にまつわるあれこれが、形になったような1冊。読み進めていくうちに料理の匂いと一緒に季節の匂いも感じられ、幼少期の記憶と体験が重なります。

料理心得帳 辻嘉一・著 中公文庫

京都・東山の懐石料理店「辻留」の2代目主人の食説法。味の加減と食べ加減、ひらめきと勘、盛りつけのセンス、買い物上手、昔の味と今の味、折々の素材と味わいを堪能する献立と心得までの全106題が載っています。昔と比べて食材の旬が見極めづらくなった昨今ですが、素材本来の走りや名残を知っておくだけで季節の移ろいを感じられたりするもの。台所から季節を感じられることは豊かなことだと思うのです。そこで100年後まで残したいと思うのがこの本でした。

〔フードディレクター〕野村友里さん
フードクリエイティブチームeatrip主宰。ケータリングフードの演出や料理教室、雑誌での連載やラジオ出演などを通し、食がもつ可能性を伝えている

10 〔料理研究家・書評家〕 土屋敦さん

おそうざい十二カ月 小島信平・著 暮しの手帖社・刊

日本の家庭料理本の定番中の定番。かつて京都で主夫をしていた3年間、ほとんど外食せずに料理を作っていた頃に愛読していた1冊。日本の料理の基本的な考え方が体感としてわかり、薬味の使い方1つで料理がぐっとおいしくなることなどを痛感させられた。今はこの本に書かれているようなやり方で料理を作ることはほとんどないが、戦後の日本の家庭料理の基本的な形や考え方を知ることは、今、料理を仕事とする上でも大いに役立っている。

〔料理研究家・書評家〕 土屋敦さん
元々はライター・編集者だったが、主 夫として日々の料理に取り組んでいる うちに、いつの間にか料理研究家に。 2011年からは書評サイト『HONZ』の 編集長となる。近著は、『男のパスタ 道』(日経プレミアムシリーズ)

11 〔郷土菓子研究家〕 林周作さん

旅行者の朝食 米原万里・著 文春文庫

ロシア語通訳の第一人者として活躍した米原万里が、古今東西、主にロシアのヘンテコな食べ物について薀蓄を傾けるグルメエッセイ集。食の探究心を刺激され、食べることの楽しさを考えさせられる。中でも著者が特に愛し、追求したお菓子が「ハルヴァ」。ハルヴァはゴマやヒマワリの種などと砂糖・植物油などを練り合わせたペースト状のお菓子で、東欧やロシアで出合える郷土菓子「ハルヴァ」の記述が最高(ちなみに、この本とはハルヴァを調べている時に出合いました)。

〔郷土菓子研究家〕林周作さん
郷土菓子研究社代表。パン屋勤務の後、日本を離れて旅へ。自転車で世界各国をめぐりながらあらゆるお菓子を食べ、味を伝える郷土菓子職人となる。郷土菓子専門フリーペーパー『THE PASTRY TIMES』も発行

12 〔料理研究家・管理栄養士〕 舘野真知子さん

置く・休ませる 脇雅世・著 [品切れ・重版未定]

「手早く」「ぱぱっと」とは逆の、時間がおいしくしてくれるレシピを紹介している料理本。「漬物、ケチャップ、スープストックなど保存食や手間をかけて作るものなどの作り方を知りたい時に紐解く本です。私の得意分野の発酵につながりますが、食材を丁寧に仕込んだり、自然に任せて変化させたり、ゆっくりとおいしい時を待つようなメニューばかりが紹介されています。この本と出合った当時、忙しく働いていた私にとっては、そのような手間ひまが、とても贅沢に感じました。なんともレトロ調な写真と落ち着いた雰囲気の本に目を奪われ手に取りましたが、そんな時代を経てゆっくりと時を待つ料理を大切にできる歳になり、改めて本を開くことも多くなりました。

アイルランドのおいしい毎日 松井ゆみ子・著 [品切れ・重版未定]

1年の半分をダブリンで、もう半分を東京で暮らす著者が、新鮮な素材で作るアイルランドの温かい家庭料理や食べ物にまつわる場所を紹介している本です。2001年にアイルランドの料理学校に留学をしたのですが、その準備期間中、憧れのアイルランドに思いを馳せていた頃に出合いました。まだインターネットが充実していない時代で、留学先の情報を得るのは本が中心。フォトグラファーでもある松井さん(著者)が撮ったおいしそうなお料理の写真やアイルランドの方々の生き生きとした食習慣などに関するこのエッセイにワクワクと胸躍らせました。日本人目線で書いたアイルランドの食や文化、時にはレシピあり、そしてイラストありでネットでは感じない温かさを感じます。今、読んでも色褪せない内容と写真の数々が、残念ながら実現できていないアイルランドを再訪したいと思わせてくれる本です。日本を飛び出して料理を学んでいた時を思い出し、今の若い人たちにもどんどん海外に出てチャレンジしてほしいという気持ちを込めて選びました。

〔料理研究家・管理栄養士〕舘野真知子さん
「六本木農園」の初代グランシェフを努め、現在は日本の良いものを伝える料理教室を多数開催。日本の農家支援として、料理を通して消費者とつなげる橋渡し役としても活動中

