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アメリカの潮流を読む

|“食べる”を見つめる映画[16]
「食事」×「映画」最前線 前編
映画館でフルコースの時代

アメリカでは、“食事×映画”がトレンドです。それらは「シネマ・イータリー」、「ダインイン・シアター」、「ディナー・アンド・ア・ムービー」などと呼ばれ、様々なメディアで取り上げられて話題になっています。そんなアメリカのトレンドを追いかけてみました。

前菜からカクテルまで、映画館でフルコースの時代

映画興行収入の年間約1兆円を誇るというアメリカは、言わずと知れた世界第1位の映画大国。国民1人当たりが年間に映画を観る本数は平均4.5本だそうです(日本は約1.3〜1.4本)。

しかし、そんなアメリカにおいても映画館の年間売上げは年々低下の一途を辿り、アメリカ映画協会( M P A A )の統計を見れば、2014年は前年比約5%減といった具合。インターネット全盛の今、スマートフォン、タブレット、さらにホームシアターなど、これまで以上に様々な映画のプラットホームが生まれ、映画館は〝映画鑑賞〞以外にも何か新しい体験価値を求められているのです。

「そう、だからやはり何か付加価値を提供したいと思って〝シネマ・イータリー〞を始めました」。こう話すのは、美味しい料理が食べられる映画館、つまり〝食事×映画〞をコンセプトにした映画館の中で有名な「スタジオ・ムービー・グリル」(SMG)の経営者ブライアン・シュルツ氏。創業は、2000年です。「映画館に最高の映写機や音響、シートがあるのはマスト。それに加えて、前菜からメイン、デザートを揃えたレストランさながらの料理やカクテルを出すことで、『ワンストップショップ(ある分野において、関連するあらゆる商品を取り揃える販売形態のこと)』にしています」。SMGは、創設から15年で、現在アメリカ10州で全23館を展開(23館目はこの10月にオープンしたばかり)。「現代人は忙しい時代に暮らしています。そういう人たちに、1カ所ですべてが完結するというコンセプトが受け入れられたのでしょう。すぐに良い反響がありました」。このSMGを筆頭に、ナイトホーク・シネマ(2011年オープン)やAMCダインイン・シアターズ(2012年オープン)など、「食事×映画」のコンセプトを持つ映画館は他にも続々と登場しています。

先に、映画館収入は減少傾向だとお伝えしましたが、実は映画館の数だけを見ると状況は少し違います。全米映画館主協会(NATO)によれば、映画館数のピークは1996 年で7215館。この年を境に減少傾向にありましたが、2012 年の5317館からまた徐々に増えはじめ、2 0 1 4 年には5 4 1 3 館になりました。この増加の背景は、「食事×映画」がコンセプトの映画館が増えたことが理由の1つに挙げられそうです。

©Studio Movie Grill/Wade Griffith

Studio Movie Grill(スタジオ・ムービー・グリル)

2000年開業。「映画館でディナー」(農場から食卓まで一貫した安全管理を行う)をコンセプトに、慈善事業を通じて地域社会に良い影響を及ぼすことを信条としている。10州に23館設置

〝ディナー×映画〞は「シネマパブ」から派生した

「その昔、ホットドッグなどの軽食を出し、ディスカウント価格で鑑賞できるセカンドラン(二番館興行)の〝シネマパブ〞というスタイルの映画館がありました。その1つが、1978年にオープンした『アロマ・シネマ・グリル』です」。次に話を伺ったのは、1985年からいち早く〝食事×映画〞のコンセプト運営してきた映画館「エンジアン」の会長シグリッド・ティーキー氏。ティーキー氏いわく、〝食事× 映画〞の原型は、すでに1978年にあったそうです。「エンジアンで〝シネマパブ〞のコンセプトをベースに、軽食を洗練されたディナーに変え、二番館興行を封切り映画の上映に代えて新たなコンセプトで打ち出しました」。非営利の同館は、このコンセプトに加えて、映画を通じて地域の人々を楽しませ、地元人同士の交流を深める場を提供することを哲学とし、地元の人たちから圧倒的な支持を得ています。

「エンジアン」より少し後、1989年にオープンした「コモドア・シアター」は、1945年に建築された、国が指定する歴史登録財の趣のある建物が印象的な〝食事×映画〞の映画館。また、ルーカスフィルム社のジョージ・ルーカスTHXグループがデザインした音響設備を導入し、THX 認可を取得するなど、プレゼンテーションの素晴らしさでも有名です。「今、私たちの映画館の運営を手本にするために訪れる人たちが大勢います。私は現在、70歳ですが、様々な映画館でこのコンセプトや音響設備などを導入するために、1990年頃からアメリカ中を飛び回っていますよ」と言うのは、コモドア・シアターの経営者フレッド・ショーエンフェルド氏。さらに、「軽食より、今は本格的なレストランのメニューを出した方が、顧客のニーズに合うようです。おかげでうちも利益率が上がりました。しかし、今、40代以上の世代には〝ラグジュアリーシネマ〞が人気のようですね」

Enzian Theater(エンジアン・シアター)

1985年開業で家族経営の非営利映画館。コンセプトは「食べる、飲む、映画を観る」。何百年も生息するオークが林立する約3,500坪の敷地内には映画館、バー、カフェを併設。230席

Commodore Theater(コモドア・シアター)

1945年建築のアメリカ合衆国指定歴史登録財を映画館とし1989年に開業。世界最高のプレゼンテーションができるTHX認可。高品質の料理を手ごろな価格で出すことがモットー。508席

Text:大山真理

※こちらの記事は2015年10月20日発行『メトロミニッツ』No.156掲載された情報です

更新: 2017年2月14日

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