13 〔デザインプロデューサー〕 黒崎輝男さん

味噌汁三百六十五日 辻留 辻嘉一・著 [品切れ・重版未定]

昭和34年に刊行されたもの。著名な懐石料理人がだしのとり方、味噌の作り方、具材の切り方から椀のことなど、味噌汁にまつわることを何でも教えてくれる。まさに、日本の味の作り方。こうしたお味噌汁を毎日の食卓に、昔の人は感性が豊かだったんだなと思う。ちなみに、表紙の題字は北大路魯山人による。

el Bulli Adria Ferran著 洋書

食をアートに見立てて料理をアートの領域に昇華させた初めての本。歴史的に見て、ここまで現代美術のようにガストロノミーを持って来たことは凄い。エルブリ最盛期の面目躍如。1983〜2002年の「エルブリ」の全レシピを公開した本で、料理を年代ごとに「スナック」「プレート」などの7つのジャンルに分け、カタログ化した。多くの料理人に影響を与え、世界中をあっと驚かせた発想法が凝縮された1冊。

〔デザインプロデューサー〕 黒崎輝男さん
流石創造集団株式会社C.E.O。 「Farmer's Market」「246Common」 「みどり荘」など、東京の今をつくるプ ロジェクトをいくつも仕掛けている。 料理も得意で、食べた料理の作り方 まで想像してしまうクセも

14 〔書家〕 華雪さん

京のお番菜(カラーブックス) 千澄子・著 [品切れ・重版未定]

著者は武者小路千家9代家元千宗守の娘で、大正9年生まれの茶道家・懐石料理研究家。生前は新しい懐石や和菓子を創作し、その著作も出しています。この本は小学校に入り、料理に興味を持った頃、母が使っているのを見ていて、自分でも眺めるようになりました。京都の時候に合わせた料理や食材を、親しみ深い語り口で紹介されているのも楽しい。中でも、母が繰り返し作っていた『梨ときゅうりの胡麻和え』は、過ぎゆく夏と淡い秋の気配を感じさせてくれるこの時期に食べたくなるお番菜です。

立原正秋の空想料理館 立原潮・著 小沢忠恭・写真 メディア総合研究所・刊

食通としても知られていた作家・立原正秋の息子で料理人の立原潮が、父との懐かしい想い出とともに料理を紹介している1冊。鰯、豚足、牛すじ、香りの強いせりやしそ…そんな一癖も二癖もある食材を、味覚に鋭い父のために、息子は旬を逃さず手間をかけ、調理する。そうして器に潔く盛りつけられた料理の写真に添えられた息子と父の一皿をめぐるエピソードを読んでいると、自分と母との間の料理にまつわる記憶を思い返すきっかけにもつながっていきます。

Photo 水谷達朗

〔書家〕 華雪さん
京都生まれ。個展を中心に活動。刊行 物に「ATO跡」(betweenthebooks)、 『書の棲処』(赤々舎)、『石の遊び』 (平凡社)など。書籍の題字やブラン ドロゴも手がける

15 〔森の図書室〕 森俊介さん

聡明な女は料理がうまい 桐島洋子・著 アノニマ・スタジオ刊

“すぐれた女は必ずすぐれた料理人である〞という断固たる偏見から始まる本。村上春樹さんがカキフライを通して自己を表現したように、料理を通して桐島洋子さんという1人の人間がクッキリと浮かび上がる作品です。料理に対する考え方からレシピ、ハウトゥークックまですべてが楽しい1冊。桐島洋子さんとは違くていい。けれど、料理、あるいは料理のようなものに対してこんな風に自分の哲学を持って生きていきたいです。すでに38年愛されている名著。

調理場という戦場 「コート・ドール」 斉須政雄の仕事論 斉須政雄・著 幻冬舎文庫

料理に興味があって、手に取ってみたら人生を教わった本です。そして、きっと多くの人に料理の向こう側を教えてくれる本だと思います。日本のフレンチレストラン最高峰「コート・ドール」のオーナーシェフ、斎須さんがフランスのレストラン6店舗で修行をして東京で独立するまでの自伝で、〝料理〞 が〝人間〞 をつくっていく過程を読むことができる1冊。ゆるぎない体験から生まれた文章は、静かだけど凄みがあります。誰が読んでも血肉としたくなる言葉があるはず。きっと100年後でも。

〔森の図書室〕 森俊介さん
小さい頃より根っからの読書好きで、 この7月、自身の本の城「森の図書室」 をオープンさせた。森の図書室は渋 谷にある“本と人がつながる場所”で、 深夜1時まで営業しているのも便利

16 〔管理栄養士・料理研究家〕 高田桃子さん

NHK洋風きょうの料理 飯田深雪・著 日本放送出版協会・刊 [品切れ・重版未定]

昭和 45 年初版発行の洋風料理の草 分け的料理本です。著者の飯 田深雪はNHK「きょうの料理」の初 期から講師として出演、洋食の普及に 尽力された方。子どもの頃に母に作っ てもらった洋風料理はほぼこの料理本 のレシピだったと思います。ビーフス トロガノフやスウェーデン風肉団子な ど本当に美味しくて、大人になって結 婚したらこの本を持っていくんだと決 めていました。今も手元にありますが、 見返してみると1つひとつのレシピ が丁寧で、繰り返し試行錯誤して当時 の手に入る材料で作れるよう工夫され たんだなと感心します。いわゆる「日本 の洋食」が食べたい!と思ったらこの 本を開いてみることをおすすめしま す。100年後でも洋風料理が普及さ れた頃の美味しい洋食が作れること、 請け合いです。

江戸時代の和菓子デザイン 中山圭子・著 ポプラ社・刊

江戸時代半ば、大名家や公家、豪商が上菓子を注文する際に使った和菓子の手製カタログ帳とも言える『菓子絵図帳』をオールカラーで紹介している本。花鳥風月のモチーフが美しくて、見ているだけでワクワク心躍ります! 森村泰S昌氏による帯書き「おいしい美術史」という言葉に集約される、日本人の繊細な美意識の塊である和菓子の世界を100年後の日本にもぜひ受け継いでいって欲しいです。

〔管理栄養士・料理研究家〕 高田桃子さん
レシピ本を中心に料理関連の古書を 販売している、オンライン料理古書専 門店「Books cardamon」の店主で もある。古今の料理文化を楽しむ「世 界の祝祭料理を楽しむ会」を主宰、 食にどっぷりの生活を送る

17 〔古本屋店主〕 幸田岳さん

私の食物誌 吉田健一・著 [品切れ・重版未定]

作家による料理に関する随筆と言えば、池波正太郎の『散歩のとき何か食べたくなって』や子母澤寛の『味覚極楽』、獅子文六の『飲み・食い・書く』、檀一雄の『檀流クッキング』、山口瞳の『行きつけの店』など数多くありますが、私が特に好きなものを挙げるとすれば、吉田健一の『私の食物誌』になります。読売新聞に連載したものに追加して1972年に刊行された本で、本長浜の鴨、神戸のパンとバター、飛島の貝、近江の鮒鮨、瀬戸内海のままかり、広島の牡蠣、新潟の筋子、金沢の蟹など、北は北海道から南は鹿児島まで、日本各地の食物を1つにつき2ページで紹介しています。晩年に近い作品ですが、題材が食べものという身近なものであることや、1つひとつが短くまとめられているため、独特のまどろっこしい語り口はあまり気にならず、吉田健一の本の中では読みやすい部類に入るのではないでしょうか。取り上げられている料理や食材は地域と紐づいており、その土地の歴史、文化、雰囲気とともに論じられ、そして度々それらが失われていくことの無念がつぶやかれます。反面、どんな料理でも結局は「旨いものは旨い、ただ、それだけで十分」という著者の哲学が全体を貫いています。そうした失われていくものへの憂いと、その中での作者の変わらない気持ちが表れているところが、この本を数ある料理随筆とは一味違うものにしているのではないかと思います。

堀井和子の気ままなパンの本 堀井和子・著 [品切れ・重版未定]

1988年に白馬出版から刊行された堀井和子のレシピ本のシリーズの中の1冊。表紙は厚紙によるソフトカバーで、本文の紙質も少しくらいなら汚れても大丈夫なように普通の本より少し厚めの紙が使われており、ページを開いておけるようリングで綴じられているという、キッチンでページを広げながら料理をするということを目的とした作りとなっています。リング綴じのレシピ本は、昔、サンフランシスコに行った時に回った本屋さんでよく見かけて、何冊か買った記憶がありますが、日本ではあまり見かけないのはなぜなんでしょう? やっぱりコストがかかってしまうから、なんでしょうか? 堀井和子もこの後、これと同じような形の本を出してないですし…。とは言うものの、わたし自身は普段ほとんど料理をしないので、個人的にレシピ本を買って読むということはほとんどありません。ですので、絶版となってしまったこの本を持っているのは、ある意味、宝の持ち腐れとも言えます。内容的にはレシピだけではなく、ニューヨークで出合ったいろいろな国のパンなど、写真やイラストとともにエッセイも収録されているので、ページをめくっているだけでも楽しめます。カヌー犬ブックスを始めてレシピ本を扱うようになって、当時のレシピ本を見たりするようになってから、それらに比べてこの本がどれだけスタイリッシュだったのか知るようになりましたが、多分、それ以降に出たレシピ本を比べても、本の作りと内容のバランスにおいて、この本を超えるものは出ていないんじゃないかと思います。

〔古本屋店主〕幸田岳さん
料理のレシピやエッセイなどを中心に扱うオンラインの古本屋「カヌー犬ブックス」店主。「本の内容はもちろん、“もの”として魅力的な装丁の本は、たとえ電子書籍が主流になったとしても長く残していきたいです」

Text メトロミニッツ編集部
※こちらの記事は2014年9月20日発行『メトロミニッツ』No.143に掲載された情報です。

更新: 2017年3月15日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop